ライラック 21
私は韓国人の小説家です。
2年前に出版した自分の小説を日本語に翻訳し、こちらで連載することにしました。
不自然なところがあったりするかもしれませんが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
ありがとうございます。
待つこと。
理由は2つあった。
今回の待ち時間は、1週間だった。
「一番大切なのは、待つことよ。愛にも、孤独にも、そしてそのあとに起こすどんな行動にもね」
こだまのように響くその言葉は、僕がすぐに飛び出さなかった1つ目の理由だった。
母は何を待っていたのだろう。あるいは、何を待ったことがあるのだろう。
ところで――
いったい、どちらが先に始まったのだろう?
「そうしないと、もうすぐ咲く花を無理やり咲かせるようなものよ。まるで冬にライラックを、夏に菊を咲かせるようにね。小賢しい知恵を働かせて無理やり花を咲かせて売ろうとする商売人のことが、どうしても理解できないわ。なぜ少しも待てないのかしら? その花が咲く春も、秋も、もうすぐやって来るというのに……」
母は隣でため息をつき、首を横に振った。
幼かった僕は、あんな商売人のような大人にはなるまいと、心の中で誓った。
2つ目の理由は、女の書いた書評だった。
その書評がオンラインカフェの掲示板に投稿されたのは、僕たちがインド料理店で会う7時間前のことだった。
強迫症の人のように何度も読み返しているうちに、一連の過程が自然と目に浮かんできた。
僕が丘を見上げ、空が降り注ぐのを想像していたとき、女は本を閉じた。
僕が狂ったように丘を駆け上がっていたとき、女は無表情で書評を書き始めた。
僕は足を揺らし、女は指を動かした。
2人とも、目的地に辿り着くまで一度も止まらなかった。
ついに辿り着き、動きを止め、長いあいだ遠くを見つめながら、互いのことを考えた。
ちょうど1週間が過ぎたところだった。
そのあいだ、僕は書評を22回読んだ。
その中でも最後の一節は、もう見なくても暗唱できるほどになった。反芻して、一文字でも思い出せなければ、また読み返していたからだ。
この一週間、その一節は一つの声となり、家の中を漂う唯一の言葉だった。
『「なぜ生きるのかを知っている人は、いかなる状況にも耐えることができる」
著者であるヴィクトール・フランクル博士が引用した、ある哲学者の言葉だ。
ふと、こんな考えが浮かんだ。
人間が生きる意味を見つけ幸福に至るのに、「条件」が必要なのだろうか?
著者なら、きっと力強くこう言うだろう。
『必要ない!』
考えてみれば、私も著者と同じように考えて生きてきた。
人間には、どんな状況に置かれても、自分の人生を自ら切り拓く自由があり、望む場所へ進む自由がある。
自由があるからこそ意志があり、意志があるからこそ人生がある。
絶望的な状況にあっても、著者のように生きる意味を見つけようと努力するなら、誰もが幸せという結末に辿り着けると確信している。
けれど、ここにはとても重要な前提条件がある。
それは、自分だけの幸せだ。
ただ自分自身だけが満喫する幸せのことだ。
もちろん、著者のように極限の状況にあっても、か弱い他人を思いやり、奉仕しながら生きる意味を見つける人もいるだろう。
けれど、その悲惨な状況がただ自分だけに当てはまったものだとしたら?
それでもなお、他人との幸せ、つまり、互いに通い合う愛を通して生きる意味を見つけようとするなら、どうだろうか?
試練を乗り越えられる可能性が微塵もなく、生とは対極にあるところで、この世のすべての意味を無意味に変えてしまうほど絶対的な運命が、私に残された時間のすべてだとしたら?
これは極端な例ではないし、思ったよりありふれた、ありがちな話だ。
実際、私にもそんな期待を抱いたことがある。
突如として現れた、到底自分一人では乗り越えられない運命が恐ろしくて、ずっと私を愛してくれていると信じていた人のもとを訪ねたそんな日がある。
私は温かな胸と慰めを求めていた。
けれど、徹底的に拒絶され、歪んだ愛からかろうじて抜け出すことができた。
そして、再び苦しい日々を過ごした。
何日が過ぎただろう。
私は、あの真っ暗な暗闇の中でも、ほんのわずかながら生きる意味を見つけた。
互いに通い合う幸せを諦めること。
つまり、誰も私の運命を代わりに背負うことはできず、そこから私を救い出すこともできないという事実を受け入れ、完全に自分だけの幸せを生きる意味と定めたからこそ、それが可能になったのだ。
けれど、一日も経たなかった。
不幸にも、心から求めていた「意味」に出会って、偶然にもこの本が手に握られていた。
ページを一枚、また一枚とめくるにつれ、鼓動するもう一つの考えを振り払うことができなかった。
かつて、私という存在を拒んだあの人が私の人生を受け入れてくれていたら、どうなっていただろう?
そのことに感謝し、喜んで自分の悲惨な運命を共に耐えながら生きていっただろうか?
私は本当にその選択を望んでいたのだろうか?
よくわからない。
そんな疑問が、旅の間中、頭から離れなかった。
こんなにもわくわくしても、好奇心を感じていても、いいのだろうか?
いや、ときめきは、そのささやかな意味の中に絶対に入り込んではならないものに違いない。
胸の高鳴りは、自分だけの幸せではなく、互いに通い合う幸せの中にしか存在しないからだ。
それでも、ほんのわずかな間だけ、そちらへ進んでみることにした。
ときめきが、生きる意味が、それほど偉大な存在であることを願いながら、私は今、それを確かめに行く』
そうだ。
僕も、あなたがそうしたように、あなたを訪ねるつもりだ。
女と初めて出会ってから想像の中でしか行わなかったこと。
薔薇の香りを辿っていくこと。
僕は鏡の前に立った。
片手には車の鍵を握り、目には薔薇の香りを捉えていた。
影はいつものように鏡の足元で首を傾げていた。
忍びる夜の気配が、明かりの消えたリビングを包み込んでいた。
暗闇は、何かを待ってる人には慣れきっているかのように、無関心だった。
秒針が回るように、リビングのすべての影が床の上で角度を変えていった。
静かに、穏やかに。
僕は、風が吹くようなその音に耳を澄ませた。
ついに待つことが終わった。
すると、興味深い事実に気づいた。
鏡の中には、薔薇の香りがなかった。
一週間の待ち時間がなかったら、僕を振り払った女がいなかったら、今、不思議に思いながら鏡に触れたり鏡に映る男に近づいたりしていたかもしれない。
彼女がそうしていたように。
「ここには匂いがないんだな」
僕はそう小さく呟いた。
人々にとっては当たり前かもしれないその真実が、僕にとっては新たな発見だった。
不意に感覚を一つ失ったとしても平然と鏡に向き合える人がいるだろうか?
だからこそ、僕が未練なく背を向けたのは、決して簡単なことではなかった。
僕はドアノブへ手を伸ばした。
そのとき、ポケットの中で振動が響いた。
喉の奥が一瞬でからからに乾いてしまった。
僕は震える手で携帯電話を取り出した。
もう一度、名前を確かめた。
ジェヒョクだった。
今はジェヒョクに構っている暇などなかった。
だからまたポケットに戻そうとしたのだがうっかり画面を押してしまった。
最近やり取りしたメッセージがずらりと現れた。
僕は日付と時刻を見つめた。
たった今届いたメッセージよりも驚いたのは、僕がすでに二度ほど返信していたという事実だった。
4日前、ジェヒョクが家に招待したいとメッセージを送ってきて、僕は今日の日付を返していた。
ジェヒョクは信じられないとでも言いたげにもう一度尋ね、僕は再び今日の日付を返していた。
この1週間、僕の答えはただ一つだった。
彼女に会いに行くまで、1週間だけ待とうと、僕は無意識のうちに決めていたのだ。
『母さんとお前を待ってる。今どこ?』
それでも僕は、ため息をつくことも、へたり込むこともしなかった。
起こるべきことは結局起こるものだから。
もちろん、僕にとってそれは、薔薇の香りを辿っていくことだった。
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