25.ミルフェ王女
「姫様の髪の色は聖女様のようですね。
亡くなった王妃様も、ミルフェ様の髪や目の色を見て、
聖女様みたいだわって喜んでいらしたのですよ」
「聖女?」
「ええ。金の色の髪と水を思わせる瞳、お隣の国の初代王妃となられた聖女様です。
とてもお綺麗な方だったそうですが、それだけではなく、
民のために魔獣との戦いに参加した勇敢な方だったそうです」
「聖女は騎士なの?」
「いいえ。傷ついた騎士や民を癒すために、戦いの場まで赴いていたそうです。
聖女様自身が戦うことはなかったでしょう。
今でも民衆たちは聖女様を崇め、光属性のかたを大事にしているそうですよ。
この国ではめったに見られないですけどね」
そうなんだ……私が聖女様みたいだとお母様は喜ぶんだ。
自分の髪を手に取ると、薄い土色をしている。
鏡を見ると、目は水色だった。
どちらも薄くてぼんやりした色。
魔力が強くないから、色もはっきりしていない。
王族なのにあまり役に立たないって思ってたけど、聖女様だったら民も喜ぶ?
「じゃあ、私は聖女になればいいんだわ」
聖女じゃないなんて、最初から知ってた。
でも、魔力の少ない土属性と水属性なんて、何の役にも立たない。
嘘でも聖女が王族にいると思ったら、民はそれで満足するんじゃないだろうか。
自分が聖女だと言い始めてから数年。
新しく入った侍女が「聖女と騎士」という本を持ってきた。
流行っているんだと聞いて、そんなに興味は無かったけど読んでみた。
やっぱり私は聖女じゃないな、なんて思ったけど、騎士にはあこがれた。
本当の聖女になろうとしたら、騎士は必要になるんだろうか。
私のそばには護衛騎士はたくさんいるけど、彼らはお父様に仕えているだけ。
私だけの騎士がいたら、どれほど心強いだろうか。
ユリアスがあらわれた時、本当に騎士が来てくれたんだと思った。
聖女だと言い張るのにも疲れて来ていたけど、彼がそばにいてくれたら。
もしかしたらお父様も私が聖女だって思ってくれるかもしれない。
そう思って、私のものになってほしいって伝えた。
結果として、私は聖女じゃないし、ユリアスは私の騎士になってくれない。
わかっていたことだけど、認めるのは嫌だった。
だって、ロージー様を聖女だって認めてしまったら、
私は聖女だって、今まで言い張ってきたことがなかったことになってしまう。
「いいからやりなさい!治癒なんて、光属性じゃなくても使えるのよ!
水属性持ってるのでしょう?
あなたの国の民を守るために負傷した騎士を助けることもしないで、
聖女だなんて言ってるんじゃない!
やったことないなら、こっちにきて見て覚えればいいでしょう!
あなたは聖女である前に王女なのよ!」
そう怒鳴られて、目が覚める思いだった。
聖女である前に王女。間違いなくそうだったのに。
ロージー様のそばで何度か治癒をかけるのを見て、
それが水属性が基本となってかけているのがわかった。
光属性の効果もあると思うけど、あれはほとんどが水属性の魔力だ。
じゃあ、私が使えるって本当なんだ。
覚えた治癒を騎士にかけるために外に出ると、そこではユリアスが治癒をかけていた。
ユリアスは光属性で治癒をかけている。
だけど効果で言えば、水属性のロージー様の方が優れている。
……光属性が聖女だって、私の勘違いだったのだろうか?
真剣な顔しているユリアスは少し怖く感じた。
そばに行くのはためらって、
少し離れたところで寝ている騎士に治癒をかける。
血が止まっていない傷口をゆっくりとふさいでいく。
少ない魔力でも続けていけばそれなりに効果は出る。
そう思って焦らずに治癒をかけ続ける。
ふとユリアスが騎士に話しかけられているのが聞こえた。
治癒しながら話をしているようだ。
「なぁ、ユリアス。
ロージー様と一緒にこの国で生きればいいじゃないか。
帰国するなんて言わないでくれよ」
「無理かな……確かにこの国は居心地いいし、
騎士団のみんなともうまくやっていけると思う」
「じゃあ、何でだよ」
「ロージーは、光属性を持っているからこの国でも大事にされるだろう。
だけど、ロージーが目指しているのはそんな立場じゃない。
ロージーは魔術師学校の講師だ。
光属性も研究しているけど、教えているのは主に水属性だ。
しかも生徒は貴族じゃなく、普通の平民たちなんだ。
ロージーは貴族なのに、毎日のようにぼろぼろになるまで練習していた。
おそらく水属性ならすべての魔術が使えるようになってる。
ロージーいわく、水属性は万能だそうだ。
結界を作ることも水刃のように攻撃することもできる。
治癒をかけることも、田畑を潤すこともできる。
国を豊かにする力だって言うんだ。
ロージーはそんな教え子が一人でも多くなるように努力している。
その夢を叶えるためにも、帰国しなきゃいけないんだ。
あの国はまだ苦しんでいる民が多いからな……」
知らなかった。
光属性を持っているのに、水属性をそんな風に思っていたなんて。
だから、水属性を持っている私をここへ呼んだのね。
王女として間違えているのは途中からわかっていた。
だけど、そこからどう直せばいいのかわからなくて、ただ癇癪を起していた。
私は……私にできることをすればよかったんだ。
聖女だなんて無理に大きく見せようと思わずに、
こうしてゆっくり治癒をかける自分でいれば良かったんだ。
「すみません……姫さま。ありがとうございます」
何人かの騎士にそうお礼を言われ、逆に申し訳なくなる。
もっと上手に治癒が出来れば、痛い思いをする時間を短くできるのに。
そうだ……ロージー様もユリアスももうすぐ帰国してしまう。
そうしたら、次にこんなことがあっても助けてもらえない。
少しでもロージー様のように助けられるようにならなくては。
次の日から騎士団に顔を出すと、
今までは嫌な顔をしていた騎士団長が笑顔で迎えてくれた。
「騎士団長……私、これから毎日ここに来るわ。
ユリアスに会いにじゃないわよ。
少しでも治癒を練習したいから」
遅いけど、ようやく自分が何をしなきゃいけないのか、わかった気がした。




