第33章
ヘンリーとアンの披露宴のために帝都の大聖堂からヘンリーの私邸に私とチャールズは馬車で移動した。
チャールズは未だに心ここに非ずの状況だ。
私はチャールズを放置して、道中の間にこの結婚式と披露宴の警護に当たる大公家の私兵の騎士達の態度を観察した。
ジュリエットの実家が選りすぐった精鋭の騎士達がこの警護の主力だ。
私が観察する限り、態度がきびきびとしていて優秀で尚且つ信頼できる面々が揃っているようだ。
問題は帝室の権威に逆らって、帝室に刃を向けるだけの覚悟がこの騎士達にいざと言う際にあるかどうかだ。
彼らにその覚悟がないと、私たちは逆に破滅の道を歩むことになる。
最早、私の身は大公家と一蓮托生となったのだ。
ヘンリーとアンの結婚式は、帝室に大公家が決闘を公然と申し込むようなものだとヘンリーに警告された。
ヘンリーはその覚悟があり、アンとの結婚を受けてくれたのだ。
私はヘンリーに報いねばならない。
かつて、皇帝の孫娘ということを何かと誇りにしていた私が、帝室に刃を向ける。
運命はいかようにも変わると言うが、本当にその通りだ。
披露宴が始まり、その最中に、教会から今回の結婚証明の写しが届いた。
私は、自分とチャールズの結婚証明に目を通した。
最後の審判の時まで私とチャールズが添い遂げると宣誓したこと、その証人としてアンとヘンリーが立ち会ったことがきちんと書いてある。
しかも、教皇のお墨付きだ。
例え、皇帝と言えども、帝国内でこれには文句を付けられない。
ヘンリーとアンの結婚証明の写しも同時に届き、ヘンリーは満足気に、アンは真っ青になり涙を流しながら目を通した。
私は、チャールズに自分達の結婚証明の写しを渡した。
チャールズもその内容にあらためて愕然としている。
私はとぼけて聞いた。
「私が死んだ後、誰かと再婚するつもりだったの」
「いや、そんなことはない」
チャールズは慌てて否定した。
嘘を言うな、私とヘンリーが先立ったら、アンとチャールズは再婚するつもりだったろうが。
この結婚証明は、現世での2人の再婚封じでもあるのだ。
私は一息つきたくなり、披露宴を少し中座することにした。
すると、父が追いかけてきて、私に尋ねた。
「まさか、また」
父と言えど、それ以上はこの場では聞けない。
もし、ヘンリー家の侍女の耳にチャールズとアンが不倫関係にあることが入ったら。
私は肯いてから言った。
「だから、あのような結婚の誓約になったのです」
「それでか」
父は肩を落とし、一度に10歳は老けたように見えた。
私は原作を思い起こした。
原作では父はアンを信じ込んでおり、アンとチャールズが不倫をしているというメアリの話を嘘だと信じようとしなかった。
この世界では、アンとチャールズの不倫を父は信じている。
キャロラインの1件があるからだ。
父の心の平穏からすれば、原作の方が父は表面上、幸せだった、と私はふと思った。
私は父を心から慰めたいと思ったが、言葉がどうにも思い浮かばない。
父に同情的な視線を黙って送るしか、私にはできなかった。
その内に父は気持ちの整理が出来たのか、披露宴の席に戻った。
私も少し時間をおいて披露宴の席に戻った。
やがて披露宴が終わった。
私もチャールズと共に辞去することにした。
披露宴の最中にお互いの結婚証明の写しを見せあっている。
その際にアンはチャールズに、逆にチャールズはアンにお互いに目で謝罪しているように、私には見えてならなかった。
私とチャールズは馬車に乗って、自分達の私邸に向かった。
チャールズは馬車が走りだすと半分独り言を言った。
「こんなことになるとは」
私はとぼけて聞いた。
「こんなことになって幸せということかしら」
チャールズは黙って、肩を落としてしまった。
私はそれ以上は何も言わずに黙って、馬車の外を見た。
大公家の私兵の騎士達は相変わらず、帝都の中でをきちんと警護の任務に当たっているようだ。
これから先は、私はアンとチャールズの事よりも、帝室との武力対決の事を考えねばならない。
一つの区切りです。次から幕間を2つ入れます。




