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聖女試験で零点を取りました ~リハビリ計画を立てろと言われたので、患者の両足を再生したら失格になりました~  作者: 紗々羅


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20/23

日常の帰還と、新たなる探求

 ヴァルデリア王国に戻ったエステル王子が、息を呑むような超絶美人のメイドを連れ帰ったというニュースは、またたく間に世界中を駆け巡った。


「旅先で急病に倒れたエステル王子を、献身的に看護したメイド。その健気さに王子が惚れ込み、身分違いの恋を実らせた――」


 そんな、ありきたりと言えばありきたりな愛の物語。しかし、それを演じるのが誰もが羨む美男美女となれば話は別だ。おとぎ話の具現化に、国民は熱狂し、二人を大喝采で迎え入れた。


 この熱狂の前に、政敵である王子派が必死に広めていた「エステル王子は実は女なのではないか」という疑惑は、跡形もなく吹き飛んでしまう。


(だって、あんなに逞しくて格好いい王子が、あんなに可憐な美女と愛し合っているのだから、男に決まっているじゃないか!)


 国民の誰もがそう信じて疑わなかった。

 形勢は完全に逆転し、卑劣な噂を流して王位を掠め取ろうとしていた(と思われた)王子派は一気に勢いを失って失脚。こうして、晴れて『エステル王』と『レオナ王妃』が誕生することとなったのである。


 元王子のメイドが、隣国の王妃へ――。

 事の顛末を記した手紙を読み終え、アルノーはそっと机に置いた。


「戴冠式にはぜひ来てほしいって書いてありますよ。はぁ……。あの子たち、本当にやっちゃいましたね。なんだかんだで、めでたしめでたし、ですか」とアルノーが感心する。


「そうだねぇ。お陰で、またここには私たち二人だけになっちゃったけどね」


 セラフィーナはソファーに寝そべりながら、つまらなそうに算盤をパチパチと弾いている。

 レオナが淹れてくれる美味しいお茶も、給仕の時の華やかな空気も、もうここにはない。少し寂しくなった施療院の空気を紛らわせるように、セラフィーナはニヤリと不敵な笑みを浮かべてアルノーを睨んだ。


「ねえ、アルノーちゃん。紅茶の味が落ちたわね」


「そうですね」


「休憩時間の楽しみが減ったわね」


「なんですか」


「……女の子にならない?」


「いえ、結構です」


 アルノーは一秒の躊躇もなく、即座に、かつ冷徹に拒絶した。


「私は男であることに、今のところ何一つ不都合を感じておりません」


「ちぇー、つまんないの。アルノーを美少女にしてメイド服を着せる計画、諦めてないんだけどなぁ」


 頬を膨らませるセラフィーナにため息をつきつつ、アルノーは手元にあるもう一通の手紙に目を落とした。いつもの日常、いつものお気楽な掛け合い。だが、施療院である以上、新たな案件は絶え間なく舞い込んでくる。


「セラフィーナ様。実は、クレームというか……ある要望が届いておりまして」


「ん? 誰からさ」


「覚えていますか? 以前、貧民街で事故があった時、あなたが軽いノリで『翼』を与えた少女がいたでしょう。母親が驚いて失神してしまった、あの子です」


「ああ、覚えているわ。あの時はアルノーに怒られちゃったから、すぐに翼を消去して子供を返したんだよね」


 セラフィーナが思い出すように天井を見上げる。


「その時の女の子がですね……どうやら、あの時に『翼を持っていた感覚』がどうしても忘れられないそうなんです。『もう一度あの翼が欲しい』って、毎日泣いて親をせがんでいるらしくて」


「やっぱりねぇ。あの翼、あの子にすごく似合っていたもの」


 フッと嬉しそうに微笑むセラフィーナに、アルノーはさらに詳細を告げる。


「親御さんも困り果てて、市販の模造品の翼を背負わせてみたりしたそうですが、当然本物とは感覚が違うようで、まったく満足しないらしく……。何とかならないものか、とこちらに相談が来ているんです」


「なるほどねぇ……」


 セラフィーナは起き上がると、あごに手を当てて考え込んだ。


「まあ、あの時は本当にその場の思いつきで生やしちゃったからね。でも、確かに普通の人間がずっと翼を生やしたまま生活するとなると、服を着るのも大変だし、実用性を考えたら『出したり引っ込めたり』が自由に出来た方が便利だよね」


「……え? そんなこと、出来るんですか?」


 驚いて聞き返すアルノーに、セラフィーナはケロッとした顔で、けれどその瞳に天才魔導士特有の怪しい光を灯して笑った。


「今のところはね、そんな便利な術は出来ないわよ。――でもさ、アルノー」


 セラフィーナは算盤を放り出し、楽しげに胸を張る。


「誰もやったことがない『出来る方法』を、これから新しく考え出す。……それが、一番おもしろいんじゃない!」


(やれやれ、これだからセラフィーナ様の従者は辞められない。)

 アルノーは呆れ半分、期待半分の溜息を吐きながら、新しい研究のために文献の山を準備し始めるのだった。


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