二重螺旋の書き換え
「ねえ、リュミエラ。もしあんたが嫌じゃなかったら、あなたにも私の『スペシャルな施術』をしてあげるわよ?」
セラフィーナが研究者のように目を輝かせながら持ちかけると、リュミエラは即座に首を横に振った。
「結構です。私はまだ若いですから、若返りもシワ取りも必要ありませんわ」
「そっちの美容系じゃないって。実はね、あなたの身体に入っていたとき、もっと効率的に魔力を使えるようになる方法を見つけちゃったのよ。あなたの元の魔力量じゃ出力不足で実現できなかったから、そのままにしといたんだけど……」
セラフィーナは悪戯っぽく目を輝かせ、自身の綺麗な指先を複雑に動かしてみせた。
「私がね、あなたの『ディーエヌエー』ってやつを少ーしいじってあげれば、今の三倍は効率よく魔力操作ができるようになるわよ。どう? 試してみない?」
「ディー、エヌ……え?」
聞き慣れない未知の単語にリュミエラが小首を傾げたその時、背後から悲痛な声が響いた。
「リュミエラ様! ここは考え処です、絶対に踏みとどまってください!」
それまで部屋の隅で静かに控えていたアルノーが、青い顔をして割り込んできた。彼は誠心誠意の、魂からの警告をリュミエラにぶつける。
「セラフィーナ様の施術には、必ずと言っていいほど思わぬ落とし穴があるんです! 先ほどの兵士の足の話を忘れたのですか!? 何が生えてくるか分かったものではありません!」
「ちょっとアルノー、失礼ね。今回は何も生やさないわよ、ちょっと中身を書き換えるだけ!」
ぷくーっと頬を膨らませるセラフィーナ。アルノーの言い分はもっともだったが、リュミエラは自分の白い手のひらを見つめ、深く考え込んでいた。
(今の、三倍の効率……)
もし、それが本当なら。神殿に戻った後、あの過酷なブラック日常が少しは楽になるかもしれない。それ以上に、今まで魔力切れで救えなかった不治の病の患者たちを、もっと、より多く救うことができるのではないか。
リュミエラはすっと顔を上げ、凛とした瞳でセラフィーナを見つめた。
「……確かに、アルノーさんの言う通りリスクはあるのかもしれません。でも、今の三倍の効率で魔法が使えれば、より多くの苦しむ人々に癒しを届けることができます。聖女として、リスクを冒してでも試す価値があるように思います。――セラフィーナ様、ぜひ私にその施術をお願いします」
「リュミエラ様……っ! ああ、もう私は知りませんからね……!」
アルノーは「見ていられない」とばかりに両手で顔を覆った。
「よし、交渉成立! じゃあリュミエラ、そこの寝台に仰向けに横になって」
セラフィーナに促され、リュミエラは緊張した面持ちで施術用のベッドに横たわった。
セラフィーナがその小さな手をリュミエラの胸元にかざすと、部屋の明かりがふっと落ち、禍々しくも美しい、超高密度の魔法陣が展開された。
「――『遺伝子編纂』」
セラフィーナの呪文と共に、リュミエラの身体の上に浮かんだ魔法陣の中から、光り輝く『二重螺旋』の模型のような光の鎖が現れた。
それは恐ろしい精密さでいったんサラサラと解かれ、セラフィーナの指先の動きに合わせて、新たな配列へと再びパチパチと編み直されていく。神の領域に触れるかのような、恐るべき秘術。
リュミエラは痛みこそ感じなかったものの、全身の細胞が作り変えられていくような、奇妙な熱さに息を呑んだ。
やがて光の鎖が弾け、魔法陣が霧散する。
「はい、済んだわよ、リュミエラ。起きていいわ」
セラフィーナはあっけらかんと汗を拭った。
「これであなたの身体の魔力回路は最適化されたわ。おめでとう、明日から魔法が三倍の効率で行使できるはずよ!」
ベッドから起き上がったリュミエラは、自身の内に満ちる、これまでとは明らかに違う「淀みのない魔力の流れ」を感じて目を見開くのだった。




