すべての暴露、そして帰還
「まあ……。私、今までずっと王妃様のお部屋のベッドにいたはずなのに……。あっ、身体が、私の身体に戻っていますわ! 一体何があったのでしょう!?」
セシルは自分の華奢な手を何度も握ったり開いたりしながら、驚きに目を見開いた。その戸惑う姿は、まぎれもなく本来の、おっとりとした王子妃セシルそのものだった。
「入れ替わりの術式の期限が切れて、元に戻ったのですよ。もうセシル様はセシル様、王妃様は王妃様に戻られましたわ」
セラフィーナが何てことのないように告げると、セシルは「まあ、何ということ!」と大きな声をあげてパチパチと瞬きをした。
「セシル、セラフィーナ! 一体何が起きたのだ、私にも解るように説明せよ!」
完全に置いてけぼりにされたエドガー王子が、慌てふためいた様子で二人に詰め寄る。
セシルは涙を浮かべながらも、愛する夫の顔を見て、きっぱりと口を開いた。
「エドガー、何があったのか、私からお話しいたしますわ。セラフィーナ様にはお仕事上の『秘密を守る約束』がありますからね」
セシルは一呼吸置くと、これまで胸に秘めていた衝撃の事実をすべて打ち明けはじめた。
「実は、王妃様と私は、ヴァルデリアでの戴冠式に向かう前に『魂』を入れ替えていたのです。王妃様から『お前の外交手腕では頼りない。今回は私が代わりに王子妃として外交をしてくるから、身体を貸しなさい』と命じられ……セラフィーナ様の秘術を以て、魂を交換いたしました。そして今しがた、私は私の身体に戻ってきたのです」
すべてを話し終えると、セシルは元の身体に戻れた嬉しさと、張り詰めていた緊張が解けた安心感から、エドガー王子の胸に飛び込んでわっと泣き出してしまった。
「――セラフィーナ。お前、国法で禁忌とされる『魂の交換術』を本当に使ったのだな!?」
愛妻を抱きとめながら、エドガー王子が鋭い視線でセラフィーナを射抜く。しかし、セラフィーナはふんと鼻を鳴らし、涼しい顔で肩をすくめた。
「人聞きが悪いですね。そもそもこの術式は、王妃様が神殿に命じて、秘密裏に開発を進めさせていたものですよ。ただ、神殿の神官や聖女たちの魔力量では足りず、術を正常に起動できなかった。それを、たまたま魔力量の多い私が代わりに使って差し上げた、というだけのことです」
「待て……。では、少し前に神殿で起きたという不名誉な『人格入れ替わり事故』というのは……」
「はい。おそらく、神殿の中でこの魔法の発動実験をやらかして、制御できなくなったのでしょうね」
王子の脳裏で、これまでの点と点が一本の線へと繋がっていく。
「しかし、なぜお前がその神殿の最高機密である魔法を知っているのだ?」
「神殿に呼び出されて、入れ替わったまま戻れなくなっていた人たちを元に戻す『お仕事』をやりましたから。その時に術式をすべて解析しましたので、今やこの魔法について、私より詳しい人間は世界中どこを探してもいませんわ」
セラフィーナのあまりの天才ぶりに、王子は絶句した。だが、すぐに最も不可解だった点について問い詰める。
「ならば、なぜ『今』戻ったのだ? お前が何かしらの呪文を唱えた風には見えなかったが」
「だから言ったでしょう、小半時待ってくださいって」
セラフィーナは悪戯っぽく笑った。
「術を施す際、王妃様が『戴冠式の時だけでいい』とおっしゃっていました。ですから、余裕を見て【一ヶ月間限定】の自動解呪の仕掛けを組み込んでおいたのです。今日がその期限日だと分かっていましたから、ただ待っていただけですよ」
「では、王妃は、わが母は……」
エドガー王子の言葉を引き継ぐように、王子の胸で涙を拭ったセシルが、顔を上げてにっこりと微笑んだ。
「ええ。王妃様は今頃、ご自室にある、ご自身の本来の身体の中で目を覚ましていらっしゃるはずですわ」
一ヶ月ぶりに我が身へと戻り、今頃ヒステリックに叫んでいるであろう偉大なる母の姿を想像し、エドガー王子はただただ深い溜息をつくしかなかった。こうして、宮殿を揺るがした世紀の入れ替え劇は、天才施術師の計算通りに幕を閉じたのだった。




