男装の王女と、王位の条件
「それで、エステリア王女様。わざわざこんな場末の施療院まで、一体何をしにいらしたのですか?」
セラフィーナが改めて尋ねると、エステリア王女は背後の家来たちに一度視線を送り、それからこちらを真っ直ぐに見据えた。
「――人払いをしてくれたら話そう」
その真剣な眼差しに、セラフィーナもただ事ではないと察したらしい。小さく頷くセラフィーナの合図を見て、アルノーとレオナ、そして王女の連れてきた家来たちは、仕方なく揃って部屋を退出した。
重厚な扉がパタンと閉まり、室内が二人きりになると、エステリア王女は小さく息を吐いた。
「協力してくれて感謝する。……実は、私を男に変えて欲しいのだ」
「まあ。それはまた……どうして、あなたのような美しい方が男になりたいなどと。ご自身の性別に違和感でもお有りなのですか?」
セラフィーナの問いに、王女は自嘲気味に首を振る。
「いや、自分が女であることに違和感はない。だが、……権力が、私を女のままで居させてくれないのだ。話せば長くなるが、聞いてくれるか?」
「ええ。治療に必要なことであれば、いくらでも」
「それは助かる」
王女は椅子の背もたれに身を預け、どこか遠くを見るような目で語り始めた。
「先代のヴァルデリア王……つまり私の父が、半年ほど前に急死してな。それ以来、ヴァルデリアは後継者争いの真っ只中なのだ。国は『王女派』と『王子派』――すなわち私と弟の派閥の二つに分かれて、収拾がつかない状態が半年も続いているのだ」
「なるほど、よくあるお家騒動ですか」
「ああ。けれど、つい先日、王子派の連中がとんでもないものを引っ張り出してきてね。古の、とっくに死文化していた法の中に『王には男子しかなれない』という一文を見つけたのだ。奴らはそのカビの生えた法律を盾に、私を王位争いから追い落とそうと躍起になっているのだ」
セラフィーナはふむ、とあごに手を当てた。
「はいはい。男になりたい理由が、だんだん分かってきましたね」
「そう、それはありがたい。私も何とか挽回しようと必死に頑張ってきた。我が国の歴史には、過去に立派な女王がいたことだってあるのだから。……なのに、民衆の中にも『王統は男子が継ぐべきだ』なんて言い出す輩が増えてきてね。もはや、私自身が本物の『男』になるしか、道が残されていない状態なのさ」
語る王女の拳には、ぎゅっと力がこもっていた。
だが、セラフィーナは同情する風でもなく、極めて現実的な問題を口にする。
「理由は分かりました。ですがね、王女様。女から男に転じた者を、果たして民衆が『正当な王』として認めるかどうかが問題ですよ?」
「その点に関しては、幸か不幸か……、」
エステリア王女は不敵に唇の端を上げた。
「私自身が元々、お転婆というか、男勝りな王女だったのだ。だからそれを利用してね、……『幼少期、命を狙う暗殺者から守るために姫として育てられていたが、実は我が国の第一王女は男子だった』という噂を、すでに国内に流してある。そして、この根回しは概ね成功しているのだ」
「ほう、用意周到ですね」
「ああ。だけど、逆に言うとね……」
王女はふっと笑みを消し、冷ややかな声で最大の障害を口にした。
「追い詰められた王子派の連中は、噂が真実かどうか確かめるために、私の『身体の鑑定』を求めてきている状態なのだ。――これでもう、引き下がれない理由は分かってもらえただろうか?」




