異端審問官
「私がシスターであることは、皆さんであればすでにご存じですよね。実は私は『神の裁き』を使うこともできるのです」
三人の顔色がサッと変わるのが分かった。
「異端審問官……」
いきり立っていたあのムラーノでさえ、冷や水を浴びたように顔を青白くしている。
この『神の裁き』は最上級に属する神聖魔法とされている。対象の心の在り方を探り、正しき者には何の害もないが、邪な者は死に至らしめるとされるスキル。
人には分からない他人の心を映すスキルであるゆえに、『神の裁き』と呼ばれている。
さらに、邪と判断されたものは確実に死ぬ上に、死後も地獄へ行くとされることから、ことさらこのスキルを恐れる者は多かった。
「こんな小娘が異端審問官のわけがないだろう!」
ムラーノが叫んだ。
神から裁きの代行権を与えられたに等しいスキルを持つのが異端審問官だ。それゆえ、普通は長年忠実に神に仕えてきた、徳の高い年長者が授かる。もちろん私も持ってない。
「確かにハッタリだろう。もし『神の裁き』を使えるなら、教会内でもそれなりの立場が与えられているはずだ。ところがそんな話は聞いたことがない」とアルデンは言った。
「なら、試してみましょう。もし皆さまが良心に恥じるところがなければ、何の問題もないのです」
私はムラーノへ向き直ると、手をかざし神に祈りを捧げた。
「神聖にして至高者なる父よ、どうかこの者の心を明らかにし、ふさわしき裁きをお与えください。善なる者には安息を、邪なる者には死を賜りください」
「や、やめてくれ!」
ムラーノ瞳がカッと見開かれた。
『幻惑』のスキルで、この部屋の者には、私の後ろに天使と悪魔が見えているだろう。ついでに、神々しい翼も私の背にはやしておく。
「いやだ!」
逃げようとするムラーノへ『死』のスキルを放つと、彼は床に倒れこむようにして動かなくなった。
『幻惑』の幻がなくなり、もとの静寂が訪れる。
あるのは腰を抜かした商人二人と、死んだ商人が一人。
さすがは私の執事セバスチャンは直室不動の姿勢を崩しては無かった。内心では驚いたに違いないだろうが……。
「やはり、彼は邪悪な心で領民を虐げていたようです。商人としての分も超え、私腹を肥やすために手を悪に染めていたのでしょう。神の裁きが下りました」
誰も口を開こうとしない。
見たことに呆気にとられたていた。
「それでは」と私は再び手をかざす「お二人も神のみ前に立たれるがよいでしょう」
「ちょっと! ちょっとお待ちください!」
慌てて平伏した二人の商人は、額を床にこすりつけながら叫んだ。
「私どもが間違っておりました。これより心を入れ替え皆のために励んでまいりますので、今一度機会をお与えください。どうか、悔い改めの機会をお与えください」
他人から搾取することを何とも思っていなかった商人二人が、今や地獄送りを目の前にして、私の裾にすがり付いて懇願している。
「なんでもいたします。マリア様の言うとおりにいたします。どうぞ悔い改めの機会をお与えください!」
まあ、そりゃ永遠に拷問される地獄に送られるのは、死ぬより怖いから必死になるよね。
この機会に、私はことさらに畏まって言ってみせた。
「分かりました。では、神のみ前で恥じることがないよう、これからは正しい生き方をするのですよ」
「はあああ」
これより後、二人の商会は民から搾取することをやめ、健全な取引契約を結ぶようになった。しかも、今までよほど裏であくどいことをしていたのか、善行をつもうとして慈善事業にまで手を出すようになり、バルミラ伯爵領では格差が大きく改善されるようになった。
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