21.騎士団のみなさん
「多分、今日も絡まれてたと思うから、あとでユリアスに聞いてみましょう?」
「……わかりました」
とりあえず、今しなきゃいけないことは、騎士の皆さんを回復させてしまうこと。
そう切り替えて、倒れている騎士たちに治癒をかける。
起き上がった後、自分に何が起きたのかわからないといった感じで、
たいていはしばらくの間ぼうっとしている。
そのうち私が他の騎士に治癒をかけているのを見て、
自分にもかけられたのだと気が付く。
気が付いたら騎士の皆さんが作業を手伝ってくれていた。
動けない騎士をかかえて私のところまで連れて来てくれる。
広い演習場を歩き回って治癒をかけるのは地味に大変な作業だったので、
運んできてくれるのはとても助かる。
「手伝ってもらってすみません。助かります」
近くにいた騎士たちにそう言うと、逆に謝られることになった。
「いえいえ。こちらこそ、申し訳ありません。
体力も考えずにユリアス殿に挑んでいって倒れているのですから。
治癒をかけていただけるなんて本当にありがとうございます」
騎士団には治癒士がいないのだろうか。
光属性はいないと聞いているが、
治癒程度なら水属性か無属性でもかけられるはず。
そう思って騎士に聞くと、意外な答えが返ってきた。
「普段は騎士の中にいる治癒できるものがかけるのですが、
その者たちもユリアス殿に挑んで倒れてしまい。
最初の日は我慢していたようですが、次の日からは我慢できなかったようで」
なるほど。
倒れている騎士の中に治癒士を兼ねているものがいるらしい。
私がかけている最低限の治癒では、
その騎士が治癒を使えるほどには回復できていないだろう。
結局、今の状況で治癒できるのは私だけということになる。
「うーん。毎回、ユリアスが来るときは迎えに来ますね。
それで治癒かけて帰ります」
「本当ですか!ありがとうございます!」
数人の騎士たちが喜んで飛び上がっているのを見て、
やっぱり騎士団は楽しそうだと思う。
ユリアスは騎士に嫌気がさしたと言ってたけれど、
騎士団に対してもそうなのだろうか。
これだけ馴染んでいるのを見ると、
騎士団に戻っても大丈夫のような気がしている。
何よりも騎士団長を相手に戦っている顔がとても楽しそうで、
そんなユリアスを見るのは初めてだった。
「ふぅ。今日はこのくらいでいいですか……。
もうそろそろ帰らないとロージーが待ってると思うので」
「ロージー嬢なら、そこにいるぞ。気づいてなかったのか?」
「え?ロージー?」
どうやら私が演習場に来ていることに気が付いていなかったようだ。
それだけ戦うことに集中していたのだろうか。
私に気が付くとすばやく駆け寄って来てくれた。
「お疲れ様。すごい集中力ね。
私がいるのに気が付いていなかったのね」
「ごめん。もしかして、ロージーが騎士たちに治癒かけたの?」
「うん。さすがに土の上に転がしておくのも可哀そうになって。
これからはユリアスを迎えに来て治癒をかけることにしたわ」
「え?そうなの?
……わかった。少しは手加減するよ」
ちょっと残念そうに言うユリアスに、慌てて止める。
「ダメよ。皆さんユリアスに手加減されたいなんて思って無いわ。
全力で戦っていいわ。私が最後に治癒かけてまわれば済むのだから。ね?」
せめてこの国にいる間だけでも楽しんでほしい。
そう思ってユリアスに伝えると、ごめんってもう一度言われたけれど、
その顔はとてもうれしそうだった。
全ての騎士に治癒をかけ終わると、騎士団長から声をかけられた。
お礼にお茶でもというお誘いに、
私とユリアスとマリージュ様でお邪魔することにした。
騎士団長室は思ったよりもこじんまりとしていて、
出されたお茶が甘いミルクティだったのも意外だった。
「疲れていると甘いものを飲みたくなるのですよ。
菓子もありますので、どうぞ」
添えられた焼き菓子は騎士団長の奥様の手作りだという。
熊のような大男が小さなクッキーをシャクシャク食べているのが面白くて、
ついつい見ていてしまう。
それをマリージュ様に見つかり、笑われてしまった。
「こう見えても騎士団長は愛妻家らしいわ。
とても可愛い奥様なのよ。ふふふ」
「いや……お恥ずかしいです」
騎士団長と奥様の馴れ初めを聞きながら、
ゆったりとお茶をしているうちに、
先ほどの出来事を忘れていたことに気が付いた。
王女様に絡まれるって、本当だろうか。
「先ほど、王女様にお会いしましたが、
あの方が王女様で間違いないのですよね?」
「ええ。そうよ」
「王女様……十五歳って言ってませんでした?」
「ええ。小柄な上、言動があれなので、十五歳には見えないでしょう?」
「それは答えにくいですね」
十二,三歳にしか見えなかったけれど、王女様で間違いなかったのか。
王女様の話題になった途端に顔をしかめたユリアスと、
曇った表情になった騎士団長に、思い切って聞いてみることにした。
「ユリアスが王女様に絡まれているって本当?」
「そうだ。初日から絡まれたんだ。あれは強烈だった。
初対面なのに、待ってたわ、私の騎士、って」
「は?」
初対面なのに、待ってたっておかしくない?
そう思って騎士団長とマリージュ様をみると、同意するように頷かれた。
「王女様は、ご自分のことを聖女だと思われています。
そのため、いつか騎士が迎えに来るはずだと、
小さいころからおっしゃっていました」
「私もこの国に来た当初は驚いたわ。
十五歳にもなって、このアホは何を言ってるんだろうって」
「マリージュ様、王女様をアホって」
「だって、アホでしょう。
どうみても土属性なのに、髪の色をぬいて光属性だって言い張って。
この国の王族で光属性なんて生まれたら王妃の不貞を疑うでしょうに。
そんなことも考えないようなアホなのよ?」
「それは確かにそうですね。
亡くなられた王妃様が可哀そうです」
自分の娘が不貞を疑われるようなことを言ってると知ったら泣くだろう。
それを聞いた陛下は何も思わないのだろうか。
「国王陛下はそのことについては?」
「言ったらしいわ。馬鹿なこと言うなって。
それで大ゲンカして、それ以降は話をしていないそうよ」
この国、大丈夫なのかしら。
ああ、そうか。だからマリージュ様を王妃にするのね。
おそらく王子にも王女にもこの国をまかせられないのだろう。
「ユリアス、今日は何を言われたの?」
「いいかげん偽聖女は国に帰して、自分の専属騎士になれと」
「なるほど。私も帰れって言われたわ」
「演習場に来るとまた王女と会うことになると思うけど、大丈夫?
毎回のように押しかけてきて命令されるけど、俺は全部無視してる。
その分、ロージーに何か言いに行きそうで怖いんだけど」
確かにその可能性は高いと思う。
ユリアスに相手にされなければ、私に文句を言いに来るだろう。
あんな王女様だとは言え、一応は他国の王族。
失礼なことを言うわけにもいかない。
さぁ、どうしようか。
「私とお茶をした後だから、演習場までは私が一緒についてくるわ。
その後は騎士団から騎士をつけてくれる?
いくらなんでも毎回ロージーだけで治癒かけて歩くのは大変よ。
二人くらいは当番制にして残して、
治癒補佐としてロージーの手伝いをするように」
「わかりました。明日以降はそういたします」




