ライラック 8
私は韓国人の小説家です。
2年前に出版した自分の小説を日本語に翻訳し、こちらで連載することにしました。
不自然なところがあったりするかもしれませんが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
ありがとうございます。
僕は引き出しから、しおりを3枚取り出した。
赤と青、紫が残っていた。
「初めて来た方に差し上げている、木製のしおりです」
「私が初めて来たって、どうしてわかるんですか?」
僕は驚いて聞き返した。
「前に来たことがあるんですか?」
「いいえ」
女は、軽い冗談に戸惑う僕の顔をちらりと見てから、しおりを一つ一つじっくりと眺めた。
僕は内心、女がいつまでも迷っていてくれればいいと思った。
もっと長く見ていたかった。
女も。薔薇の香りも。
さらには白い匂いでさえ、嫌ではなかった。
その事実に、僕は大きな衝撃を受けた。
自己嫌悪に陥るほどだった。
長いあいだ、あれほど恨んできたのに、こんなにも簡単に変わってしまうなんて。
死を恨むことほど愚かなことはないと、確かにわかっていたはずなのに。
女は、小さな扉が彫られた赤いしおりを掲げて見せた。
「裏側に、オンラインカフェのアドレスが書いてあります。本を読んで書評を残してくださる方を対象にイベントをやっているので、興味があったらぜひ参加してみてください」
「面白そうですね。当たったら何がもらえるんですか?」
「お好きな本を一冊お送りします」
女はしおりをじっくり眺めると、『死の収容所で』の間に挟んだ。
「書評を書きたくなるくらい、面白い本だといいですね」
女が肩にバッグを掛けた。
「面白いですよ! 僕もその本、読んだことがあるので」
気持ちが焦り始めた。
「書評も書きましたし」
何の返事も返ってこなかった。
奇妙な静寂だった。
入り混じった匂いが、周囲に漂っていた。
衣擦れの音が耳元で響いた。
女が言った。
「実は、来たことがあるんです。すごく小さい頃ですけど」
あの目。
辛い記憶を思い出す目。
女は空っぽのそこを、記憶で満たしていた。
そんな女に2人も出会ったことがあるからこそ、僕にはわかった。
だから、それ以上は尋ねなかった。
女が一瞬だけ悲しそうな表情を見せてくれたのも、もしかしたら、そのお返しだったのかもしれない。
「それじゃ」
僕も女に続いて立ち上がると、古びた本の山が床に崩れ落ちた。
ほんの一瞬、目を離したあいだに、女は再び微笑んでいた。
「また、月曜日に」
死が、コツコツと遠ざかっていった。
白色はブックカフェを出て、薄暗い廊下で消えていった。
明かりが消えると、ブックカフェは完全に眠りについた。
その中で、僕は本棚を指で軽くなでてみた。
本のタイトルがよく見えなかった。
月明かりが差すところを除いては。
やがて僕は気づいた。
女は本を選んでいたわけではなかった。
僕が扉を開けたとき、たまたまその本を手にしていただけだった。
朝と同じように窓を全開にした。
月暈が濃い薄暗い夜だった。
僕は深く息を吸い込んだ。
女はもう、橋を渡っていた。
また、匂いは一つしかなかった。
けれど、それは白い匂いではなかった。
やがてビルは目と口を閉じ、深い眠りについた。
カードを置いてきたことに気づいたのは、バスのドアが開いてからだった。
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