領地の問題
バルミラ伯爵家領は、南の漁村から発展した土地だ。
特に広くもない領地だが、沿岸に生えている葦を原料としたガラスの生産が盛んになり、国内外に輸出するようになったことによって、豊かになった。
加えて、少量ではあるものの、サンゴや真珠の生産も行われ、観光地としても知られている。全体的に農産物の生産高は多くないが、代わりに海からの産物で、ほとんどの人々は生計を立てていた。
しかし、一方で既得権益が一部に集中し、貧富の差が広がっている。
例えば、特産品を作っている工房は、生産品を大商会に専売的に買い叩かれ、負債さえ持っているところがあった。
なのに、改善を試みる政策を豚伯爵がするわけもなく、多くの賄賂を渡してくる商人を優遇し続けていた。
「領民の様子はいかがですか?」
私は報告書に目を通しながら、この家の執事長セバスチャンに訊いた。彼は60を超え、先代の時から執事として仕えている。
「貧しい者はその貧しさから抜け出すことができない状態です。税も六割と高く、働いてもほとんど手元に残りません」
「六割もとっているのですか?」
「はい。加えて教会への税が一割ありますので、民に残るのは三割です」
「先代はうまく領地を経営されていたと聞きました。どのくらいとっていたのです?」
「三割です。先代は領地を豊かにするために、税を軽くされました。しかし、お父上が伯爵になられてから税率が引き上げられたのです」
私は頭を押さえてから言った。
「あなたの裁量で税率を下げください。それに、調度品や贅沢品にお金をかけすぎです。私はこんな悪趣味は屋敷に住みたくありません。メイド長と相談して、この家をシンプルで気品のあるものにしてください」
「畏まりました」
「……そうです。いらないものは売り払って、代わりにガラス工房から名品を直接買い取って屋敷に飾らせてください。領地の特産品を飾れば訪問客への宣伝にもなりますし、工房の負債もいくらか改善できるでしょう」
報告書を見ると、いかに豚伯爵が散財していたかが分かる。
そもそも伯爵のくせに侯爵様よりも金持ちぶって何様のつもりなのかしら。そんなの周りの妬みを受けるに決まっているのに。
「セバスさん。私は領民の様子をこれから見てこようと思います。教会に見習のシスターとして入りこめば、皆の様子が分かるでしょう」
「畏まりました。では先方には私からお話を通しておきましょう。とはいえ、今やマリア様は当主様の代理。何かあっては一大事ですから侍女と護衛をお付けいたします」
「分かりました。なるべく目立たないようにしてください」
「畏まりました」
深々と頭を下げ出ていくセバスチャンは、これこそ執事の鏡という感じの有能な紳士だった。確かに平民ではあるものの、どちらが貴族か分からないくらい博識で品がある。
「主人失格ですね」
私は部屋で閉じこもったままの豚伯爵を思い出して、そう呟いていた。
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