胃痛の特効薬と、とんでもない提案
自分の施療院へと帰ってきたセラフィーナとアルノーは、お茶を淹れて一息つくと、先ほど見てきた神殿長室の『大金庫』について話し合いを始めていた。
「あの大金庫、お布施を入れるにしては大きかったわね。私ならあの中で暮らせるくらいにね。あの大きさが必要なほど神殿にお金が集まるということの間接的な証拠ともいえるわね」
セラフィーナが背もたれに体を預け、思い出しながら呟く。
「ええ、まあ大きさだけは……。ですが、中身が詰まっているかどうかは分かりませんよ。見掛け倒しということもあります」
アルノーが冷静に指摘すると、セラフィーナは不満げに唇を尖らせた。
「あの古狸の神殿長が、素直に金庫の中を見せてくれるかしらね。絶対に隠し通そうとするわよ」
「一筋縄ではいかないことだけは確かでしょう。向こうから進んで中を確認せずにはいられないような『何か』でもない限り、開ける姿すら拝めないと思いますよ」
アルノーが何気なく言ったその言葉に、セラフィーナの目がきらりと輝いた。
「アルノー、あなた今、すごくいいことを言ったわ!」
「……え?」
「そうよ! 金庫を自分で開けたくなるような『動機』を、あっちに与えればいいんだわ!」
嫌な予感がしたのか、アルノーの顔が引きつる。
「……セラフィーナ様、お願いですから妙な魔法を使わないでくださいね?」
「魔法というよりは、ちょっとした暗示を掛けるのよ。例えば……『世の中に精巧な偽札が出回っているから高額紙幣は本物かどうかチェックした方がいい』とか、『金の含有量が極端に少ない悪質な偽金貨が出回っているから確認した方がいい』とかね」
セラフィーナは楽しそうに指を一本立てて、悪魔のような笑みを浮かべた。
「そんな噂を耳にしたら、あの大金庫に資産を溜め込んでいる人間なら、絶対に自分の目で確かめたくなるじゃない? よし、この線で作戦を考えてみましょう!」
「妙なことを仕掛けるのは勘弁してください……。ああ、考えただけで胃が痛くなってきた……」
アルノーは本気で頭を抱え、自分の腹を押さえた。そんな彼を見て、セラフィーナは「あら」と顔を覗き込む。
「胃痛? だったら今すぐ治してあげるわ。ちょっとそこに横になって」
「セラフィーナ様、お気持ちは大変嬉しいのですが……!」
アルノーは慌てて両手を振って距離を取った。
「私の胃袋を、他の獰猛な魔獣の胃袋に変えたりしないでくださいね!? それに……それに、罰ゲームみたいに私を『女の子』の身体にするのも、絶対に無しですからね!」
以前、彼女がつねづねアルノーの少女化を妄想していることを思い出して、アルノーは必死に防衛線を張る。
セラフィーナはそんな彼を見て、クスクスと楽しそうに笑った。
「心配しなくても大丈夫よ、今回は普通に治すわ。……でも、もし本当にアルノーが女の子になりたくなったら、いつでも言ってね? お望みの姿の超絶美少女に作り替えてあげるから」
「万が一、私が美少女になるときはセラフィーナ様はイケメン男子になってくださいよ」
「アルノー、それは契約と受け取ってもいいのかしら?」
アルノーの奇妙な切り返しにセラフィーナが爛々と目を輝かせたのはもちろんだった。
「冗談です。忘れてくださーーーい」とアルノーは叫び声をあげたのだった。




