勇者
戦場に到着した私は、すぐに軍の登録と王への挨拶をしなければならなかった。丘の中央に配置された国王の天幕には、国獣である狼をあしらった軍旗がきらめいている。
「失礼いたします」
私は、衛兵や諸将に囲まれたスカルド王の前に出て跪いた。
「バルミラ伯爵が娘、マリア・バルミラ。陛下の命により兵500と共に参上いたしました」
「頭を上げよ」
幕屋に設けられた王座にすわっている男は、獅子王とも呼ばれるスカルド王だ。初めて拝見したが、初老と言ってもいい年齢に似合わず、鍛えられた大きな体と、よく響く精悍な声をしていた。
「ほお、バルミラ家にこれほど美しい姫がいたとは。まるで神話の戦姫が我が軍に舞い降りたのかと思ったぞ」
「もったいないお言葉でございます」
本陣に到着してからというもの、みんなの熱い視線が注がれているのを感じていた。
「しかし、なぜ伯爵本人ではなく、マリアが来たのか?」
「はっ。父は心の病にかかっており、戦場へ出れる状態ではありません。……女の身ではありますが、私がバルミラ家を代表しての参加を、どうぞお許しください」
「ほお、立派な心掛けだ」
王の周囲に控えている諸将からも、称賛の声が上がる。
「でも、初級の回復魔法が使える程度か」
ふと、王の横に立つ中年の男が言った。
私をなめるように見つめると、「LV.6ならそんなものか。職業はシスター……当主代理? 魔法職なのに剣なんか下げて戦えるのか?」
「勇者殿。初級でも回復魔法を使えることは珍しいのですぞ。口を慎んでいただきたい」
将軍の一人がこの男を軽く諫めた。
「……勇者様ですか?」
「そうだ。驚いただろう」男は金色の悪趣味な鎧を鳴らして言い放つ。「俺が異世界から召喚された勇者だ。俺のレベルは50! 人類最強だ! ここにいる人間どもが束になっても、傷一つ負わせることはできないだろうな。……くれぐれも俺の足を引っ張ることだけはしないでくれ」
諸将に含みのある傲慢な視線を向けるも、誰も言い返すことはなかった。
でも、彼の言ったことは間違いだ。
ここに、勇者を殺せる『魔王』がいるのだから。
LV.50 『異世界の勇者』
STR.112
VIT.80
INT.85
RES.60
『聖剣使用可能:あらゆる聖剣を使用できる(勇者のみ)』
『身体能力向上:STRとVITを30%アップ』
『神聖魔法付与:剣に神聖魔法を付与することができる』
『勇者の雷光:上級神聖魔法(特にゾンビ系、悪魔系に有効』
『鑑定:相手のステータスを確認することができる』
『地図:周辺の地形をマッピングすることができる』
私は思わず驚いてしまった。声を出さないようにするのが精いっぱいだった。
しかし、彼は私の表情を誤解したようだ。
「まあ、お前なら私のパーティーに加えてやってもいいぞ。なかなか可愛いいしな。声援でも送ってくれれば、ちょっとはやる気も出るかもしれないな」
いや、待ってほしい。
『魔王』のライバルは『勇者』と昔から相場は決まっているじゃない? なのに、LV.999の魔王とLV.50の勇者じゃ話にならないわよね。確かに周りの将軍たちでさえLV.30もないことを考えると、勇者は一番強いかもしれない。
でも私、一番低いSTRでさえ500あったよね。
……勇者のおじさんはどや顔で調子に乗っちゃっているけど、『鑑定』でステータスを覗かれていることにも気づいてなかった。なんの対策もしてないらしい。
「勇者様に恐れながら申し上げます」
私は静かに立ち上がると言った。
「私は国王陛下の臣下でございます。この身は戦場で国王陛下の剣、また盾となるため参上いたしました。勇者様のお申し出であっても、陛下をないがしろにして、お供することはできません」
「……なんだと。勇者の私と一緒に来ないのか?」
傲慢な態度だった勇者のおじさんは、みるからにションボリした様子になった。
「もちろんこの戦いの後でしたら、お話をお聞きしたく思います。戦場での勇者様の武勇を是非お聞かせくださいませ」
忘れずに無垢な笑顔を浮かべてみせる。
「それがいい!」すかさずスカルド王が言った。「このような美しい姫に物語をせがまれるとは羨ましい限りですな。これは語り草になるような武功を、何としても立てなくてはなりませんな」
「そっか。そうだよな! よし、終わったらいっぱい話を聞かせてやるから、楽しみにしていろよ」
再び勢いを取り戻した勇者は肩を怒らせながら幕屋を出ていった。
後に残された皆が深いため息を吐いたのは、言うまでもない。
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