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Alex:2032  作者: 果糖
19/22

十九話

すさまじく遅い更新。すいませんでした!

 


 相も変わらず薄暗い通路を進む三人。



「テオ、魔法について質問したいことがあるんだが」

「へ?」



 アレックスが後ろを振り返らずに話しかけると、

 気の抜けた声が返ってくる。



「へ?じゃない。

 どうした?遂に脳みそまで筋肉になったか?」

「誰が脳筋だ!」



 ……と言われても。という風に肩を竦めるアレックス。

 しかし一方的に脳筋と言ってしまうのも子供の悪口のようで情けない。

 ここは一つ冷静になって、今までのコイツの行動を思い返してみよう。



 そう考えたアレックスは早速、今までの道中で起こった戦闘。

 特に前線で戦っていたテオの雄姿を思い浮かべることにした。





(見つけて、走って、叩き潰す。その後見つけて、走って……)





 ……あれ?コイツやっぱり脳筋じゃね?

 というかどう見ても脳筋だろう。勢いよく大剣を振り回す筋肉オバケだろうコイツ。



 ――結論は既に付いた。

 スッキリとした面持ちでアレックスはテオに向き直る。

 そして爽やかな笑顔で一言。





「――――やっぱり、お前は脳筋だな!」

「結局それかよ!?」



 暗闇の中で続く二人の漫才。

 その声に反応したのか、横道の暗がりから軽い足音が響く。



「――あれ?何の話してたんですか?」



 そう言って出てきたのは、索敵の為に先を進んでいたリリィだった。

 きちんと仕事をしてきたのに年上の男二人が遊んでいるこの状況だが、

 本人は特に気にする様子もなく、むしろ三人でのダンジョン調査を楽しく感じているようだ。


 正にピュア。完全に純粋そのものである。





 ◇◇◇◇





 ……それから十分程経過して、男二人は意味不明の罪悪感から回復した。



 その後、二人は不思議そうな顔で首を傾げるリリィに、

『魔法の事を教えてもらいたい』というアレックスの頼みを伝えることにした。



「……魔法、ですか?」

「ああ。俺は専門外だから、リリィに聞いてみろって話をしてたんだ」

「でも、私もメイジじゃないので魔法の事はそこまで詳しくないですよ?」



 申し訳なさそうにするリリィ。

 だが、そんなこと気にもせずにアレックスは。



「しかし私自身、まだ戦闘も数える程しか経験していないんだ。

 肝心の魔法も……火球を何度か撃っただけだな、うん」

「バカか?」

「お前がバカだ。



 ……それで、どうだろうか?基礎だけでもいいんだ。教えてくれないか?」



 テオとの幼稚な争いを中断して、頭を下げるアレックス。

 その真摯な態度は何気に珍しい光景だった。



「わ、分かりました!分かりましたから頭を上げてください!!」



 少し悩んだ様子を見せていたリリィだったが、

 大の男に頭を下げられて驚いたのか、わたわたと手を振りながら了承する。



「と、言っても。私に教えられる事と言えば『属性』のことくらいですし……」

「……属性?」



 聞き慣れない言葉に首を傾げるアレックス。

 なにせあの師匠の弟子になってから、ログインしたかと思えば雑用と修業の毎日だったのだ。

 下手をすれば、この一週間テラから一歩も出ていないかもしれない。


 知らなくても仕方ないさ……とアレックスが開き直っていると。



「マジかよお前、属性も知らなかったのか……?」

「流石にそれはちょっと……」



 ――そんな彼を、テオ達は驚愕の、というか軽く引いた目で見ていた。



「引かれるレベルなのか……?」



 珍しく、ショックを受けたような顔で呟くアレックス。

 それを面白そうに見つつ、テオは口を開く。



「だってお前。戦闘職……特にメイジだったら知らねぇはずがないことだぜ?」

「やっぱり師匠のご友人なんですね……ようやく理解できました」



 初日に杖で殴ったり、人形に異常な執着を見せていたことを思い出し、

 若干遠い目で暗い天井を眺めるリリィ。



「……まあ、もういいです。それより属性の説明をしましょう」

「ああ、よろしく頼む」

「では初めに……この世界、システム上『アエラ』と呼ばれる世界には六つの属性が存在します」


 リリィはそう言って両手を握り、アレックスに向ける。

 そしてそのまま、握っていた手を右手の人差し指から順に一本づつ伸ばしていく。


「それぞれ火,水,風,土,聖,魔……この六属性がアエラに存在する属性の全てです」


 伸ばした六本の指。

 開いた右手と左手の人差し指を強調する様に前……アレックスの眼前に出す。


 リリィの言った六属性。アレックスはそれを聞いて、

 自らの撃った『Feuer(火)』,『Wasser(水)』の球はそういうことだったのか、と今更になって思い出していた。



 ……では残りの属性は何なのか。風は『Wind(風)』、土は『Boden(土)』。

 だが残りの二つ……聖と魔は聞いたことも見たことも無い。

 首を傾げながら考えていると、リリィがその疑問に答えるように話し始める。



「――と言っても、メイジが扱えるのは聖と魔以外(・・)の四属性になります」

「ん?聖と魔は使えんのか?」





「聖と魔。この二属性は他の四属性とは少々性質が違うんですよ」

「成り立ち……?」

「四属性は自然界に存在する力。でも聖と魔は違う。

 魔属性は魔物のみが持つ、特別な属性。聖属性はそれに対抗する形で創られた人工の属性なんです。

 何故魔属性を持っているのが魔物だけなのか。とかは未だに謎のままなんですけどね」

「……特別、か」



 正直、自分とはあまり関係の無いことだと考えていたアレックスだが、

 二属性に関して説明されると、次第に興味が湧いてきた。



「PCは聖属性を使うことが出来ないのか?」

「いや、できるぞ?」

「初期ロールの一つ。ヒーラーなら使用可能です。

 今の所は回復魔法しか確認されてないんですけど……」

「……ま、どっちみち俺たちには関係の無い話ってこった」


 二人は不満そうに顔を歪め、揃って首を横に振る。

 聖属性に関してはシステム上存在していることと、PCでも使用できることが分かってはいるが何処で使えるようになるかなどはまだ開示されていないようだ。



「――で、四属性の説明に戻りますけど、

 メイジの扱う四属性にはそれぞれ相性が存在します」

「相性?」

「具体的には『火→土→風→水→火』の丁度一周するような関係性になってます。

 聖と魔は一方的に『聖→魔』の関係ですけどね」

「ん。まあ魔属性に対抗する為に創られた属性だから当然なのか……」

「因みに、この関係式はメイジだけの話じゃないぜ?

 属性を付与された武器に関してもこれと同じ関係になるんだ」

「……そうなのか?」

「魔法職以外も無関係じゃないってことですね」

「今のところ、属性持ちの武器は魔物からのドロップ品だけだけどな」

「……そうか」



 現状PCには作れないのか。

 属性持ちという魅力的な響きに多少興味が湧いていたアレックスは、

 まだまだ自分には遠いものだと知ってしまい、落胆の念を隠せなかった。



「なんか落ち込んでいるみたいですけど、大丈夫ですか?」

「まあ、男なら誰でも憧れるもんだからなぁ……」

「……むぅ。それはちょっぴり疎外感が湧いてくる言い方ですね」

「リリィも大人になったら分かるさ……」

「なんで子供をあやすようにしてくるんですかねぇ……!」



 しばしアレックスが思索にふけっていると、前方に進んでいた二人がじゃれ合っている様子が見えた。

 こうして見ると師弟というよりは兄妹のように見える。

 そんな二人に遅れていた分、早足で近くに寄るアレックス。



「――で、結局メイジの私は何をすればいいんだ?」

「うーん……どうしましょうか、師匠?」

「取り敢えずゴーレムと戦ってみればいいんじゃね?」



 ざっくりと決めやがったコイツ。


 そう言いたげに師匠を睨むリリィ。

 初心者にそれはないだろうと口を挟もうとしたその時――



「――まあそれが一番か。

 よし、そうと決まれば手早く済ませるぞ」

「おお、いつになくやる気だねぇ」

「何をしようにも戦えなければ何の意味も無いからな。

 こういったことは重要だ。私の素晴らしい趣味ライフの為にも……!」

「待てよオイ。ゴーレムの発生場所はまだもうちょい先だぞー」


 欲望を目に宿し、ズカズカと前を進む初心者に、

 それを至極当然のように言葉を返しながら続く師匠。


 怒涛の展開に呆然とするリリィだったが、それ処ではないと我に返り、

 持ち前のSPDを駆使して、さながら雷光の如き速さで馬鹿二人に追いついた。



「ちょッ……!

 師匠!アレックスさん!正気ですか!?」

「正気も正気。物事は出来るだけ早く済ませた方が良い」

「なんだっけソレ。『兵は神速を貴ぶ』……でいいんだっけ?」

「微妙に意味が違う気もするが……まあ概ねそんなところだ」

「そんなところだ(キリッ)。じゃあないんです!

 本当に大丈夫なんですか?アレックスさんバリバリの初心者ですよ!?」



 三人で迷宮の薄暗い通路を並走するという意味不明な光景を作りつつ、

 リリィは最大の懸念を二人に投げかける。


 いきなり属性の概念すら知らなかった初心者に、

 現状最前線に位置する魔物を相手させるの?頭大丈夫?と言うリリィに(※言ってません)、

 意外と冷静な態度でテオは口を開く。



「十中八九……とはいかないだろうが、七くらいはいくと思うぜ?





 ……おーい、アレックスぅ~!」



 横を並走する友人に呼ばれ、顔を向けるアレックス。

 当然、脚は未だ並走したままである。



「なんだ?」

「今のLV、どんくらい行ってる?」

「そういえば確認していなかったな……」



 アレックスは歩きながら、もうすっかりその存在に慣れたウインドウを開く。

 いつものように自分の身体を示すシルエットの右上に見えるLVを確認するとそこには……。



「……22か。結構増えたものだが……これがどうした?」

「おお!上々上々。それくらいありゃあソロでゴーレムも倒せんだろ。

 なあ、リリィ?」

「えぇ……正直ギリギリですよ?」

「なぁに。いざとなったら俺達でカバーすればいいんだよ」

「それは……そうなんですけど」

「私一人で出来るというならそれでいいさ」

「何処からその自信が……?」



 腑に落ちない。

 というか初心者メイジ一人でゴーレムに挑ませるなど自殺行為だろうと思ったリリィだったが、

 意外と冷静な師匠と本人のよく分からない自信もあってか、流されることにした。



「……もういいや、どうでも」

「なんかお前の弟子の目が死んでいるんだが……」

「よくあるよくある」



 よくあるのか……と若干引いた様子で呟くアレックスだが、

 そもそもの元凶が自分であることを思いつきもしないのが最高に質が悪い。





 そんなこんなで歪な三人……加害者二人と被害者一人は更に奥へと足を踏み入れるのだった……。




読了ありがとうございました。

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