戦争
バルミラ伯爵家 当主代理を務めるマリアの評判はまずまずだった。
シスター・マリアは街の教会で多くの人を回復させていた。普通では匙を投げるほどの病やケガでも治療してくれるとのことで、街の外からも患者が来るほどに人気だった。加えて、貧しい者には食べ物や少しのお金をこっそりとくれる、と人柄を評価する声も多く上がっていた。
一方のマリア・バルミラは、今まで苦しかった税率を積極的に下げた上、領内の職人たちにたくさんの仕事を発注していた。教会や城壁の修繕。街や村の共同施設の新設、改修。道路や治水工事など。領民を労役として徴用するのではなく、職人組合に仕事を頼んでいるから、正当な雇用がたくさん生まれていた。
「皆、お嬢様と教会の見習シスターが同一人物だとは思っていないようですが……」
「それでいいのです。ばれれば動きにくくなりますから。このまま、一人一人の領民が豊かになれば、この領地の発展にも直結します。今後ともよく勤めてください」
「畏まりました」
深々とお辞儀するセバスチャンを見送って、私はいよいよ身支度を整えることにした。
家紋の刻まれた銀の鎧に、十字をあしらった両刃の剣。そして大きな羽飾りの付いた冑。侍女に手伝ってもらいながら、着たことのない真新しい武具をまとっていく。
「お嬢様、素敵なお姿です」
「そうですか?」
思ったよりも重たくないのは、革に金属が張り付けられているからみたいだ。全体的には、実用的というより、装飾の要素が強く意匠の多いつくりになっている。
「神話に出てくる戦姫ヴァルキュリアのようです」
鏡を見ると、確かに北欧神話の女神みたいだった。美しい容姿と相まって神秘的すらある。美人になれて本当に良かった。
「うん。悪くないね」
「もちろんですとも。お嬢様のこのお姿を目にすれば、味方の士気はぐっと上がりますよ」
だから、こんなに装飾が多いのか。コスプレみたいだけど、ちょっと気に入ったかもしれない。
どうしてこんな格好を私がしているかというと、話は少しさかのぼることになる。
もともと人間と魔族は大陸北部の緩衝地帯で数年ほど小競り合いを繰り返していた。どちらも本気で攻め込むことはなく、ぬるい膠着状態が続いていた。
しかし、一月前ほどに、魔族が予想外にも南の海から侵攻を開始したそうだ。それも寄りによって、私たちのスカルド王国へ攻めてきたらしい。まず南部の港町を防衛する城が陥落。そこを拠点にして、侵略の足場を固める要塞を築き始めている。
スカルド王は直ちに全貴族に号令を飛ばし、近隣の人間諸国へ援軍を求めた。当然、私たち伯爵家にも召集がかかったのだった。
戦争への参加は貴族の義務であるこの世界。
操り人形にした豚伯爵の代わりに、私が戦場へと行くことになった。
「本当に素敵です」
うっとりとした瞳で私の姿を褒める侍女に、少しだけ背中が冷えるように感じながら、魔王である私は、魔族と戦うために出立することにした。
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