交錯する視線、引き下がらない王子
セラフィーナが頑なに黙秘を貫き、謁見の間に重苦しい沈黙が満ちていた、その時。
緊迫した空気を破るように、部屋の扉が堂々と開け放たれた。
「エドガー、どうしたの? 一体、何の騒ぎかしら」
現れたのは、王子妃のセシルだった。
おっとりとした愛らしい容姿。しかし、その声に宿る有無を言わせぬ威厳と、まっすぐに背筋の伸びた歩き方は、完全に「中身」である王妃そのものだった。
「セシル……!? なぜここへ。君には関係のないことだ、大人しく部屋で静かにしていなさい」
エドガー王子は、明らかに普段と違う雰囲気をまとった妻を部屋へ帰そうと、制するよう手を挙げた。しかし、セシル(中身:王妃)はフッと口元を綻ばせ、一向に退く様子を見せない。
「関係ないことはありませんわ。そこにいらっしゃるのは、我が国でも高名な魔導施術師――いえ、巷では『市井の聖女』とも噂される、セラフィーナ様ではありませんか。エドガー、そのようなお方をわざわざ呼び寄せて、一体何を企んでいるのです?」
凛とした態度で問い詰めるセシル(中身:王妃)。
その瞳が、一瞬だけセラフィーナを捉えた。
(余計なことは喋っていないでしょうね?)という鋭い牽制。
ここで、セラフィーナは不敵に目を細め、一か八かの賭けに出ることにした。
「セシル様、ちょうど良いところにおいでくださいましたわ。実は、エドガー王子殿下が大変お悩みのご様子でしてね」
「あら……何についてかしら?」
「ヴァルデリアでの戴冠式の頃から、セシル様がまるで『人が変わってしまった』ようだとおっしゃるのです。それで、私に何か心当たりはないかと、こうして厳しくお尋ねになられているのですよ」
わざとらしく困ったように眉を下げてみせるセラフィーナ。
セシル(中身:王妃)の目元が、一瞬だけピクリと動いた。
「もちろん、私どもはお仕事柄、お客様の秘密を漏らすわけにはまいりません。ですから、何もお答えすることができず、こうして帰してももらえずに困り果てていたところでございます」
セラフィーナはセシル(中身:王妃)をじっと見つめた。
(私は口を割っていません。あとはそっちで上手く誤魔化してくださいね)という、無言のメッセージを込めて。
さすがに状況を察したセシル(中身:王妃)は、わざとらしくため息をつくと、エドガー王子の肩にそっと手を置いた。
「まあ、そういうことですの。エドガー、彼女たちのような商売人には、商売上の守秘義務というものがあるのでしょう? どれほど問い詰めたところで、お話しできないものは話せないのではないかしら。これ以上は無駄ですし、彼女たちを帰して差し上げたらどう?」
母親としての老獪なフォロー。これで王子も引き下がるかと思われた。
しかし、エドガー王子の疑惑の炎は、すでに消せる段階を過ぎていた。王子はセシルの手をそっと退けると、椅子の肘掛けを強く握りしめ、冷徹な目をセラフィーナに向けた。
「……いや。この者が秘密を白状するまでは、私は絶対に帰さない」
「エドガー……!?」
セシル(中身:王妃)の制止すら跳ね除け、エドガー王子は頑として引き下がらなかった。長年連れ添った最愛の妻が「別人のようになっている」という異常事態。その原因を握る唯一の鍵であるセラフィーナを、ここで手放すわけにはいかなかったのだ。
助け舟すら拒絶された謁見の間で、セラフィーナと、冷や汗が止まらないアルノーは、再び王子の鋭い視線に晒されることになるのだった。




