32.帰国
久しぶりに戻ってきた研究室を見て、懐かしく感じた。
それほど長く留守にしたわけじゃないのに。
「帰って来たね……」
「ああ。学校長の所に行く前にシャワー浴びて着替えないとな」
「そうだね。じゃあ、一度部屋に戻るね」
私室に入ると、一月前と何も変わらない部屋だったけれど、
なんとなく空気がこもっているようで窓を開けた。
王宮の客室よりも狭いけれど、この部屋の方がやっぱり落ち着く。
シャワーを浴びて着替えてリビングに戻ると、
ユリアスはまだ私室にいるようだった。
ガシャーン
ユリアスの部屋から何かが割れる音がして、驚いてノックする。
「ユリアス!?大丈夫!?」
「うぁ!いや!何でもない!大丈夫っ!」
慌てるようなユリアスの返事を聞いて、納得はしなかったけれど、
本人が大丈夫だと言ってるのに中に入るわけにもいかない。
仕方ないのでユリアスが出てくるのをソファに座って待っていた。
少しして出てきたユリアスの顔が少し赤くて、
気にはなったけれど……先ほどの態度から考えると、
聞いても教えてくれなさそうだなと思った。
「じゃあ、学校長室に行きましょうか」
「ああ」
もう夕方過ぎの学校内には生徒が残っていなかった。
講師たちも研究室に戻っているようで、校内はがらんとしていた。
「失礼します」
学校長室に入ると、もうすでにお茶が準備されていた。
帰って来た時に門番に頼んで学校長に連絡はしておいたから、
待っているとは思っていたけれど。
「ああ、おかえり~。
今、お茶が入ったところだよ。座って話しを聞かせてくれるか?」
「はい」
「二人とも、隣国の魔術学校の研修お疲れ様。
ルーニア国の国王と魔術学校の学校長からお礼の手紙が来ている。
特に騎士団の危機を救ってくれたって国王からは感謝状も届いているよ。
もし何かあれば二人はルーニア国の恩人として名誉国民とするから、
いつでも逃げてきていいってさ」
「あーマリージュ様にもそう言われました。
もしダメだったら逃げてもいいそうです」
「もう逃げなくても大丈夫だとは思うけどね~。
そうか。マリージュも元気そうで良かったよ。
あの子は小さいころからフレッドのことで苦労させたからね。
友人と呼べる令嬢もいなくて。ロージーなら仲良くなれたんじゃないか?」
「はい!お友達になってもらえました」
「そうか、それは良かった」
「そのマリージュ嬢から手紙を預かってきました。どうぞ」
ユリアスが預かって来た手紙を学校長はその場で開けて読み始めた。
何が書いてあったのか、笑い続けている。
「うんうん、そうか。
ルーニア国では楽しかったようだね、ロージー。
とてもいいところだったろう」
「はい。いつか、マリージュ様が王妃になられたら、また会いに行きたいです」
「そうだな。俺もそのうち遊びに行こうかな。
さて、陛下へ挨拶に行かなければならないのだが……心の準備はいいか?」
「……はい」
「うん、じゃあ、明日は俺と一緒に謁見しに行こう。
二人とも今日は早めに寝て疲れを取っておきなさい」
「はい」「わかりました」
陛下との謁見は謁見室ではなかった。
学校長とユリアスと王宮へ向かうと、案内されたのは後宮の応接室だった。
普通の貴族では入れない場所だったために、緊張感は高まっていた。
「あぁ、礼の姿勢をとらなくていい。
顔を上げて」
陛下が部屋に入ってきたと思い、頭を下げて待っていたら、
すぐに上げるように言われる。
初めて陛下とお会いするのに、
そんな礼儀をかくような真似をしていいのか迷っていると、
学校長からも上げるように言われた。
「ロージー、大丈夫だよ。顔を上げて」
「……はい」
「ロージー・ベルファイン。今はロージー・エバーリングだったな。
まず、王子たちと婚約させようとは思って無いので安心しなさい」
「はい」
良かった。陛下がそう断言するというのなら、本当に無いのだろう。
「フレッドの王位継承権のはく奪は王命を騙ったということもあるが、
実際にはマリージュがルーニアの王妃になるからだ。
マリージュにあのように婚約破棄を言い渡した王子が国王になるなら、
同盟を破棄すると言われてな」
あぁ、なるほど。
だから王妃様や側近候補たちから私への嫌がらせが無かったんだ。
実際には私の証言は関係なかったのだから。
マリージュ様を大事にされるルーニア国王なら、
フレッド様が国王になったら間違いなく同盟を破棄するだろう。
その時に困るのはルーニア国ではなく、アステカニア王国のほうだ。
ルーニア国からの麦の輸入が止まってしまったら、国民の暴動が起きるだろう。
「それと、マイケルの王位継承権もはく奪することになった」
「え?」
「あれはロージーを妃にする気で、ルーニア国に行ったのが分かったら、
ルーニア国に書簡を送っていた。わしに内緒でな。
勝手に書簡を送りつけただけでなく、
ルーニアからロージーをすぐに帰す気は無いと返事が来たら、
騎士団を動かそうとしおった」
え?つまり……私を帰国させるために軍を動かしたってことですよね?
それってルーニア国に実際に軍を送っていたら、戦争になってたかもしれない?
そこまで考えたら血の気が引いて、ふらっと倒れそうになった。
後ろからユリアスに腕を支えられ、なんとか倒れずにすんだ。
「あぁ、倒れそうになる気持ちはわかる。
無理しないでユリアスに支えてもらっておけ。
ユリアスもいろいろと苦労かけたな。
認識阻害をかけなくなったようだが、
ルーニア国に行って心境の変化でもあったのか?」
「……そうですね。
かけていたのに気が付いていなかったのですが、
もうかける必要が無いと思ってかけていません」
「おや、気が付いていなかったのか。
そうか……わしのせいかもしれんな。
騎士団に入った時点で認識阻害をかけているのがわかったんだが、
光属性では目立ち過ぎてまずいだろうと思って、許可を出していたんだ。
ユリアスだけは王宮内でも魔術の使用を許可すると。
あの時に話しておけばよかったな」
「いえ、特に問題ありません。ご配慮ありがとうございました」
「かまわないよ。それで、今日呼び出したのは、二人に頼みがあるからだ。
入ってきなさい。リリア」
「はい」




