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聖女試験で零点を取りました ~リハビリ計画を立てろと言われたので、患者の両足を再生したら失格になりました~  作者: 紗々羅


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即席の法廷と、揺るがぬ証人

 一国の王であるアルドリックは、言葉にできないほどの憂鬱に苛まれていた。

 なぜなら、我が息子であるエドガー王子が、実の母親であり王妃であるラヴィニアを「国法で禁忌とされる魔術を使用した罪」で正式に訴え出たからだ。


(実の母親を王の法廷で訴えるなど、エドガーは正気か……?)


 それがアルドリックの正直な胸の内だった。

 さらに言えば、被告人となるラヴィニア王妃の、プライドが高く一筋縄ではいかない性格を誰よりも熟知している身としては、彼女を王として裁かねばならないという事実が、憂鬱さに輪をかけていた。


 重苦しい空気の中、謁見の間は即席の「法廷」へと設えられた。

 原告席には、毅然とした表情のエドガー王子と、未だ不安げに夫である王子の袖を握る王子妃セシル。

 対する被告席には、まるで悲劇のヒロイン気取りで、哀れみを誘うように俯くラヴィニア王妃が座っている。


 そして、中央の証人席には、事態の鍵を握る面々が呼び出されていた。

「失格聖女」の悪名を持つ魔法施術師セラフィーナ、どこかハラハラした様子の筆頭聖女リュミエラ、そして、今回の件で寿命が縮まりまくっている神殿長グラントール大神官である。


 裁判の始まりを告げる鐘が鳴り、アルドリック王は厳かに口を開いた。


「被告人、王妃ラヴィニア。お前は我が国において厳しく禁忌と定められている『人格交換魔法』を使用した、あるいは関与したと告発されているが、それは真実か?」


 ラヴィニア王妃はゆっくりと顔を上げると、いかにも心外だと言わんばかりに胸に手を当てた。


「偉大なるアルドリック王よ。私が生まれつき、魔法の類を一切使えないことは貴方様が一番よくご存じのはずでしょう? 私が禁忌の術など、使うことなど出来ようはずもございませんわ」


 その言葉に、アルドリック王は原告席へと視線を移した。


「原告、王子エドガーよ。王妃はこう申しておる。私も、王妃が魔力を持たぬ身であることは承知しているが……」


「我が父、アルドリック王よ」


 エドガー王子は一歩前に出ると、冷徹な声で言い放った。


「当人が魔法を使えずとも、魔法使いを使役して術を行使させれば済む話であることは、釈迦に説法かと存じます」


「ふむ……。では、ラヴィニアに雇われた魔法使いが存在するのだな? ラヴィニアよ、お前は隠れて魔法使いを雇ったのか?」


 王の問いかけに、ラヴィニア王妃はハンカチで目元を拭いながら、悲痛な声をあげた。


「滅相もございません! 私はこの王宮で満ち足りた恵まれた生活を送っております。そのような怪しげな魔法使いなど、一人として雇ってはおりませんわ!」


 そう言い放つラヴィニアの目は、なぜか証人席に座るセラフィーナの顔を、じっと鋭く凝視していた。

(余計なことを言ったらどうなるか分かっているわね?)という、無言の圧力を伴った真っ赤な嘘である。


「エドガーよ、王妃は魔法使いなど雇っていないと言っているが……」


「――証人として、そこにいる施術師セラフィーナの証言を求めます」


 王子の指名に、アルドリック王は頷いた。


「証人セラフィーナ、証言台へ」


「はーい、やれやれ……」


 セラフィーナは、隣のアルノーが胃を押さえて青ざめるのを横目に、実に面倒くさそうな顔でトコトコと証言台へと移動した。


 アルドリック王は、目の前の小柄な少女を見下ろし、厳格な声を響かせる。


「セラフィーナよ。お前は王妃ラヴィニアの依頼を受け、あるいはその指示によって、人格を入れ替える魔法を使ったことがあるか?」


 法廷内の全員の視線が、セラフィーナに集中した。

 エドガー王子は「これで王妃の罪が暴かれる」と身構え、ラヴィニア王妃は「裏切れば只では済まさない」と目を光らせる。


 しかし、セラフィーナは全く動じることなく、フッと艶やかな笑みを浮かべた。


「偉大なるアルドリック王よ。私のような市井のしがない魔法使い、あるいは調薬師というものはですね、『顧客の秘密を絶対に守る』ということで信用を得て、商売が成り立っているのです。ですから……王妃様からのご依頼があったかなかったか、その有無も含めて、私からお答えすることは一切できませんわ」


 まさかの、完全な証言拒否。

 法廷内がザワリと騒然となる。アルドリック王は眉をひそめ、声を一段と低くして警告した。


「セラフィーナよ。ここは王の法廷だぞ。証言を拒否すれば、それだけで罪に問われ、最悪の場合は投獄されることもある。それでもいいと言うのか?」


 脅しとも取れる王の言葉。並の平民なら恐怖で平伏するところだ。

 だが、セラフィーナはむしろ、楽しげに肩をすくめて言い放った。


「ええ、構いませんわ。むしろ、この『王の法廷』という最高の舞台ですら、脅しに屈せず顧客の秘密を黙秘した、ということになれば……我が施療院のお得意様である各国のやんごとなき方々からの信用は、今よりもさらに爆上がりすることでしょう。トータルで見れば、私にとって全く損のない、むしろ美味しい取引かと存じます」


 確信犯的に口角だけを上げた。

 彼女にとって、王の権威よりも、自分の『営業秘密の死守』のほうが遥かに価値が高かったのだ。


「……そうか。お前というやつは、そこまで言うのか……」


 アルドリック王は、あまりにも肝の据わった、そして一筋縄ではいかない天才少女の態度に、頭痛を覚えながら深く椅子に背を預けるのだった。法廷の戦いは、まだ始まったばかりである。


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