神殿長の本性と、新しい施療所
「アルノー、神殿長をどう思う?」
神殿の長い回廊を歩きながら、セラフィーナは隣を行くアルノーに意見を求めた。
「話の分かる、いい神殿長ではないでしょうか」
アルノーはまっすぐ前を向いたまま、そつなく答える。だが、セラフィーナは目だけを楽しそうに光らせながら言った。
「私はね、アルノー。あの神殿長は見た目通りの『狸おやじ』だなって思ったわ」
「……それはまた、どうしてですか?」
アルノーがいぶかし気に眉をひそめ、セラフィーナの顔を覗き込む。
「神殿長室の奥に、黒光りした大金庫があったじゃない? あんな禍々しいほど大きな金庫、清貧を旨とする神殿にはどう考えても似つかわしくないなって思ったのよ」
「確かに、あの金庫は妙に目立っていましたね。しかし、中には歴史ある貴重な祭具などがしまってあるのでは?」
「さあ、それは分からないけれど……。次にあそこへ行ったら、あの金庫の中身をきっちり確かめましょう。……よし、今日はひとまずリュミエラの顔を見て帰るわよ」
セラフィーナは頭を切り替えるように小さく頷くと、足早に歩き出した。
神殿の奥深く、一般の者は立ち入りを禁じられている『聖女の領域』。
その境界に足を踏み入れたセラフィーナは、通りかかった聖女に声をかけた。
「リュミエラはいる?」
「これは、セラフィーナ様! 筆頭聖女様を呼んでまいりますので、こちらでお待ちください」
聖女の一人が丁寧に頭を下げると、奥へ向かって小走りにリュミエラを呼びに行ってくれた。
しばらくすると、美しい金髪を揺らしたリュミエラが姿を現した。
「セラフィーナ、よく来たわね。今日はどうしたの?」
「狸おやじ――じゃなくて、神殿長と神殿の新しい活動について話をしてきたのよ」
セラフィーナは悪びれもせず言い直し、事も無げに続けた。
「私を『臨時聖女』に任命して、貧民街で施術や癒しの活動を神殿の名でしてくれって頼まれたんだけど……その話、蹴ってきたわ」
「ええっ!? 蹴っちゃったの!?」
リュミエラが驚きに目を丸くする。神殿長からの直々の打診を断るなど、普通の人間には到底できない芸当だ。しかし、セラフィーナの交渉はそこで終わっていなかった。
「ええ。代わりにね、神殿の予算で貧民街に『神殿の出張施療所』を一つ作ってもらうように約束を取り付けてきたの。そこで、リュミエラが新しく決めた勤務時間のローテーションに沿って、若い聖女たちを交代で派遣して欲しいって頼んできたわ」
「まぁ……! でも、そうなるとセラフィーナは何をするの?」
リュミエラが小首を傾げて尋ねると、セラフィーナはいたずらっぽく、それでいて頼もしい笑みを浮かべた。
「私も、その神殿の出張施療所で、若い聖女たちと一緒に働くわよ。その方が面白そうでしょ?」
「あなたの合理的な考え方を若い聖女にも教えてもらえると助かるわ」




