木こりの若者
ある子爵の領地から一人の若者が戦場に来ていた。二十歳そこそこであるが、木こりとして働いているおかげで、戦斧を上手に使いこなす自信があった。
この戦で魔族をたくさん倒して、褒美をたくさん貰うんだ。そして、その金で家を建て、やもめの母親に、楽をさせてやりたい。
戦斧の柄を握りしめるこぶしに、幾分の力が入る。
「おい、今回の魔族には、『魔王』がいるらしいぞ」
緊張する若者に話しかけてきたのは、同じ村から来た男だった。若者は戦に参加するのは初めてだが、こちらの男はすでに経験済みだ。
「『魔王』が?」
「そうだ。『魔王』がいよいよ人間世界への侵略を本格的に開始することしたらしいな」
「なら」若者は少し不安になって訊いた。「これまでのように小競り合いでは済まないってことなのか」
「恐らくな。でもこっちにも『勇者』様がいるから心配することはないぞ。さっきちらっと見たが、立派な鎧を着た強そうな方だった。何しろ獅子王よりも強いとか」
「あの獅子王よりも……」
獅子王・スカルドは若いころから何度も魔族と戦い武功を多く立てた英雄だ。この国の者は、皆その英雄譚を聞いて育つ。
「それなら、俺たちが負けるわけねえな」
『魔王』がいると聞いて不安になったが、『勇者』がいるなら話は別だ。スカルド王の英雄譚と同じくらい、歴代勇者の物語もよく知っているから。
ところが、戦が始まってみると、そう簡単にはいきそうになかった。
若者たちが配属された右翼は、魔族の猛攻にあい、仲間たちがみるみる倒れていった。何しろ数が多い。自分たちの倍はいるかもしれない。そう思った瞬間に、腰から力が抜けるように感じた。
「勇者様は何をしているんだ! 早く魔王を討ってもらわんと、やられちまうぞ!」
誰かがそう叫んだ。
もう数刻に及ぶ戦闘で、体は傷だらけ、戦斧を握る手さえ疲労で震えていた。
「くそ、母ちゃんが待っているんだ」
勇んで出立する若者を不安そうに見送る母の顔が思い浮かんだ。
「なんとしてでも生きて帰るんだ」
父親を戦場で亡くした母を、再び悲しませることはできない。
若者がもう一度気力を振り絞り、戦斧を握りなおしたとき。
戦列が瓦解した。
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