戦姫ヴァルキュリア
立派な鎧を着た魔族の武者が切り込んできた。数人がかりで応じるも、全く歯が立たない。
疲れ切った体を、絶望の感覚がむしばんでいく。
「ダメだ! 勝てない」
誰かがそう言うと、あっという間に恐怖が全体に広がり、戦列は崩れてしまった。
「勇者様!」
そう叫んでも、もちろん勇者はやってこない。彼は中央で魔王の本隊と戦っているはずだ。もうダメだ。迫りくる魔族の刃に若者がそう思った時。
「皆! 気を引き締めろ! ここで引いてはならん!」
凛とした声が隊に響いた。
風を切るようにして、声の主は戦列を駆け抜けると、武者に向かって鋭い一撃を加えた。
銀の鎧から、金色の髪がなびく。
「我々の後ろには家族がいることを忘れるな! 我々が倒れることは、家族が倒れるここと思え! 愛する者のために戦え! 故郷を守るために戦え! 我はバルミラ伯爵が娘、マリア・バルミラ! 我の後に続け!」
ひらりと背を返した後に、おそらく彼女の手勢の兵士が続く。
若者と同じ平民の武装だが、勇猛に叫びを上げ魔族に突っ込み、戦線を押し返していた。
「戦姫様だ!」
「戦姫様が助けに来てくださった!」
疲れ切った仲間たちから希望の声が上がった。その瞳には活力が戻っている。
魔族の武者を退けた戦姫様は、こちらを振り返ると剣を天に掲げ、祈りを捧げた。
「万軍の至高者、我らが神よ。この者たちの勇気に答え、再び戦う力を与えたまえ!」
若者の体からきらめく光が上がり、次々に傷が癒されていく。
戦闘による疲労感も抜け、凝り固まっていたこぶしに、再び温かい血流が流れていくのを感じる。
「なんてことだ。これは中級回復魔法じゃないか?」
そう誰かが言った。
「いっぺんに傷を治すなんて、そうに違いない。……やはり、あの方は戦姫様だ!」
「ヴァルキュリアさまだ!」
戦場に舞い降り勝利を与える美しき女神ヴァルキュリア。司祭クラスしか使えない範囲回復魔法を、戦いながら放ったように見えたため、皆がそう思った。
「お前ら、うちのお嬢様に続け!」
バルミラ領の兵士が叫んだ。
「おお、行くぞ!」
さっきまで戦意を失っていたのが嘘のように右翼は力を取り戻し、魔族を叩き続けた。
「戦姫様を守るぞ!」
口々にそう叫ぶ兵士を振り返って、マリアは深いため息を吐いた。
「聖女様では……ないのね……」
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