凱旋
バルネア伯爵領の領民は大いに喜んでいた。魔族の奇襲で国が侵略されたにも関わらず、伯爵領から志願した兵の死者は、かなり少ないと聞いていたからだ。勇者さえ重傷を負った熾烈な戦いだったと噂が流れたときには、兵として出かけた者の家族の頭には、最悪の状況がよぎったに違いない。
けれど、手足を失う重傷者は5名。死者は8名と、非常に少ない被害で伯爵軍は帰還することができていた。
そういうわけで、私たちが城門をくぐると、一斉に歓呼の声が上がった。
割れんばかりの歓声があたりに満ち、街の住民たちは貝を細かく砕いた粉を巻いて、喜びを表していた。
貝殻の磨かれた膜が陽の光に煌めき、お祭りの時のようにあたりは華やいでいた。
「お嬢様!」
「マリア様!」
あちこちで私の名前が呼ばれ、領民たちが両手を上げて帰還を祝う。
「シスター!」
そういう声も聞こえていたから、もう私が教会で働いていたのは皆にばれてしまったに違いない。
「お嬢様! おかえりなさいませ!」
私のすぐそばまで駆け寄ってきたのは、ナポリとアルデンだった。今では色々とこの領の中で貢献してくれていて、経営に関しての重要なアドバイザーとなっている。私が留守の間も、セバスさんと一緒にいろいろな制度を整えてくれたはずだ。
「お二人とも留守をお任せして、ご苦労をおかけいたしました」
「とんでもございません。お嬢様のお言いつけ通り、しっかりと進めてまいりましたので、支度は整っております」
私は二人に礼を言うと、再び周囲の歓声にこたえて手を振った。
時折、凱旋の行列から、家族を見つけた兵たちが離れ、笑顔で抱き合っていた。本当なら注意しないといけないのだろうが、私は叱責の代わりに周りの人々に声を掛けることで、ゆっくりと進むことにした。
父親と、夫と、子供と。死地に赴いた兵士たちの家族は再会を果たして喜んでいる。
「お嬢様! ありがとうございます!」
おそらく兵士の妻なのだろう。若い女性が私に頭を下げていた。
彼女の言葉に答える代わりに、黙って私は頷くと、これからしなければならないことを考えて気を引き締めることにした。
なぜなら、伯爵軍を迎える群衆の中に、おろおろとしている女性を見かけたからだ。
残念なことに彼女の息子は、死んでしまっていた。
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