聖女試験の腹いせ
「……さて。筆頭聖女リュミエラと、グラントール神殿長の入れ替えは……ちょっと工夫をしてみようかしら」
最後の一組となった修正作業を前に、セラフィーナの心に、ふとした悪戯心が芽生えていた。
(リュミエラとグラントール神殿長を元の身体に戻すと同時に、私がリュミエラの身体へと入れ替わったら……。かつて聖女試験で私を不合格にしたこの神殿に、最高の嫌がらせをして一泡吹かせることができるんじゃないかしら?)
もちろん、本物のリュミエラがすぐに気づいて騒ぎ立てては意味がない。
彼女が異変に気づくのをしばらく遅らせる必要がある。
(となると、人格交換を二度連続で行う必要があるわね。……ふふ、術式がかなり複雑になりそうだわ。腕が鳴るじゃないの)
セラフィーナが一人で邪悪な笑みを浮かべていると、応接間のドアが控えめに開いた。
「セラフィーナ様、グラントール神殿長(中身)をお連れしました」
戻ってきたリュミエラ(外見:神殿長)の後ろから、おずおずと入ってきたのは――誰もが目を奪われるほど可憐で美しい、筆頭聖女リュミエラの肉体だった。
しかし、その美少女の顔は真っ赤に染まっており、内股で、いかにも居心地悪そうに身を縮めている。
「はい、わかったわ。……でも、さすがに少し疲れちゃったから、ソファに座ったまま施術させてもらってもいいかしら?」
セラフィーナがわざとらしく、やれやれと肩をすくめて見せる。
「そうですね、これだけずっと膨大な魔力を使いっぱなしだったのですもの。どうぞ、お掛けになってください」
リュミエラ(外見:神殿長)が親切に勧め、セラフィーナはふかふかのソファに深く腰掛けた。
そして、じっと美少女の姿をした『神殿長』を見つめる。
「それにしても神殿長。あなたは本当に、あの偉そうなグラントール神殿長ご本人ですか?」
「は、はい……! 間違いなく、私がアルケミウス・グラントールですう」
リュミエラの美声で、必死に威厳を保とうとする神殿長。そのアンバランスな様子に、セラフィーナはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「ずいぶんと、可愛らしくなられましたね?」
「はい……って、じゃなくて! この、このようなか弱き乙女の姿では、神殿長としての激務をこなすこともできず、本当に悩んでいたのです!」
「ふぅん? その割には、ずいぶんと衣服の胸元が乱れているし……誰もいない部屋で、自分の若い肉体を相手に、何か邪な思いに駆られて触りまくったりしていませんでした?」
「ギクッ!!」
美少女の身体が、わかりやすく跳ね上がった。
「そ、そんなことは、神に誓ってございませんッ……!」
「ふふ、嘘をつくと天罰が当たるんでしょ? 神殿のトップなら、自分の身の振る舞いには気をつけてくださいね」
じっとりと冷や汗を流す神殿長(外見:聖女)をからかい終え、セラフィーナはすっと指先を突き出し、空中に複雑な魔法陣を描き始めた。
先ほどまでとは明らかに違う、禍々しいほどに濃密な魔力が室内に満ちていく。
「それじゃあ、最後の仕上げといきましょうか。――これより、『魂の連続交換』を行います」
セラフィーナが不敵に微笑む。
「……連続?」
その言葉の奇妙な引っかかりに、最初に気づいて小首をかしげたのは、リュミエラ(外見:神殿長)の方だった。




