領主の責務
「すべてお嬢様の指示通り整えております」
「ありがとう、セバスさん」
私は執事長のセバスチャンに連れられて、ある民家に来ていた。この扉を開くのは本当に気が重い。
「ではグラス。私の訪問を伝えていただけますか?」
「はっ」
私が衛生用幕舎で治療したグラスは、この家の人と知り合いだった。
家の中でバタバタとしばらく音がしたかと思うと、静かに扉が開き、グラスと共に女性が姿を現した。
彼女は私が制止する間もなく身をかがめると言った。
「こんなところまでお嬢様自らどうして……」
「突然に申し訳ございません。私はマリア・バルミラと申します。このバルミラ伯爵領で当主代理をしておりますし、今回の戦争では伯爵軍の将として参戦しました」
「はい。存じております」
不安そうな瞳が私を見ていた。
女性は私たちを部屋に招き入れると、ひたすら恐縮しながら家のお茶を出してくれた。確かにお屋敷で飲むような品質のものではない。でも、普段から教会で見習をしている私は、久しぶりの渋いお茶の味にほっとする感じがしていた。
家の中を見てみると、けっして豊かではないが、機能的で、生活感の溢れた部屋だった。けれども、そのほとんどがもう使われることがない物であることも知っていた。
椅子に座った私のわきで、平伏して体を小さくしている女性に言った。
「今日はこれらのものを、あなたにお渡しに参りました」
セバスチャンがそっと袋を差し出すと、その中身を見た女性は目を丸くした。
そこには、戦場で死んでしまった彼女の息子の遺品があった。
潰され、斬られ、折られた装備品が、いかに今回の戦いが厳しいものだったかを物語っている。
「これは息子の……」
「はい。この領からの志願兵の防具には、バルミラ家の紋章が刻まれていますから、間違いはないと思います」
「そうですか……では、息子はやはり」
凱旋の行列に息子がいないことが分かっても、もしかしたら、と思うのが家族だ。もしかしたら、行列からはぐれて遅れているのかもしれない。もしかしたら、けがをしてどこかの幕舎で治療を受けているのも知れない。もしかしたら、羽を伸ばしてどこかで酒でも呑んで騒いでいるのかもしれない。
だから、遺品を渡すことはそのかすかな希望を打ち壊すことだ。
私は涙を流す女性の傍らに膝をつくと、細かく震える背中をさすった。
「無事に帰すことができずに、本当に申し訳ありません」
「あああああ!」
女性は壊れかけたプレートを抱きしめて泣き始めた。
胸が切り裂かれるような、ただ悲しい悲鳴だった。
「本当に、申し訳ありません……」
私はただそう言って、彼女が泣き止むのを待つことしかできなかった。
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