幕間ーアン4
幕間ーアン3から現時点までのアン視点の短編になります
私とヘンリーの結婚式と披露宴は終わった。
参列者は、それぞれの家に帰っていく。
父は私に非難するような目を少し向けた。
父は私がチャールズとまた関係を持ったと察したのではないか。
チャールズはメアリに付き添われて、自宅に帰っていく。
チャールズ、と私は叫んで、彼の胸に公然と飛び込みたい。
でも、もうできない。
それも、死んだ後の来世であろうと、永遠にできない。
最後の審判の時まで、私はヘンリーと添い遂げると神に誓ってしまった。
一方、チャールズはメアリと同様の誓いをした。
私は永遠にヘンリーの籠の鳥で、チャールズはメアリの籠の鳥だ。
メアリがここまでの報復を考えてしてくるとは思わなかった。
ヘンリーと協働しているはずだが、私はメアリが考えついて主導したという確信がある。
ヘンリーがこのような報復を考えてするような感じはないからだ。
本当にメアリは結婚してから変わってしまった。
「ダメです。絶対に気づかれます。メアリ姉様を甘く見てはいけません」
ソフィアは私に警告した。
「メアリ姉様と呼ばないで、と言ったでしょう」
私はソフィアに言い返した。
私は自分とヘンリーの結婚式が近づくにつれ、もう2度とチャールズに逢えなくなるのが私には我慢できなくなっていた。
「何とか秘密裏にチャールズに連絡を取って。チャールズと逢いたいの」
私はソフィアに懇願した。
ソフィアは私に根負けして、自分の息子に封書を託し、宰相府でチャールズに手紙をすれ違いざまに渡すという方法を考えついた。
そして、チャールズと連絡を取ってくれた。
この方法で私とチャールズは密会の手はずを整えた。
ソフィアの息子は宰相府に勤務しており、チャールズとすれ違うことがある。
そして、宰相府にメアリの目は届かないので安全なはずだった。
だが、メアリは知っていた。
どうやって知ったのか、私にはどうしてもわからない。
そして、知っていたのに、密会をメアリは何故、阻止しなかったのだろう。
やっと逢えた、私はチャールズと密会場所で逢えた時、嬉しかった。
だが、チャールズは渋い顔をしていた。
私は不安になった。何があったのだろう。
チャールズは開口一番に言った。
「メアリが気づいている。この場所は遠巻きに大公家の騎士に包囲されているようだ」
「ええ」
私は思わず大声で叫びそうになった。
微かに希望があった。
チャールズとどこか遠くに逃げたいと。
でも、そんな状況では逃げること等できはしない。
「大公家の騎士なら、あなたから話せば」
私が言いかけたが、チャールズは頭を振った。
「彼らはヘンリーに第一の忠誠を誓っている。僕達が会っている位は見て見ぬふりをしてくれるが、それが精一杯だ」
「そんな」
メアリの手はどこまで長いのだ。
私は足下が崩れ去る思いがして、倒れかけた。
チャールズは私を抱きしめて支えてくれた。
その後、密会の間中、私とチャールズはお互いを求めあった。
私は決して許されない想いさえ抱いた。
ヘンリーは私より21歳も年上だ。ヘンリーは私より早く亡くなるだろう。
後はメアリさえ死ねば、私はチャールズと再婚できる。
あんなに大好きだったメアリ姉様の死を願う。
私は自分の荒んだ考えに自分で自分に愕然とした。
そして、結婚式と披露宴当日、メアリは私を巧妙に自白させて、ショックから放心状態になった私を永遠にチャールズと結ばれないようにした。
現世ではヘンリーが死んでも、私は誰とも再婚できない。
チャールズも同様にメアリが死んでも誰とも再婚できない。
そして、最後の審判まで繰り返される輪廻転生の中で、私はヘンリーと繰り返し結婚し、チャールズはメアリと繰り返し結婚する。
そう2人共、神に誓ってしまったのだ。
裏返せば、私とチャールズの関係は永遠に結ばれない呪われた関係になったのだ。
もう諦めるしかない。でも諦められるだろうか。
私は自問自答しながら、チャールズを見送った。
一方、私には奇妙な想いがなぜか生まれた。
私のお腹の中にはチャールズの子がいる。
メアリの奇妙な行動はそのためではないのか。
まさか、メアリは私をチャールズの子を産む道具と見ているのか。
メアリがそう考えているのではないか、という私の考えに私は自分自身であらためてりつ然とした。
この章で、主人公のことをメアリと基本的に書いているのは、アンにとって主人公を最早、姉と思っていないことを示すためです。




