天使創造
「せ、先生! この子を見てやってください! 瓦礫の下敷きになって、さっきからぐったりして元気が無いんです!」
母親が泣きながら差し出してきたのは、息も絶え絶えの小さな少女だった。
「どれどれ……」
セラフィーナは少女の体を優しく撫で回し、前世の知識と魔法をリンクさせて瞬時にスキャンを完了した。
「これは内臓損傷ね。内出血も酷いようね。……もう少し遅かったら取り返しのつかないことになっていたわね」
そう言うと、セラフィーナは両手を広げた。先ほどとは比較にならないほどの莫大な魔力が練り上げられ、少女の体全体が眩い光に包まれる。
「破裂した肝臓と腎臓を修復して、失われた血液を魔法合成して戻して……」とセラフィーナはつぶやきながら慎重に施術していく。
アルノーが見守る中、やがてその光がゆっくりと収まっていった。少女の呼吸は正常に戻り、顔色もすっかり良くなっている。
「おかあさん。内臓損傷は修復完了よ」
「先生、ありがとうございます。このお礼は何といったらいいのか」
「お礼なんていらないわ。本当にかわいい子。ちょっと翼を生やしちゃおうかな」
というやいなや子供の背中から天使の羽根のような白い翼が生えてきた
「きゃー、この子の背中から翼が生えてる……」といいながら娘の母親は失神してしまった。
「……セラフィーナ様。大変失礼ながら、お尋ねいたします」
「なにかしら、アルノー」
「なぜ、その子の背中から真っ白な鳥の翼が生えているのですか?」
完全に治療を終えた少女の背中には、まるで物語に出てくる天使のような、フワフワとした純白の翼が一対、バサバサと羽ばたいていた。
「未来の世界では結構流行っているオプションなのよ。 あまりに可愛らしかったから、ちょっと遺伝子をピピッと弄って、天使の姿にデコレーションしてみたの。似合うじゃない?簡単に元に戻せるし……」
「直ちに元に戻してください!!!」
アルノーの怒声が施療院に響き渡った。
「翼を生やされた子の将来を考えたことがありますか!? 学校はどうするんですか! 服の着替えはどうするんですか! そもそもこれじゃ人外じゃないですか!」
「えー? 翼があった方が可愛らしくない? それに、ちょっとくらい空飛べた方が便利でしょ。……まあ、この子の意思で翼を生やしたわけじゃないしね。仕方がない、元に戻すか」
「ほら、お母さんが腰を抜かして失神してしまいましたよ! 早く戻して!」
「でも、すっごくかわいいと思わない」と不満げに唇を尖らせながら、セラフィーナは再び魔法を唱え始め、少女の背中の翼は姿を消したのだった。
「あなたはいつか超えてはいけない一線を越えてしまいそうな気がする」とアルノーが呟いたがその声はセラフィーナには届かなかった。
十人ほどが手や足の骨折とか切断とかひどいけがの治療を受けたが施療院から帰るときには一見五体満足に帰っていった。
後日
「セラフィーナ様、この間の怪我人たちに本当に余計なことはしていないんですね」
「もちろんよ、あなただって私の施術を監視するように見ていたじゃないの」
「実はですね、ここで治療を受けた人たちが怪力になったり俊足になったりとちょっとした超人だという評判でしてね、何か心当たりがあるのではないかと思いまして」
「へっ、何も心当たりはないわよ。私は……人間としての潜在能力を発揮できるようにちょっと手段を尽くしただけよ」
「実は警察がですね。馬でも追いつけない俊足のひったくりがいて手に負えないって言っているんですがね」




