もつれた魂のほどき方
「こいつはDNAがどうのっていう物理的な問題じゃないわね。人格とは記憶ともいえるし記憶は脳の構造そのものよ。これはその構造を転写し直す作業になるし、完璧に戻すのは難しいかも、やれるだけのことはやってみるけど、完璧に元通りっていうのは期待はしないでね」
セラフィーナが応接間のソファにふんぞり返りながら告げると、リュミエラ(外見:神殿長)はすがるような目を向けた。
「はい……! その、構造を転写し直すということは、本当に可能なのでしょうか?」
「可能よ。ただ、入れ替わってからの時間が経ちすぎていると、エングラムがどんどん変化するから、完全には元通りにいかないかもしれないけどね」
「そ、それは大変です! すでに事故から半月ほど時間が経っておりまして……」
「はぁ!? なんでもっと早く言わないのよ!」
セラフィーナが声を荒らげると、リュミエラ(外見:神殿長)は大きな体を縮こまらせて弁明した。
「そ、それが、呼び出し状はずっとセラフィーナ様にお送りしていたのですが……」
「あー……。そういえば、ポストに何か怪しい封筒が溜まっていた気もするわね。……まぁ、いいわ。文句を言っても始まらないし、何とかするわよ。とりあえず、入れ替わった者同士のペアをここに連れてきて」
「はい! では、把握できているペアから順次、こちらへ連れて参ります!」
リュミエラ(外見:神殿長)がホッとしたように部屋を出ていくのを見送りながら、セラフィーナは小さく息を吐いた。
「三人以上の玉突き事故で入れ替わってないだけ、まだマシね。一対一の入れ替えなら、術式の構築もいくらか楽だわ」
さっそく連れてこられた「外見と中身がバラバラな神殿関係者たち」を前に、セラフィーナは人差し指を突き出した。
空間に走る魔力の残滓をじっと見つめ、その痕跡をなぞるように分析していく。脳の構造を読み解く不可視のラインを特定し、それを本来の持ち主へと繋ぎ直す特製の術式を、その場で即興で開発・行使していった。
パァァァ……と柔らかな光が部屋を包み、次の瞬間。
「「あ、戻った……!!」」
ペアになっていた神官たちの顔に歓喜が走る。
「セラフィーナ様、元に戻していただきありがとうございます。これからの人生を取り戻していただき感謝しています」と若い聖女たちは揃って感謝の言葉を述べていった。
「ふぅ。どうなることかと思ったけど、私の手にかかれば何とかなるわね」
パタパタと扇子で顔を仰ぎながら、セラフィーナは順調な進捗に口元を緩めた。
しかし、テキパキと次の案内をこなすリュミエラ(外見:神殿長)は、なぜか複雑そうな表情を浮かべている。
「……セラフィーナ様。あの、戻った方々はたいてい喜んでおられますが、中にはどうして『元に戻るのを嫌がる者』がいるのでしょうか?」
その疑問に、セラフィーナはフッと鼻で笑った。
「そりゃああんた、理由なんて決まってるじゃない。若い娘のピチピチした肉体を手に入れちゃったら、元が男だろうが高齢の女だろうが、進んで元の姿に戻りたくないって思うやつは一定数いるわよ。……まぁ、男の方は『女の身体の現実』を知って、数日もすれば泣いて『戻してくれ』って言ってくるのが関の山だろうけどね」
「な、なるほど……分かったような気がします。元に戻ってがっかりしているのは年配者か男性ばかりだったように思います」
リュミエラ(外見:神殿長)が妙に納得して感心していると、セラフィーナはパンパンと手を叩いた。
「さあ、お喋りは終わり! どんどん次のペアを連れておくれ!」
神官や聖女たちが次々と元の身体に戻っていく。応接間がにわかに活気づく中、セラフィーナはふと思い出して声をかけた。
「ところでリュミエラさん。そろそろ、その『アルケミウス・グラントール大神官様』とやらをここに連れてきてもらえないかしら? じゃないと、あんた自身がずっとそのむさ苦しい体(神殿長)のままよ?」
「うっ……! は、はい。そうですよね……」
リュミエラ(外見:神殿長)は自分の丸々とした太い腕を見て、悲しそうに肩を落とした。
「……分かりました。多分、もの凄く恥ずかしがって抵抗するとは思いますが、引きずってでも連れて参りますので。……どうか、そのままお待ちください」
そう言い残し、リュミエラ(外見:神殿長)は悲壮な決意を胸に、自身の「美少女聖女の肉体」が引きこもっている部屋へと向かうのだった。




