シスター・マリア
この世界では、魔法を使える存在は貴重だった。それが実用レベルで使える者は、将来の成功が約束されているようなもので、身分にかかわらず取り立てられることが多かった。
特に、神聖魔法を授けることのできる教会の権威は絶大で、基本的に回復系の魔法を使える者は教会に属しているそうだ。
私は自分の思い違いに気づいたのだが、スキルはどこかで習得しなくてはいけないらしい。魔法の素養のある者が、スキルを学ぶことによってはじめて、魔法は行使できるらしい。つまり、魔法を学ぶ機会がなければ、自分にその素養があるかどうかも分からないことになる。この世界の人々は、私のように最初からスキルを習得しているわけではないようだ。
それで、回復魔法が使える私は、教会からその方法を教えられた聖職者と、皆が信じて疑わなかった。
そんな背景のおかげで、私は何も不自由もなく、街の教会で働くことができるようになった。
医療が祈祷とされるこの世界では、教会が診療所を兼ねている。ちょっとした風邪から、事故によるけがまで、街のすべての人がこの教会で治療を受ける。
そして、神からの力とされる神聖魔法による癒しを受けるためには、礼拝堂で罪を告白し、免罪符をもらわなければならない。宗教を持っていない私にとっては、なかなか奇妙な教えだったけれど、今はシスターになっているのだから、神妙な顔をして患者にこう言わなければならない。
「あなたの罪は許されています。神に祈り、聖なる力をお受けください」
まあ、その回復魔法を『魔王』の私が施すんだけど……。
おかげで街の人たちと話すことができたし、いろいろと大変な生活をしていることも分かった。
ボロを着て明らかに栄養失調の人には、こっそりと少額のお金を持たせてあげた。
「マリア様。娘の病を治してもらったばかりか、お金まで下さるなんて、申し訳なくて受けとれません」
「あまり大きな声を出さないで」私は周囲に目線をやった後、「私のお給金からです。皆に渡すことはできませんから、誰にも言わないでください。そのお金で娘さんに栄養のあるものを食べさせてあげてください」
「なんて、お優しいお心遣い……」
小さな娘を教会に連れてきた父親は、涙を流しながら受け取ったお金を握りしめた。
「いいのです。でも、くれぐれも口外してはなりませんよ。不公平になりますから」
「はい……はい」
そう言って出ていった父親の顔を私はいつまでも忘れることができなかった。こんなにも困っている人がいるのに、彼らは放置されているのだ。これまで優遇されていた者の反発を恐れていては、本当に彼らは死んでしまうかもしれない。
私は次の患者に向き直りながら、焦燥を感じずにはいられなかった。
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