24.謁見
謁見室に呼ばれたと思ったら、国王から礼を言われる。
騎士たちを治癒したことで感謝していると。
「本当に世話になった」
「いいえ、こちらこそ、王宮でお世話になっている身ですから。
少しでもお役に立てて良かったですわ」
公式にお礼をと言われたが、こちらとしては駆け落ちしてきているわけで、
大事にされても困ってしまう。
そうミラージュ様に伝えた結果、謁見を非公式にしてもらうことができた。
謁見自体なくても良かったのだけど、国王が一度会ってみたいとおっしゃったらしい。
銀髪に茶色の目の国王は、おそらく無属性と土属性なのだろう。
そうすると、亡くなった王妃様は水属性を持つ方だったのだろうか。
「いや、本当にミルフェのことでは助かった」
「ミルフェ王女ですか?」
その言葉に首を傾げそうになり、国王の前だと思いじっと待つ。
あの時は緊急時だといえ不敬なことをしたので、
国王からお叱りの言葉を受けるかもしれないと思っていた。
「あの日以来、ミルフェは騎士団に治癒しに行くようになった。
まだ下手らしいがな、できることはしたいと言っていると聞いた。
しかも、自分のことを聖女だと言わなくなった。
おそらくロージー嬢を見て、本物の聖女というものを知ったのだろう」
「あの、わたくしはただの光属性なだけで、聖女ではありません」
国王にまで聖女扱いされては困ると、不敬になるかもと思いながら否定する。
もしこの国でまで誤解されるようなことになれば、帰国しても問題になるかもしれない。
「ああ、気にするな。
聖女というものがおとぎ話なのは知っておる。
だが、民衆の中では確かに息づいているのだよ。
その思いを受け止めてあげなさい。
ロージー嬢が自ら聖女と名乗っているわけではないのは、よく知っている。
マリージュからも話は聞いているからな」
「そうでしたか」
聖女と誤解されているわけではないとわかり、少しだけほっとする。
受け止めてあげなさいと言われても、それは難しいと思いながら。
「本当に来週には帰国してしまうのか?
もう少しこの国にとどまってくれてもいいのだぞ?」
「ありがとうございます。
ですが、あちらでの問題を片付けない限り落ち着きません。
義父からも帰ってくるようにと言われております」
「そうか……。
もし、向こうでの問題が落ち着かなかったら、
我が国はいつでもロージー嬢を受け入れよう。
もちろん、護衛騎士も一緒に、だ。
いつでも歓迎して迎え入れるので、何かあったら頼ってほしい」
「そうよ、ロージー様。
叔父様の保護でも難しいことがあれば、こちらに逃げてきて。
陛下と私が、どんなことをしても守るって約束するわ」
「ありがとうございます」
最初はマリージュ様が後妻に入ると知って、少しだけ可哀そうと思っていた。
父親と同じ年頃の国王に嫁ぐなんて、大変なことだろうと。
その上、マリージュ様よりも年上の息子までいるのだから。
だけど、こうして国王に寄り添っているマリージュ様を見ると、意外とお似合いで。
何気ない瞬間に微笑み合っているのを見て、幸せそうだなと感じた。
あの王子が王太子になることはないかもしれない。
この様子なら、マリージュ様がお子を生む日も近いような気がしている。
そしたら、国王はマリージュ様のお子を後継に選ぶのではないだろうか。
二十歳をこえても王太子に指名されていない時点で、
ベージェ王子もあきらめているのかもしれない。
その考えが正しかったと思ったのは、次の日のことだった。
「おい、お前。もうすぐ帰国するって本当なのか?」
また性懲りもなく朝食時に押しかけて来た王子に、微笑みを作るのも難しい。
顔が引きつってしまいそうになるのも仕方ないと思う。
「はい、来週には帰国する予定です」
「ふぅん。お前、王弟の娘ってことは公爵家だよな」
「はい。養女ですけれど」
「じゃあ、お前の所に婿入りしてやろう。俺を連れて帰れ」
「「は?」」
お前の所に婿入りしてやろう?連れて帰れ?
この王子は何を考えているのだろう?
あまりのことに言い返せずにいると、王子は話し続けている。
「この国はあの女が生む子が継ぐことになるだろう。
俺は新しく公爵家を作ることになるだろうが、それも面白くない。
だったら違う国に行って、父上とは違う場所でやり直したい。
お前は養女だと言うが、光属性なら実子と変わらない扱いだろう?
王子を婿入りさせることも難しくないはずだ」
え……言ってること自体はおかしくない?
今まであんなにおかしな発言ばかりしていた人なのに……。
いや、お義父様に打診せずに私に言う時点でおかしいのか。
あまりにおかしすぎたから、少しまともなことを言うだけで感心してしまった。
「お断りいたします」
「なんでだ!」
「お受けする理由がございません」
もし王子が変なことを言ったら、迷わず言い返してよいと、
国王からの許可を謁見時にいただいていた。
マリージュ様からいろいろと話を聞いていたらしく、心配してくれていたそうだ。
それに、私に発言の自由を許しただけでなく……
「いいかげんにしてもらえるか?
ロージーにつきまとうのはやめろって言ってるだろう」
同じように国王から許可が出ているユリアスが前に出てかばってくれる。
その背中に隠れるようにして、様子をうかがう。
「またお前か。
俺はその女に話してるんだ。お前は邪魔だ」
「いいや。今、断られていただろう。
ここまではっきりと断られてるんだから、あきらめろよ」
「王子が婿入りしてやるって言ってるんだから、光栄に思えよ。
国から打診されたら断れないだろう。
だからその前に俺から求婚してやったっていうのに」
「は?言っとくけど、国から打診されても王弟殿下は断るぞ?
あの人は政略結婚が嫌で教会に誓約したくらいだからな。
養女でも娘にしたロージーにそんなことさせるわけないだろう?」
「王族がここまで言ってるというのに、断ると言うのか!?」
ありえないという顔をする王子に、ため息しか出ない。
どこまで甘やかして育てたら、こんな王子になるんだろう。
さきほど少しだけまともだと思ってしまったのはなんだったのだろう。
「はいはい。話はそこまで!」
女官が呼んだらしく、マリージュ様が部屋に入ってくる。
何度かこういうことがあったので、マリージュ様もうんざりといった顔をしている。
「ベージェ王子、いい加減にしなさい。
まったく……振られてるのにしつこいですわよ」
「ふられてない!」
「きっちり断れていたでしょうに。情けない。
もてないのですから、あきらめなさい」
「もてない!?」
「ロージー様、はっきり言っていいですわよ。
ベージェ王子のこと、好きになれます?」
「いいえ。無理ですわ」
「なっ!?」
「ほらね。さぁ、ベージェ王子は部屋に戻して!」
マリージュ様が連れてきた騎士たちに指示すると、
ベージェ王子を引きずるように連れて行く。
騒ぐかと思ったが、なぜか固まっていて、おとなしく連れて行かれていた。
「また馬鹿王子が騒いでごめんなさい。
でも、明日からはもう来ないと思うわ。
あれだけ心を折られたら、しばらくは復活しないと思うから」
本当だろうかと思ったけれど、次の日からベージェ王子の突撃訪問が来なくなり、
ようやく静かに過ごせるようになったのだった。




