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聖女と呼ばれたいので、世界最強の魔王であることを隠して生きていきます  作者: 泣き虫ピエロ
魔王であることは内緒です
10/26

勇者

 戦場に到着した私は、すぐに軍の登録と王への挨拶をしなければならなかった。丘の中央に配置された国王の天幕には、国獣である狼をあしらった軍旗がきらめいている。


「失礼いたします」


 私は、衛兵や諸将に囲まれたスカルド王の前に出て跪いた。


「バルミラ伯爵が娘、マリア・バルミラ。陛下の命により兵500と共に参上いたしました」


「頭を上げよ」


 幕屋に設けられた王座にすわっている男は、獅子王とも呼ばれるスカルド王だ。初めて拝見したが、初老と言ってもいい年齢に似合わず、鍛えられた大きな体と、よく響く精悍な声をしていた。


「ほお、バルミラ家にこれほど美しい姫がいたとは。まるで神話の戦姫が我が軍に舞い降りたのかと思ったぞ」


「もったいないお言葉でございます」


 本陣に到着してからというもの、みんなの熱い視線が注がれているのを感じていた。


「しかし、なぜ伯爵本人ではなく、マリアが来たのか?」


「はっ。父は心の病にかかっており、戦場へ出れる状態ではありません。……女の身ではありますが、私がバルミラ家を代表しての参加を、どうぞお許しください」


「ほお、立派な心掛けだ」


 王の周囲に控えている諸将からも、称賛の声が上がる。


「でも、初級の回復魔法が使える程度か」


 ふと、王の横に立つ中年の男が言った。


私をなめるように見つめると、「LV.6ならそんなものか。職業はシスター……当主代理? 魔法職なのに剣なんか下げて戦えるのか?」


「勇者殿。初級でも回復魔法を使えることは珍しいのですぞ。口を慎んでいただきたい」


 将軍の一人がこの男を軽く諫めた。


「……勇者様ですか?」


「そうだ。驚いただろう」男は金色の悪趣味な鎧を鳴らして言い放つ。「俺が異世界から召喚された勇者だ。俺のレベルは50! 人類最強だ! ここにいる人間どもが束になっても、傷一つ負わせることはできないだろうな。……くれぐれも俺の足を引っ張ることだけはしないでくれ」


 諸将に含みのある傲慢な視線を向けるも、誰も言い返すことはなかった。


 でも、彼の言ったことは間違いだ。


 ここに、勇者を殺せる『魔王』がいるのだから。



 LV.50 『異世界の勇者』

 STR.112

 VIT.80

 INT.85

 RES.60


『聖剣使用可能:あらゆる聖剣を使用できる(勇者のみ)』

『身体能力向上:STRとVITを30%アップ』

『神聖魔法付与:剣に神聖魔法を付与することができる』

『勇者の雷光:上級神聖魔法(特にゾンビ系、悪魔系に有効』

『鑑定:相手のステータスを確認することができる』

『地図:周辺の地形をマッピングすることができる』



 私は思わず驚いてしまった。声を出さないようにするのが精いっぱいだった。


 しかし、彼は私の表情を誤解したようだ。


「まあ、お前なら私のパーティーに加えてやってもいいぞ。なかなか可愛いいしな。声援でも送ってくれれば、ちょっとはやる気も出るかもしれないな」


 いや、待ってほしい。


 『魔王』のライバルは『勇者』と昔から相場は決まっているじゃない? なのに、LV.999の魔王とLV.50の勇者じゃ話にならないわよね。確かに周りの将軍たちでさえLV.30もないことを考えると、勇者は一番強いかもしれない。


 でも私、一番低いSTRでさえ500あったよね。



……勇者のおじさんはどや顔で調子に乗っちゃっているけど、『鑑定』でステータスを覗かれていることにも気づいてなかった。なんの対策もしてないらしい。



「勇者様に恐れながら申し上げます」


 私は静かに立ち上がると言った。


「私は国王陛下の臣下でございます。この身は戦場で国王陛下の剣、また盾となるため参上いたしました。勇者様のお申し出であっても、陛下をないがしろにして、お供することはできません」


「……なんだと。勇者の私と一緒に来ないのか?」


 傲慢な態度だった勇者のおじさんは、みるからにションボリした様子になった。


「もちろんこの戦いの後でしたら、お話をお聞きしたく思います。戦場での勇者様の武勇を是非お聞かせくださいませ」


忘れずに無垢な笑顔を浮かべてみせる。


「それがいい!」すかさずスカルド王が言った。「このような美しい姫に物語をせがまれるとは羨ましい限りですな。これは語り草になるような武功を、何としても立てなくてはなりませんな」


「そっか。そうだよな! よし、終わったらいっぱい話を聞かせてやるから、楽しみにしていろよ」


 再び勢いを取り戻した勇者は肩を怒らせながら幕屋を出ていった。


 後に残された皆が深いため息を吐いたのは、言うまでもない。


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