冷や汗カメラ
悪質なドッキリカメラってありますよね?
白風家の夕食の席。
「チャンネル変えてよ」
不機嫌そうな良美の言葉に、小較が首を傾げる。
「あれ、良美ってドッキリカメラって好きじゃなかったっけ?」
良美が頷く。
「芸能人相手のだったら好き。でも一般人相手のそれって、どうみても見下してる感じがあるから嫌いなの」
較も頷く。
「特にこの、橋本ってプロデューサーが作った番組のどっきりって、驚かすのが目的じゃなくて、素人が慌てる姿を笑いものにする事しか考えて無いから嫌だね」
小較が首を傾げながら、チャンネルを変えてから、偶々戻ってきていた、もう一人の同居人、夢斗に声をかける。
「カメラマンの夢斗さんは、どう思いますか?」
夢斗が呆れた顔をして言う。
「人の本質を掴むのには、丁度いいが、とった人間の悪意を感じるのは、確かだな」
小較も嫌そうな顔をする。
「関りたくないね」
強く頷く、較と良美であった。
その時、シシからの電話があり、その話は、終った。
「抗議の電話が大量にかかってきています」
ADに報告に橋本プロデューサーは、耳をほじりながら答える。
「いいんだよ、そんだけ反響があったって証拠だ。現に数値取れてるだろう?」
「確かに、30%は、いきましたが、引っかかった、素人へのフォローもしてませんし、訴えられませんか?」
橋本は、平然と答える。
「素人なんて、テレビに出れただけで嬉しいんだ。逆に金を貰いたいくらいだ」
ADが半ば呆れ顔になる中、橋本が言う。
「次の企画なんだがよ、不治の病で、目の前で吐血したら、人は、一億円払えると思うか?」
いやらしい笑みを浮かべる橋本であった。
数日後、較達のクラスメイトでクラス委員長の鈴木優子が、買い物からの帰り道、一人の倒れている男性を見つけた。
「大丈夫ですか?」
するとその男性は、咳き込む。
優子は、慌てて、背中をさする。
「救急車を呼びましょうか?」
それに対して、その男性は、首を横に振る。
「無駄だ。俺は、不治の病なんだ」
驚く優子。
「そんな! それでは、どうしてこんな所に?」
男性は、全てを諦めきった表情で答える。
「死ぬ前に、自由に外を歩きたかった」
優子が言葉に詰まっていると、男性が血を吐く。
優子が自分の服が汚れるのも気にせず、男性を支える。
「確りして下さい!」
顔を青褪めさせて、男性が言う。
「もう、お向かいが近いみたいだ」
優子は、今にも泣きそうな顔で言う。
「何か方法は、無いのですか?」
「一つだけ、しかし、夢物語だ」
男性の言葉に優子が言う。
「何ですか?」
男性が自傷的な笑みを浮かべて首を横に振る。
「言っても意味が無い事だ」
優子が必死に言う。
「出来ることなら何でもします。だから言ってください!」
男性が、困った顔をして言う。
「一億円。一億円あれば、私の病気を直す薬が買える。しかし、そんな大金は、なく。もう諦めるしか無い」
「一億円ですか……」
信じられない大金に、優子は、戸惑い、しかし確りとした目で、財布から虎の子の一万円を取り出し言う。
「今は、これだけしかありませんけど、きっと集めて見せます。ですから諦めないで下さい」
そういって、一万円を押し付けると、優子が駆け出す。
そして優子が完全に居なくなった所で、爆笑が起こる。
「一万円だってよ、そんなはした金でどうなるっていうんだ、馬鹿じゃねえの」
橋本が馬鹿にしきった顔でそういうと、男性、まだ無名な俳優、森本がもらった一万円をADに渡して言う。
「これで飲み物でも買って来い」
慌てるAD。
「そんな、使ってしまったら、詐欺ですよ」
橋本は、気にした様子もなく答える。
「訴えられたら、倍にして返してやるさ。とっとと行って来い」
ADが戸惑う様子を見せると橋本が睨みつける。
「この世界で生きて生きたいんだろう? だったらADは、言われた事をやってれば良いんだよ!」
そして言われるままに買い物に向かうAD。
「さて、何人引っかかるかな」
「今日の夕飯は、何?」
本当に買い物に付き合っただけの良美の言葉に、較が答える。
「夢斗さんが居るから、栄養つけるのに、ホルモンの煮込みを作る予定」
良美が少し嫌そうな顔をして言う。
「どうせなら、うなぎやすっぽんとかにならないの?」
較が指を振って言う。
「駄目駄目、本気で栄養つけるときは、内臓から強くしないと。その為には、やっぱりホルモンだよ」
そんな会話をしている二人の所に優子が来て言う。
「白風さん、お金貸して下さい」
その言葉に首を傾げる較。
「いきなりどうしたの?」
優子が慌てた様子で言う。
「どうしても一億円が必要なんです」
「いきなり大きく出たね、どういうこと?」
良美の言葉に優子が、先程あった男性の話をする。
「なんか大変そうだな」
納得しかけた良美を見て、呆れた顔をして較が言う。
「それびっくりカメラの類だよ」
驚いた顔をする優子。
「でも不治の病なんでしょ?」
「治る薬がある時点で、不治の病じゃないよ」
良美の言葉を較が切って捨てる。
「でも、血も吐いてたわ」
優子の言葉に、大きく溜息を吐く較。
「流石に血を吐くような患者を一人で外に出すほど、今の日本の医療制度は、いい加減じゃないよ。それに委員長の服に付いてるのって血糊だよ」
戸惑う優子に較が言う。
「因みに、お金とか取られた?」
優子が落ち込んだ表情で言う。
「家庭教師の先生にお礼を買おうと貯めていた、一万円を渡して来たわ」
較は、財布から一万円を取り出すと、優子に渡して言う。
「あちきが、これからその人の所に行って、取り返してくるから、委員長は、この事は、忘れなよ」
「それだったら自分で行くわ!」
優子の言葉に較が首を振る。
「自分からお金出して、自分でとりもどす所を撮影されたら、恥の上塗りだよ。ここは、あちきに任せておいて」
しつこく食い下がる優子を納得させ、帰らせたのを見てから良美が言う。
「どうするの? まさかと思うがまともな話し合いですませるつもりは、無いよね?」
較が頷く。
「あちきのクラスメイトにこんな事をして、ただですませるつもりは、無いよ。社会的に抹殺してやる」
「次のターゲットが来ました。今度は、二名です」
森本が出て行き、優子と同じ対応をその二人にした。
「そうですか、でしたら一億円出します」
幼い顔のポニーテール少女があっさり言う。
森本が驚いた顔をする中、その少女は、続ける。
「ただし、一億円を出す以上、洒落や冗談じゃすまなくなりますけどいいですね?」
森本が戸惑う中、男性のイヤホンから橋本の声が聞こえる。
『なにびびってる! そんなガキが一億円持ってる訳無いだろう!』
森本もその言葉に、役者魂を思い出して言う。
「当然です。その一億円があれば、生きられます」
ポニーテールの少女が、懐から小切手を出すと森本に渡す。
「銀行で換金して。それじゃあお大事に」
そのままさる二人の少女。
小切手を手に戸惑う森本の所に橋本が来て言う。
「小切手なんて、ふざけた冗談しやがる」
そう言って、小切手を破り捨ててしまう。
その頃、問題の二人の少女、較と良美は、家に向かって歩く中、良美が言う。
「あれでいいの? もっと何かしないの?」
較が笑みを浮かべて言う。
「こういうのは、時間が経ってからの方が、効果が高いのよ。だから、あちらが信じないように、態々小切手なんて回りくどい事をしたんだよ」
そして、数日が過ぎ、問題の番組の公開録画の日。
久しぶりのテレビ出演に緊張する森本の出番が始まり、画面に較達が出てきた所で、スタジオのドアが開き、較達が入ってくる。
「ここまでだよ、この詐欺テレビ」
較の言葉に、全員が驚く中、較が言う。
「あれは、嘘だったって事だね。覚悟は出来てるの?」
森本に詰め寄る。
森本が慌てて言う。
「これは、テレビのドッキリカメラだったんですよ」
曖昧な笑みで誤魔化そうとする中、較が睨み言う。
「一億円を受け取っときながら、そんな戯言が通じると思ってるの?」
較の迫力に怯む、森本に、橋本が舌打ちして怒鳴る。
「カメラ止めろ!」
そして橋本が較のところに来る。
「ガキ、今は撮影中だ、その邪魔をして、ただで済むと思ってるのか!」
それに対して、較が余裕の笑みを浮かべて言う。
「こんな詐欺の現場を放送で流せると思ってるの? ドキュメンタリー番組でもやるつもり?」
「ふざけるな、あんな偽の小切手で何を言ってるんだ?」
橋本が掴みかかるが、較が指を鳴らすと、数人のテレビでも有名な弁護士が現れる。
「それ以上すると、暴行の現行犯が追加されます。止めて下さい」
騒然とするスタジオ。
そして弁護士の一人が告げる。
「彼女、白風較が提示した小切手は、本物で、そこに映されている通り、一億円とかかれ、そこの森本氏に渡されています。これで、森本氏の発言に虚偽があった場合、十分な詐欺罪が適応されます」
その言葉に、スタジオが騒然とする中、森本が慌てる。
「そんな、これは、冗談だったですよ!」
弁護士が首を横に振る。
「本人にその事実を告げず、尚且つ、本人から事前に忠告もあった。この状態で一億円を受け取り、数日間返却がなされなければそれは、完全な詐欺です。そして、これが、このテレビ局の指示の元に行われていたとしたら、テレビ局全体で、一億円の金を騙し取る、詐欺行為を行った事になり、放送免許が無くなると思ってください」
橋本は、弁護士にすがりつく。
「冗談だろう? テレビなんだぞ、本当の事じゃないんだぞ!」
弁護士は、冷たく言い捨てる。
「本当のお金を受け取った時点、もうそれは、現実の犯罪になります」
そして、較が携帯電話で警察に通報した。
警察も最初は、戸惑っていたが、詐欺を行った明確な証拠と、有効性がある一億円の小切手が返却されていない事実を元に、関係者を逮捕する事になった。
「結局、放送局自体は、公式に謝罪し、番組製造のやり方の見つめ直しをする事で、何とか放送免許剥奪だけは、のがれたみたいね」
問題のテレビ局の番組をみながら良美が言う。
「主犯の橋本ってプロデューサーに全ての罪を押し付ける事で、他の人間は、無罪放免だよ」
較が、料理を運びながら言うと、小較が残りの料理を運びながら言う。
「それにしても、余罪も一杯出てきたね」
呆れた顔をして較が言う。
「自分達が遊びだから相手も冗談として受け止めてくれる、そんないじめを気軽にやるガキと同じ精神状態の年だけとったガキだったんだよ」
「本当にガキには、困ったもんだ」
頷く良美に小較が言う。
「我侭放題のガキにも困ったもんだけどね」
「なんだって!」
喧嘩を始める二人を放置して、一人食事を始める較であった。




