聖女失格だけど、貧民街の救世主(?)になります
「大変だ! 貧民街の三階建ての雑居ビルが崩落したぞ!」
「生き埋めになった怪我人が大勢出てる! 治療が全く追いつかない!」
「誰か、治癒術師を呼んでくれ!!」
外の通りから、血相を変えた住人たちの悲鳴と怒号が聞こえてくる。
そんな喧騒をよそに、施療院の奥では優雅にお茶をすする人影があった。
「おや、外がなんだか騒々しいわねぇ」
セラフィーナがのんびりと呟くと、お茶を淹れ直していた従者のアルノーが、ジト目で彼女を見つめた。
「……一応お聞きしますが、セラフィーナ様も『治癒』はお出来になるのですよね?」
「そりゃあできるけど。でも、外で騒ぐだけで、私のところに誰も助けを求めに来ないじゃない。医者は待つのも仕事よ?」
「聖女試験に落ちた闇医者のところに、一般人が気安く飛び込めるわけがないでしょう。……分かりました、それでは私が外へ行って、怪我人に声を掛けて参りましょうか?」
「まあ、アルノーがそうしたいって言うなら、止めはしないわよ」
セラフィーナの許可を得て、アルノーはすぐに貧民街の雑居ビル崩落現場へと向かった。
現場は悲惨極まりなかった。瓦礫が散乱し、骨が折れ、血を流した人々が地面に直接ゴロゴロと寝かされている。神殿の治癒術師も数人来ているようだが、あまりの惨状に完全に治癒魔法は間に合っていなかった。
アルノーは怪我人の群れに近づき、声を張った。
「皆さん! ここからすぐ近くの『セラフィーナの施療院』で治療を望む方がいれば、私が今からお連れしますが……!」
すると、地面に倒れていた男の一人が、痛みに耐えながら顔を上げた。
「あ、あの施療院か……!? 貴族から大金を毟り取る、暴利を貪る闇医者だって噂じゃないか! 俺たちには、そんなところへ払う金なんて一銭もないんだよ!」
「ああ、その点は大丈夫です。うちの主人は、こういう時は治療費をびた一文取らない人ですから。……多分」
「多分じゃ困るんだけど!?」
命の危機だというのに、アルノーの不吉な「多分」に全力でツッコミが入る。しかし、背に腹は代えられない。アルノーの懸命な説得により、まずは重傷者数人がセラフィーナの施療院へと運び込まれることになった。
「さあ、来たわね! 私のところに来られた幸運を、神ではなくこの私に感謝なさい!」
運び込まれてきた怪我人たちを前に、セラフィーナは不敵に微笑んだ。
腕をまくり、最初の男の前に立つ。
「あんた、どうしたの?」
「あ、足の骨が、変な方向に折れちまったようで……ううっ!」
「おお、まさしく骨折ね。……よし、ちょっと痛いけど、一瞬で終わるから我慢しなさいよ」
セラフィーナが男の脚に手をかざすと、神殿のそれとは比べ物にならない、眩いばかりの魔法の光が弾けた。
「ぎゃああああああああーーーっ!?」
男が施療院の天井を突き破らんばかりの悲鳴を上げる。
細胞の超高速分裂、遺伝子レベルでの超効率的な骨の結合――そのあまりの急激な変化に、男の神経が悲鳴を上げたのだ。
「はい、おしまい。もう痛まないはずよ」
「あ、あれ……? 本当だ、痛くない……。元通りに治ってる……!」
男は恐る恐る立ち上がり、その場で足踏みをした。完全に完治している。
「まあ、厳密には元通りではないんだけどね。下半身の骨の骨密度を極限まで上げておいたからちょっとやそっとでは骨折しない丈夫な足になったわよ」
「えっ? 骨密度?」
「全く問題ないはずよ、お次の方どうぞ!」
男の疑問を無視して、セラフィーナは次の患者へと向かう。




