神殿の事業計画?
「飾りきれないほどいただいた寄付品は、神殿の地下にある宝物庫にもどっさりと眠っております。実は、こうしたものをどう扱うかというのは、非常に難しい問題でしてな……」
神殿長はそう言って、立派な髭をなでながら心底悩ましげな顔をしてみせた。
「この応接室の飾り付けも、おいでになる高位貴族の方に合わせて、毎回飾り直したりしているのですよ。何しろ『我が一族が神殿に贈った家宝が、目立つ場所に飾られていた』というのは貴族にとって無上の名誉。逆に、お見えになった際にそれが見当たらなかったりしたら、あからさまにがっかりされるか、最悪の場合はへそを曲げてしまわれますからな」
「へえ、神殿も意外と裏で色々と気を遣って大変なのねぇ」
セラフィーナは、高級な焼き菓子をサクサクと齧りながら、寄付を受ける側ならではのめんどくさい煩雑さに同情の眼差しを向けた。
すると、今まで神妙に話を聞いていたアルノーが、ずっと胸に抱いていた疑問を我慢できずに口を開いた。
「あの……便乗して伺ってもよろしいですか? 神殿の豪華な調度が寄付なのは分かりましたが、神殿の純粋な運営費というか、神官や聖女の皆さんの日々の生活費はどうやって稼いでいるのですか? これ、実は私もずっと不思議だったのですが」
「ああ、それですか」
神殿長はアルノーの問いに、隠す様子もなくあっさりと答えてくれた。
「基本はやはり寄付金(お布施)が中心です。神殿では日々、貴族や平民の方々から祈祷を依頼されたり、病の平癒や旅の安全のために祝福を授けたりしますよね? そうした依頼に応じた際にお布施をいただくのです。具体的な金額のメニュー表などは表には出さないのですが、一応は暗黙の『相場』というものがありましてな。依頼者の方の懐具合(身分)に合わせて、相応の額を包んでいただく……そうした積み重ねが、我々の主な収入源となっております」
「なるほど、気持ち(時価)ってわけね。……でも、それってちょっと効率が悪くない?」
セラフィーナは不敵に目を細めると、身を乗り出してとんでもない提案を口にした。
「ねえ、いっそのこと、聖女がたっぷり神力を込めた特別製の『お守り』とか、高位の神官が直筆で書いた、ありがたい『お札』なんかを、定額で信者に売ってみたらどうかしら?」
「なっ……商売をしろとおっしゃるのですか!?」
神殿長は驚いて目を丸くした。
「今はそうしたものは、参拝に来られた方に無償でお配りすることが多いですからな……。急に値段をつけて売るとなると、神殿内でも『神聖な力を金に換えるなど、宗教的な抵抗感がある』と反対する者が続出しそうですが」
「でも、時代に合わせて何かを変えていった方がいいと思うわ。神殿もこれからは、もっとスマートに儲けましょうよ」
悪魔の微笑みを浮かべるセラフィーナに、アルノーが容赦のないツッコミを飛ばす。
「ちょっと、セラフィーナ様! さっき神殿の豪華さに文句をつけていたのに、今度は儲けろですか? そもそも、ご自分で『神殿は営利企業じゃない』って、以前に突っ込んでいませんでしたっけ!?」
「何言ってるのよ、アルノー」
セラフィーナはしれっとした顔で、高級なお茶を音もなくすすった。
「どんなに清らかな組織であっても、活動を維持するための経費は現実問題として掛かるの。それを自分たちでしっかり稼ぎ出さないと、長く活動を続けることなんてできっこないわ。持続可能性ってやつよ。だから、あくどい暴利はダメだけど、組織をより良くするための『適正な儲け』は、どんな綺麗事を並べるにしても絶対に必要不可欠なのよ」
「……言うことがいちいち現実的すぎて、ぐうの音も出ませんね」
アルノーが頭を押さえてため息をつく中、グラントール神殿長だけは「適正な儲け、持続可能性……」と、セラフィーナの放った言葉をまるで最先端の神託であるかのように、大真面目な顔で深く噛み締めているのだった。




