#8「襲撃」
「だから……神楽銀がいなくてもそんな噂が知れ渡って……。」
「まぁ、実態はそんなところだ。」
そう言って藍都は少し周りを見渡す。
「……ったく、あんな所にカメラ隠しやがって」
「えっ!?」
藍都が無言で指を差した先には、教室の端っこにある掃除用具入れの扉から藍都の席に向かって少しだけレンズを覗かせている隠しカメラがあった。
「……はぁ、ということは今の会話も見られてたってことか……。」
「……とりあえず、紗綾はもう自分の教室に戻った方がいい。これ以上、僕と話している所が見られたら変に怪しまれるかもしれないからな。」
「わ、わかった。」
そう言うと、紗綾は僕のもとを去っていった。
「……もう、とっくに気づかれてるよな。」
そう、僕は一言呟いた。
あれからというもの、僕は集団無視や、自分の給食を捨てられたりなど、いじめといういじめを我慢し……、
なんとか、下校の時間を迎える。
校門には心配した様子で待ってくれている紗綾の姿が。
「先帰ってて良かったのに」
「しんどい思いしてる藍都を放って帰れるわけないでしょ」
「流石の優しさだな」
「なんか上から目線だね?」
「すまんすまん、ありがとうな紗綾。」
そう言って、僕は紗綾と別の曲がり角を曲がろうとする。
「……?どこ行くの?」
「実はさ今日、僕がずっと欲しかったフィギュアの発売日でさ。」
そう、今日は待ちに待った「サファイアキュート」という少女バトルアニメのフィギュアの発売日なのである。
ちなみに僕の推しで特に欲しいキャラはスカイキュートというキャラである。
「……心配しないでいいよ。早めに帰るから。」
「……わかった。」
私はそう言って藍都に手を振って別れる。
そして私は少し歩いて、近くの公園に着く。
「……何か用でも?」
と言いながら私は後ろを振り向こうとする——。
「さよなら」
「……!?」
ナイフ……!?
そう、「さよなら」と呟いた見知らぬ者は、まるでハヤブサのような、物凄い勢いで私を刺しに来ていた。
(くそっ、流石に避けきれない……!)
「……!?凄いわねぇ……。この速度の攻撃でも致命傷を免れられるだなんて……w」
私はとっさになんとかナイフの刃をギリギリ致命傷を免れるように避け、即座にその場から距離をとる。
だが、今の攻撃で横っ腹は少し切れて血が出ている。
「「神楽銀 奈那」……!!貴方が……!!藍都の過去をみんなに知らせなければ……!!」
「……?何か勘違いしてるわね?まぁ、どちらにせよ、」
「貴方には消えてもらうから」
そう言って、奈那は血のついたナイフを持ってこちらへ向かってくる。
「……こっちのセリフだ!!」
私は有事の時のために持っていた護衛用ナイフをバッグから取り出す。
両者共に、土埃が舞うくらいに地面を蹴って走り出す。
キィィン!!
両者のナイフがぶつかり合い、金属の音が鳴り響く。
中々の強敵だ。
私は防御するだけで精一杯だった。
「……早くやられなさいよ!じゃないと「あの人」が来る……!」
「……?どういうこと……?」
「あの人」というのは誰なのか?そんなことを考えていると……
「……隙あり!!」
「……!?がはっ……」
反応が……間に合わなかった。私は奈那の蹴りを思い切りお腹に受ける。
その衝撃で手に持っていた自分のナイフを私は落としてしまう。
油断した。「あの人」とは誰なのか?なんて、いらないことを考えてしまっていた。
今はこの人を倒す。ただそれだけを考えよう——。
——でも。
「ふふふ、お遊びはもうおしまい。エンディングと致しましょうか……♪」
そう言いながら、奈那は血のついたナイフを私の首に突きつける。
(でも……、この状況を、どう切り抜ける……!?)
……もう、終わりなのかな……?
……私、死ぬの……?
「さような——がはっ……!?」
その言葉を言い切る前に、奈那は思い切り誰かに飛び蹴りされた。
「えっ!?」
目の前に現れたのは……、
「藍都!?」
心配そうな表情を浮かべ、汗だくで走ってきた藍都の姿だった。
「こっちが心配することになってんじゃねぇか……!」
「ご、ごめん……!」
「……でも、生きてくれてて良かったよ、紗綾。」
「そりゃもちろん、死ぬわけないじゃん、私が!」
「今死にそうだったのに?笑」
藍都は笑いを交えて私をいじってくる。
「それは見なかったことに……」
「見なかったら死んでるでしょ?笑」
「あーもう!早く終わらせるよ!」
私はそんな藍都のいじりを振り切るようにそう言う。
「藍都……笑、まだ生きてたのね笑、もうとっくに死んだのかと思ってたのに……笑」
この女は人間とは思えない言葉ばかり口にする。
生きる価値のないゴミ。
こいつは絶対に殺さなければ。
藍都もそう思っているはず、そう思っていた。
この時までは。
「まあ、まとめて殺してあげる——」
そう言い、奈那はこっちへ血のついたナイフを持って向かって来る。
そんな奈那を見て藍都はこんなことを言う。
「待てよ豪の母さん」
「あ?」
奈那は困惑と憎悪が入り混じった表情をする。
「奈那さんは、本当に僕の過去のいじめの件をみんなに知らしめた「犯人」なのか?」
「!?」
奈那は驚きを隠せない表情をしている。
「誰かに、「動かされている」だけなんじゃないのか……?」
「う、うるさい、うるさいうるさいうるさい!!」
「「あの人」に逆らったら最後、死ぬよりも地獄なことをされる……!だから……!」
「でも……!奈那さんはこんなこと一生やっていくつもりか?今なら引き返せるんじゃないのか?」
「……誰かに動かされて生きていく人生なんて、何が楽しいんだ——?」
——僕は昔から五月雨財閥の御曹司として、両親に全て決められて生きてきた。
幼少期の頃は、そんな両親に反抗することもあった。
だが。
そんな反抗も束の間、両親からの虐待を受け始める。
それからは、もう反抗することを僕は諦める。
そして僕はいつしか、生きる意味、希望が見えなくなっていた——。
——だから。
「貴方を、僕は「信じてる」。」
「……。」
藍都の言葉に奈那は言葉を詰まらせる。
そして、
「……逃げて。「あの人」が来る前に……!」
奈那は焦りながら、小声で僕たちにそう伝える。
「「あの人」が来たらもうおし——」
バーン!!
銃声音と共に奈那の言葉が消える。
「「!?」」
目の前に居た、生きていたはずの奈那の頭からは血が大量に流れている。
急な出来事に呆然としていた僕は、気づかなかった。
ここで冷静に、近くの草むらに見える人影に僕が気づいていれば——。
「危ない!!」
その言葉と共に横に居た紗綾が僕を庇うように僕を抱きしめる。
バーン!!
その銃声音で、僕は我に返る。
僕を抱きしめていた紗綾は——
「紗綾!?返事しろよ!?紗綾!!」
——頭を撃たれ、意識を失っていた。
その直後、何者かが近くの草むらから出てくることに僕は気づく。
「!?」
草むらから出てきた男は笑いながらこう言う。
「ははっ、どいつもこいつも呆気ないなぁ〜!「藍都」w」
僕はこの男を知っている。
「父上……いや、「穂高」ぁぁぁぁ!!!!」
そう。草むらから出てきた男の正体は——
——僕の父親、「五月雨穂高」だった。
【次回へ続く】




