神殿の暴露と、最高位聖女の恥じらい
セラフィーナの「不敵な黙秘」によって一時騒然となった法廷。
エドガー王子はチッと内心で舌を打ちつつも、すぐに冷静さを取り戻し、次の手札を切った。
「では、次に証人として神殿長、アルケミウス・グラントール大神官の証言を要求します」
名前を呼ばれた瞬間、被告席のラヴィニア王妃がギラリと鋭い視線を向けたが、エドガー王子は構わず問い詰める。
「グラントール大神官。神殿に対し、国法で禁忌とされる『人格交換魔法』の開発を極秘裏に持ち掛けたのは、そこにいるラヴィニア王妃であると聞いているが、まことか?」
恰幅のいい身体を縮め、冷や汗をダラダラと流しながら、大神官はついに観念したように口を開いた。
「は、はい……。確かに、王妃様よりそのようなご依頼をいただいておりました……」
「グラントォォォーール!!」
法廷内に、地鳴りのような威嚇の声が響き渡った。ラヴィニア王妃が、形相を変えて大神官を睨みつけている。その凄まじい迫力に、大神官はひぃっ、と小さく悲鳴を上げて身をすくめた。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。大神官は震える声で言葉を続けた。
「し、しかしながら! その魔法は結局、完成をみなかったのでございます! 完成間近というところで、術式が制御不能となり……魔法の暴走という未曾有の事故が起きてしまいました。神殿の手には負えず、事態の収拾を、そこにいるセラフィーナさんに依頼した次第であります!」
その言葉を聞くや否や、ラヴィニア王妃は勝ち誇ったように叫んだ。
「お聞きになりましたか、アルドリック王よ! つまり魔法は未完成! この世に存在しない術で、どうして私が罪に問われねばならないのです!」
「……静粛にしなさい、ラヴィニア」
あまりに見苦しい王妃の物言いに、アルドリック王がこめかみを押さえながら、低く冷徹な声でたしなめた。
エドガー王子はふぅと小さく息を吐き、落ち着いた声で大神官へ尋ねる。
「では――セラフィーナはその暴走事態を収拾できたのか?」
「それはもう、見事に! 最後に、なぜかセラフィーナさん自身がリュミエラ筆頭聖女と入れ替わってしまうという、とんでもないハプニングはございましたが……それも彼女の手によって、すぐに解消いたしました」
「なるほど。つまり、術式はすでに完成し、行使された実績があるということだな」
エドガー王子はニヤリと笑うと、視線を隣の美しい少女へと移した。
「次に、筆頭聖女リュミエラ様の証言を伺いたいと思います。リュミエラよ、その人格交換魔法の暴走時に、あなたが実際に体験したことを話してください」
一歩前に出たリュミエラは、法廷の全視線が集まる中、凛とした、しかしどこかバツの悪そうな表情で語り始めた。
「はい……。魔法が完成間近となった際、試験的に動かしてみようと魔法陣を展開したところ、突然制御を失って暴走いたしました。その時、神殿内にいた者たちの人格が無作為に入れ替わってしまったのです。私は……不運にも神殿長と入れ替わってしまい、セラフィーナさんが駆けつけてくださった時は、神殿長の、あの……むさくるしいお身体のままでお会いすることになり、大変恥ずかしかったことを覚えております」
リュミエラが当時の屈辱を思い出して頬を赤らめると、エドガー王子はふむ、と顎に手を当てた。
「ということは……その時、本来のリュミエラさんの美しい身体には、そこの神殿長の人格が入っていた、ということですか?」
「……あ」
リュミエラがハッと口を押さえた瞬間。
証人席では、神殿長グラントール大神官が、頭から湯気が出そうなほど顔を真っ赤にしてフリーズしていた。
「グラントール、お前という奴は……!」
アルドリック王が呆れ果てた視線を送る中、厳格なはずの裁判は、神殿の最高権力者が羞恥に赤面するという事態となったのであった。
10月12日はスポーツの日ですが投稿をいたします。




