表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【25400PV感謝】剣に見込まれヒーロー(♀)に 乙女の舞で地脈を正します 剣巫女・剣奈 冒険の旅  作者: 夏風
第十四章 剣奈の苦難 転校先でのいじめ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

249/256

241 仲間はずれとわけっこおにぎり


 剣奈が井の小に転校した日の授業が終わり、下校時間になった。

 

「剣奈、一緒に帰ろ」

 昇降口で剣奈が上履きをしまっていると、桜井結衣が何でもない顔で声をかけてきた。後ろには彩花と七海と真由が並んでいた。


「う、うん」


 剣奈の胸の奥がふわっと軽くなった。

(もしかして、もう仲良くなれたのかも)

 そんな期待が、ランドセルの重さをすっと忘れさせた。


 校門を出て、商店街へ向かう道を歩くあいだ、結衣たちはクレープ屋の話や好きなアイドルの話で盛り上がっていた。剣奈は相づちを打つだけで精一杯だったが、それでも「輪の中」にいる感じがうれしかった。


 そして四人は小さな十字路の角にきた。結衣がふいに立ち止まった。

「あ、ごめん。やっぱ一緒に帰るの無理。こっち寄ってくから」

「そうそう、今日は彩花んち行くんだった」

「宿題、一緒にやるんだよねー」


 彩花と七海と真由が、ほとんど同時に話を合わせた。自然な会話の流れだった。


「じゃあね、剣奈。また明日ね。バイバイ」


「「「「あはははははは」」」」

 三人は軽く手を振ると、くるりと背を向けた。笑いながら、あっという間に、角の向こうへ消えていった。


「あ……うん。また明日。バイバイ……」


 剣奈は突然走り去っていったみんなに声をかけた。しかし彼女たちはとっくに走り去っていった。剣奈の声はむなしく風に溶けた。ふいにランドセルの肩ベルトが、急に重く感じた。中身は朝と同じはずなのに、肩に食い込む感覚だけがずっしりと感じられた。


(……そっか。ボク、やっぱり「おまけ」だったのかな)

 笑い声の残像だけが、道に取り残されていた。いつもの道ならここを曲がって家へ向かう。けれど今日の剣奈は、なぜか足をそのまま前に出した。井の頭公園の入口が見えた。剣奈はふらりと、公園の中へ足を踏み入れた。


 転校初日の午後の公園は、思ったより静かだった。ベビーカーを押す母親、小さな子ども、池の周りをジョギングする男性。剣奈はベンチに腰を下ろした。その瞬間、ふっと全身から力が抜けていった。


「ランドセル、重い……」

 ぽつりとこぼれた言葉は、誰もいない空気に溶けていった。


(玲奈姉……ボク、ちゃんとやるって言ったのに。初日からこれじゃ、情けないよね)

 視界が少し滲みかけた、そのとき。


「……お前も、肩やばい?」

 不意に声が聞こえた。剣奈がぼんやりと顔を上げると、反対側の端にランドセルをどさりと置いて座り込む男子がいた。ぼさっとした前髪、見覚えのある顔。


「く、黒川くん?」

「お、やっぱ久志本か。さっきのボクっ娘」


 黒川悠斗は、肩をぐるぐる回しながら、大げさにため息をついた。


「ランドセル、マジで凶器だよな。教科書入れたら、もう凶悪武器」

「……うん。ボクも、ちょっと限界」


 思わずまた「ボク」と言ってしまい、はっと口を押さえる。黒川は気にした様子もなくにやりと笑った。


「だろ?たまにさ、ここ寄って休憩してんの。今日、疲れたしさ」

 そう言って、黒川はコンビニの袋をごそごそとあさった。袋の中から、二つ入りのおにぎりパックを取り出した。ツナマヨの小さな文字が剣奈に見えた。


「……食う?」

「え?」

「二個入り買ったけど、そんな食えねーし。半分やるよ、転校初日おつかれ」


 黒河はペリッっとラップを割って、片方を当たり前のように剣奈に差し出してきた。指先に海苔のかけらがついていた。


「で、でも……もらっていいの?」

「いいよいいよ。オレも一年のときやられたからさ」

「やられた?」

「「一緒に帰ろ」って言われて、角で「やっぱ無理」ってやつ。……あれ、けっこうくるよな」


 黒川は、明るく言った。笑い飛ばそうとしているのが、なんとなく伝わってきた。


「ここ、オレの隠れ休憩ポイント。ランドセルおろして、なんか食って、「まあいっか」って思う場所」


 剣奈は、自分の手の中にある半分のおにぎりを見つめた。海苔が少ししわしわになっていた。


「……じゃあ、ボクも、ここ好きになっていい?」

「は?」

「黒川くんの、隠れ休憩ポイント。ボクも、たまに一緒に来ていいかなって」


 言った瞬間、剣奈の顔が熱くなるのを感じた。黒川は一瞬きょとんとしてから、ふっと笑った。


「いいんじゃね? 転校生専用席作っといてやるわ」

「せ、専用席?」

「そこ。さっきお前が座ってたとこ」

「あは」


 ヒュウ


 池から、風が吹いてきた。ランドセルの重さは変わらないはずなのに、肩にかかる感覚が、さっきよりほんの少しだけ軽い気がした。


(玲奈姉。ボクね)

 剣奈は、心の中でそっとつぶやいた。


(転校初日に、ちょっとだけ好きな場所と、お友達ができたかも……)


 九月の夕方の光が、井の頭公園のベンチを静かに照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ