33.リリア
「かまわないよ。それで、今日呼び出したのは、二人に頼みがあるからだ。
入ってきなさい。リリア」
「はい」
陛下から呼ばれて部屋に入ってきた少女を見て驚いた。
金色の髪、水色の瞳の五、六歳くらいの可愛らしい子だった。
大きな目が少し落ち着かない感じでこちらを見てくる。
「この子はリリア。第一王女だ」
「「え?」」
「ロージー、ユリアス、驚くのは当然だ。
第一王女は公表されていない。
フレッドが国王になるのがわかっていたし、何かあってもマイケルがいた。
無理に王女として公表しなくてもいいだろうと判断していたんだ。
リリアは王妃でも側妃でもなく、女官の子だ。
子爵家出身の女官で、側妃にするのは難しかった。
その上、リリアを産んですぐに亡くなってしまった」
身分が低く、後ろ盾がない上に亡くなっているとなれば。
今まで公表できなかったのもわかる。
母親が亡くなった分、陛下が可愛がっているのか、
リリア様は陛下に寄り添っている。
「陛下はリリアが王女だと知っている公爵家に嫁がせるつもりだった。
マリージュの弟に。光属性だから身分は関係ない、ということにしてな」
「だが、フレッドもマイケルも国王にするわけにはいかなくなった。
母親の身分が、などと言ってる場合ではない。もうリリアしかいないのだ。
婚約者のケンバウム公爵家のリカルドを王配にすれば、マリージュとの仲もいい。
ルーニア国ともめるようなこともないだろう」
それはたしかに。マリージュ様の弟を王配にすれば、
両国の懸け橋になってくれそうではある。
「それで、頼みというのは、リリアの家庭教師を頼めないだろうか。
光属性と水属性の指導と、できれば淑女教育も頼みたい」
「私がですか?」
「ああ。本来なら王子と王女の教育は母親の生家が手配するんだが、
リリアを今までどおりに育てるわけにはいかない。
女王にするのだからな。
ジョセフからの話だと、ロージーは魔術も令嬢としての所作も完璧だと。
それにリリアをまかせるからには、信頼できるものじゃないと困る。
公表してなかった王女だからな……下手な貴族だと侮られかねない。
王弟の養女となったからには、身分としても相応しいだろう。
どうだ?頼めるだろうか?」
「わたくしで出来ることでしたら。」
本来なら子爵令嬢の私にできることなんてない。
だけど、王太子妃教育を終わらせている私なら無理ではない。
そんなことは知らないはずだけど、陛下と学校長の真剣な表情を見て、
これは断ることはできないと覚悟を決めた。
「ああ、頼んだ。
その代わりと言ったらなんだが、政略結婚の話は全部こちらで潰してやろう。
結婚したくないならそのままジョセフの後を継いで学校長になればいいし、
結婚したい男ができたなら、後押ししてやろう」
「ありがとうございます!」
良かった!これで変な貴族から求婚されることがない!
安心して生活できる。どんな褒美よりもありがたかった。
「ユリアスは、騎士団で魔術を教えてくれないだろうか。
ルーニア国での活躍は聞いた。
アステカニア王国でも治癒を使える者は必要だし、
何よりも身体強化や風を使っての速度強化は騎士として学ぶべきだろう」
「アステカニア王国騎士団での魔術使用は禁じられているのでは?」
「頭の固い連中がいるからな。上の方に。それも安心していい。
マイケルが勝手に騎士団を動かした時に、
わしの命令なしに動こうとした騎士団長や隊長たちは責任取って引退させた。
ハンドウイル家の当主もな。もう魔術禁止なんてことは言わせない」
「……ですが、俺はロージーの護衛です。
離れるようなことはできません」
「それも大丈夫だ。ロージーが王宮へ来てリリアに指導している時間、
ユリアスには騎士団で指導してもらいたい。
リリアに淑女教育している時間は、いくらユリアスでも部屋の中には入れない。
その間は近衛騎士たちが部屋の外で守っているし、危険はないはずだ。
それなら、どうだ?」
「わかりました。その条件でならお引き受けします」
「うんうん、頼んだ」
こうして私とユリアスは週に何度か王宮へと来ることになった。
魔術師学校での授業の無い時間を選んで、リリア様の淑女教育を始めることになる。
まだ幼いリリア様が魔術を使うのは難しい。
魔術の指導は淑女教育を終えた後になるだろう。
陛下とリリア様との話は終わり、
学校長と私とユリアスは魔術師学校へと戻ることにした。
用意された王宮の馬車に乗り込むと、一気に疲れが出てきた。
思わず力が抜けてしまった腰をユリアスに支えられる。
さすがに学校長の前でとは思ったが、そのままで良いからと先に言われてしまった。
「さすがに緊張してたようだね~。
リリアのことは俺から伝えることは出来なかったから、
余計に緊張させちゃったかな。ごめんごめん。
大丈夫だとは言ったけど、具体的なことは言えなかったんだ~」
「いえ、公表されていない王女様のことは言えませんよね。
緊張はしましたけど、無事に終わって良かったです」
「そう?ロージーもユリアスも仕事増えちゃうけど、大丈夫?」
「はい。光属性の授業は今のところユリアスだけですし、
水属性の授業がない時間に王宮に通うくらいなら大丈夫だと思います。
淑女教育も最近忘れそうになるので、おさらいする気持ちで頑張ります」
以前の私なら前世のことを思い出しそうなことは避けていた。
だけど、もうあれは過去のことだとわかっている。
もう思い出してつらい気持ちになることはない。
「そうか。ユリアスも大丈夫?」
「俺は大丈夫ですけど、フレッド様とマイケル様って王宮にいるんですか?
いるならロージーと顔を合わせないか、ちょっと心配です」
そういえば。フレッド様と顔を合わせたら何か言われそうだし、
マイケル様は……会うのも怖い。
一度ちょっと会っただけなのに騎士団を隣国まで向かわせるつもりだったって。
どう考えてもおかしな人としか思えない。
王位継承権をはく奪されたことも私のせいだとか思っていないかな。
「それは大丈夫。
まず、フレッドは王妃と共に辺境侯爵家に返されている」
「は?」「え?」
「王位継承権も無いのに王宮内にいさせるわけにもいかないだろう?
下手に王位を望まれても困るしね。
王子の教育は母親の生家に任されるってさっき説明されたでしょ。
責任取って面倒見ろってことだよ。
辺境侯爵家は王妃の兄が継いでいるし、その息子も優秀だ。
王妃と王子が戻ったからと言って後継ぎは変わらないだろう。
まぁ、肩身が狭いまま死ぬまで辺境から出られないと思うよ」
王妃様とフレッド様がそんなことになっていたとは。
でも、リリア様が王になることが知られたら妨害しようとするかもしれない。
そんな危ない人を王都においておけるわけがない。
「王宮にいないのはマイケル様もですか?」
「マイケルは北の塔に幽閉されてる。
勝手に騎士団を動かして隣国に送ろうとしたんだ。
ちょっとでも動いてたら処刑になってただろうね。
準備段階で止められたからかろうじて幽閉になったんだ。
側妃は離縁されて修道院に入ったそうだよ。
だから、どちらとも王宮内で会うことは無いから安心していいよ」
「……はい」「わかりました。」
まさか私が関わったことで幽閉されるとは……。
マイケル様がそれだけしてはいけないことをしでかしてしまったのはわかる。
それでも何となく、罪悪感のようなものを感じてしまう。
でも、二人の王子と会って揉めるようなことはもう無いとわかって、
本当に安心していいんだと思えた。




