美白の代償と、ヴァルデリアの王女
その日の夕方、美白治療を終えた侯爵夫人は、まるで塗りたての漆喰壁のように白く、眩しく輝く肌になって満足そうに帰っていった。
だが、馬車を見送ったセラフィーナは、なぜか重いため息をついた。
「はぁ……。あの肌ねぇ、太陽光線に当たると多分、一瞬で火ぶくれのようになっちゃうだろうね。一生、太陽の光に当たることはできないよ」
「……はい?」
アルノーは耳を疑った。今、セラフィーナは何と言った?
「そんなひどいことをして! もしそれがバレて侯爵家の軍勢がここに攻めてきたら、一体どうするおつもりですか……っ!?」
想像しただけで胃がキリキリと痛み出し、アルノーの顔から血の気が引いていく。
しかし、セラフィーナは心外だとばかりに両手を広げた。
「言いがかりはやめてよ、アルノー。侯爵夫人には『太陽の光に当たると大火傷をしますよ』って事前にちゃんと警告したんだよ。それでも『白くなれるなら構わない』って本人が言うんだから仕方ないでしょ? 皮膚の色素がなぜ存在しているのか、その科学的な理由まで丁寧に説明してあげたのにさ。……駄目だったよ。人間の美への執念ってやつは恐ろしいねぇ」
「一応は警告したんですね。」とアルノーはため息をついた。
そんな頭の痛い会話を繰り広げていると、施療院の扉が勢いよく開け放たれた。
現れたのは、見たこともないエキゾチックな衣装をまとった、気の強そうな美女。その後ろには、いかにも腕の立ちそうな数名の家来を引き連れている。
「私はエステリア・ヴァルデリア。ヴァルデリア王国の王女である」
女性は尊大な態度で、部屋の中を見回しながら堂々と宣言した。
「こちらの魔女セラフィーナは、人体を自在に扱えて、女を男に変えることすらできると聞いてやってきた。――そこの女性が、セラフィーナか?」
指を差されたセラフィーナは、椅子の背もたれに深く腰掛けたまま、不満げに口を尖らせた。
「私がセラフィーナだけど……魔女じゃないわよ。世間の人は私のことを『聖女』と呼ぶのに、初対面で魔女だなんて失礼ね」
(あれっ?)
アルノーは思わず首をかしげ、小声でツッコミを入れた。
「セラフィーナ様……確か、聖女試験には落ちたのでは?」
「黙れ、アルノー!!」
ガタァン! と椅子を蹴立てるような勢いで、セラフィーナが凄まじい形相で振り返った。その目は本気で怒っている。
「商売ってのはねぇ! 最初が肝心なの! 機先を制する必要があるの! 余計なことを言うんじゃないよ!」
すさまじい勢いで口を封じられ、アルノーは両手を挙げて降参するしかなかった。
そんな二人のコントのようなやり取りを、ヴァルデリア王国の王女、エステリアは怪訝そうな目で見つめているのだった。




