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聖女と呼ばれたいので、世界最強の魔王であることを隠して生きていきます  作者: 泣き虫ピエロ
魔王であることは内緒です
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豚の正体

 その日の深夜。マリアの寝室のドアが静かに開いた。


 のそり、という言葉に似合う緩慢に動く巨体が、ベッドの方へ少しずつ近づいていく。月明りでも明らかなそのシルエットは、豚伯爵のそれだった。


 彼はマリアが眠るベッドへ上がると、彼女が驚くのも構わず覆いかぶさる。


「ほれ、起きよ。楽しい時間じゃぞ。ぐへへぇ」


 脂肪にまみれた巨体を少女の細腕でどうにかできるわけがない。マリアは苦しそうに顔をゆがめると、恐怖に震える声で言った。


「どうして、です? お父様?」


「はぁぁあ」伯爵は楽しそうに笑うと、「私が父親のわけがないだろう? 馬鹿が。お前が上玉だったからそういうことにしといただけだ」


「なっ?」


「私には妾やら愛人やらがいっぱいいる。そのうちの、どれからの娘にしておけばばれることもないだろう」


「だましたのですか?」


 マリアは必死で抵抗するも、豚伯爵はそれを許すはずもない。


「だまされる方が悪いだろう? これからはわしが飽きるまで可愛がってやるから、感謝しろよ。お前みたいにどこの馬の骨とも知らない居場所のないヤツを、この屋敷においてやるのだ。ありがたく思え」


 彼はゆっくりと彼女の嫌がる表情を楽しみながら、花びらのような唇に吸い付こうとした。


「ん?」


 柔らかい。


 柔らかいが……これはなんだ?


 豚侯爵が気づくと、ベッドに置かれた枕にキスしていた。ちなみに、興奮した彼のよだれでべっとりだ。


「やっぱり、クズでしたか」


 私は化粧台から一部始終を眺めていた。


「お前? いつからそこにいた」


「最初からですよ」


 月明り越しに見ていた伯爵の姿は、人というより、魔物のようだ。醜悪で、腐れ切っている。地位と金を笠に着て、多くの女の子たちを好きにしてきた獣の姿だった。


 この豚の正体を知るために、『幻惑』を使って私がベッドで寝ているように見せていた。


「なら、わかるだろう? ここに置いて欲しければ、わしの言うことを聞くしかないぞ」


「なぜでしょうか?」


「なぜって、わしはこのバルミラ伯爵家の当主だからだ」


「質問があります」


 伯爵は少し面食らったようだが、ベッドの上で胡坐をかくと言った。


「妙に落ち着いているな? まぁ、いい。なんだ?」


「あなたには子供がいるのですか? いわゆる認知している、あとを継がせる予定の子供です」


「ん? まあ、今のところいないな。必要なら探し出せばいいだろう?」


「つまり、子供はできたが放り出したということですか?」


「そうだ」


 ここまで腐りきった貴族を目の当たりにするのは、当然初めてだった。物語にはこのような者がよく出てくるけれども、現実に出会うことになるとは。


 でも、目の前の豚は紛れもなく伯爵であり、かなりの財力もあるらしい。


 恐らく、うまく立ち回って悪事をつつかれないようにしているのだろう。


「クズですね」


「はっ? キサマ! この私になんと言った!」


 豚伯爵は、人というよりゴブリンのような醜悪な顔を突き出して叫んだ。


「許さんぞ! わしを愚弄するとは! 優しくしてやろうと思っていたが、気が変わった。今更許しを乞うてもダメだ。めちゃくちゃにしてやるからな!」


 その巨体が跳躍し、踊りかかる。


 けれど、私は片手を差し出すと、その首をつかみ上げ床に叩きつけた。


「本当にクズですね」


 床に頭を打ち付け転げまわる侯爵を、容赦なくまた片手でつかみ上げると、壁に放り投げる。さすがに伯爵が巨体なので家具がすごい音を立てて壊れ、壁の装飾にひびが入った。


「あまり大きな音を立てると、屋敷の皆さまの迷惑になりますから、この辺にしときます。大丈夫です。殺してしまいたいところですが、折角なので生かして利用させていただきます」


 私は『隷属』と『催眠』のスキルをかけ、意思を素早く刈り取った。少しだけ体を震わせた伯爵は、魂の抜けたうつろな表情で虚空を眺めている。


「お父様、私はあなたの娘のマリア。お父様はお怪我もされていますし、家のことはすべて私にお任せください。お父様はお部屋に籠ってお休みいただいていればよいのです」


「……そうだな。そうしよう」


 伯爵は静かに部屋を後にする。言われたように、自室に籠るために。


 その後、彼が部屋から出てくることは無かった。使用人にも嫌われていた伯爵は、精神を病んだものとされ、そのまま放っておかれた。そして、正式に娘と認められたマリアは、バルミラ伯爵の代理としての立場も手に入れることになった。


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