取引と、超イケメン王子の誕生
「王女様が王子様になりたい理由はよく分かった。……だけどさ、動機が不純だね」
話を聞き終えたセラフィーナは、あからさまに嫌そうな顔で言い放った。
「権力のためだなんて、最低の動機じゃないか。無理無理、却下だよ。そんなことするくらいなら、国民の前で『正直に私は女だけど王になりたいんだ!』って堂々と宣言すればいいじゃない」
「そんなこと言えるわけがないのを、貴殿も分かっているだろう!?」
エステリア王女は机を叩いて身を乗り出した。だが、セラフィーナが頑として首を縦に振らないのを見ると、ふっと不敵な笑みを浮かべ、声を落とした。
「……そちらがそういう態度を取るなら、こちらにも考えがある。あなたのところにいるあのメイド――『レオン王子』の居場所を、アレストリア王国に通報させてもらうとしよう」
「ぐっ……!」
さすがのセラフィーナも言葉に詰まる。しかし、すぐに持ち前の図太さで睨み返した。
「何言ってるのかしら。うちにはレオン王子なんて男はいないし、あのメイドは正真正銘の女の子よ。だいたい、そんな根も葉もない噂、誰が信じるっていうの?」
「私はね、レオン王子とは幼馴染みなのだよ」
エステリア王女は勝ち誇ったように腕を組んだ。
「レオンが昔から女の子になりたがっていたことも知っているし、昔『君と身体を交換したい』とまで言われたこともある。さっきお茶を淹れに来てくれたあのメイドの『目』を見て確信した。隠したって無駄だよ、あの目は間違いなくレオンの目だった!」
セラフィーナは観念したように深いため息をつき、頭をガシガシと掻いた。
「はぁーあ……。つまり、こちらの秘密を守る代わりに、あなたを男に変えろっていう『取引』という訳ね?」
「そういうことだ。悪い話ではないであろう?金も払う」
「…………分かったわよ。引き受けるわ」
セラフィーナは渋々と立ち上がった。
「男になって念願の王様になれるかもしれないけどね、男だって良いことばかりじゃないわよ? 統計的に寿命は短いし、女より病気になりやすいしね。それに、朝から晩まで血生臭い権力闘争に明け暮れることになるし……。あ、格好いいこと言おうとしたけど、これに関してはもう今の時点ですでに巻き込まれてるか。ははは!」
ひとしきり乾いた笑いを漏らしたあと、セラフィーナは真面目な顔になって扉を開け、外にいたアルノーと王女の家来たちを呼び寄せた。
「そういうわけだから、今から施術を始めるよ。ここから三日三晩、王女様は意識を失って完全に無防備になる。ご家来衆は、責任を持ってしっかり王女様を守り抜きなさい。いいわね?」
「はっ! 命に代えましても!」
家来たちが一斉に居住まいを正す。
こうして、厳重な警戒態勢の中、謎のDNAレベルでの性転換術(魔術)が始まったのだった。
「性染色体を男性型にして……、全身の骨格はリモデリングして、ホルモンシャワーは……」とセラフィーナはブツブツと独り言を言いながら施術を続けた。
――そして、男体化の魔術を始めてから三日三晩が経過した。
長い眠りから覚め、ベッドから起き上がったエステリア王女――いや、元王女。
その姿を見た瞬間、アルノーと家来たちは思わず息を呑んだ。
そこにいたのは、かつての美しい面影を残しつつも、切れ長の鋭い瞳、引き締まった高い鼻梁、そして逞しく広い肩幅を持つ、誰もが振り返るような超絶イケメンの王子様だったのだ。
「……これが、私、なのか……?」
低く響く魅力的なバリトンボイスで自分の手を凝視する彼を見て、セラフィーナは算盤をパチリと叩きながら、ニヤリと笑うのだった。




