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聖女と呼ばれたいので、世界最強の魔王であることを隠して生きていきます  作者: 泣き虫ピエロ
魔王であることは内緒です
18/26

一枚の保証

「ありがとうございます……」


 ひとしきり泣いた女性は、落ち着きを取り戻すと、私の向いに腰を下ろして頭を下げた。


「お嬢様自らこのようなところまで、息子の品を届けに来てくださるなど。身に着けていた物だけでも戻ってきてくれて、よかったと思います」


 遺体は乱戦のさなかに兵たちに踏みつぶされて、見る影もなくなっていた。


 最後の姿さえ見ることもできなかった彼女の心中は、とても『よかった』というものではないだろう。


「こちらはお嬢様がお考えになられたものにございます」とセバスチャンが1枚のカードを差し出した。


 それは鉄で作られていて、兵士の名前や住んでいる町、血縁者、どの戦いに参加したかなどが書かれている。


「このカードを持つ領民は、月初めに伯爵家から生活費を受け取ることができます」


「このようなものまで」


 この世界では、戦場で死んだからといって、何かの保証が受けられるわけではない。だから、残された家族の生活は悲惨なものだ。


「あなたの息子さんは、この国のために、伯爵家のために、家族のために戦いました。それはとても勇気あることだと思います。私はその勇気に敬意を表して、この制度をつくりました。このようなことをしても、息子さんが返ってくるわけではありませんが、少しでも何かをさせていただければと思っています」


「ありがとうございます」


 カードを両手で握りしめた女性は、テーブルにぶつかるほど頭を下げた。


「そして、今回亡くなった方のための式典も執り行うつもりです。伯爵家ができるのは勇気ある行いをしてくださった皆さんのために、栄誉を与えることくらいです」


「ありがとうございます。天国の息子も安心していると思います」


 彼女の顔は下げられていて見えなかったが、テーブルの表面には涙の跡が滲んでいた。


 きっと亡くなった息子は、この母との生活を豊かにするために志願したのだろう。おそらく家具や食器からするに彼女の夫はもうおらず、息子が唯一の支えだったに違いない。


 あまりに大きなものをなくしてしまった女性に、私ができることは少なかった。



 彼女は何度もお礼を言うと、次の家へ向かう私たちをいつまでも見送ってくれた。


 私は馬車の中からその様子を振り返り、小さくなっていく姿に胸が締め付けられるような思いがしていた。


「セバスさん……これでよかったのでしょうか?」


「ええ」深くうなずいた彼は、「お嬢様がされたことは、かの者にとって本当に助けとなることでした。本当にご立派な行いだと思います」と言った。


「そう」


 でも私の気持ちが晴れることは無かった。


 その日はずっと、彼女の家の片隅に置かれていた男用の服のことが頭から離れなかった。もう決して着られることのない服。その服から青年の残り香が薄れていくとき、少しは女性の悲しみも薄れてくれるのだろうか?


 私はそう願わずにはいられなかった。



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