ライラック 20
私は韓国人の小説家です。
2年前に出版した自分の小説を日本語に翻訳し、こちらで連載することにしました。
不自然なところがあったりするかもしれませんが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
ありがとうございます。
街灯を通り過ぎ、闇が濃くなると、また街灯が現れ、明るくなったり暗くなったりを繰り返した。
僕たちは一定の速さで歩いた。途中で分かれ道に出ても、同時に同じ道へ曲がった。
まるで、どこへ向かっているのか知っている人のように。
壁には奇妙な絵がびっしりと描かれていた。
ある人はそれを汚い落書きと、ある人は自分なりの名前で呼ぶだろう。
「ブックカフェに行ったのは、久しぶりだったんです」
何気なく振り返った女の横顔は、冷ややかだった。
路地に入ってから僕たちは一度も言葉を交わしていなかったのに、女はついさっきまで話をしていたかのように振る舞った。
風が雪を煽る。
一方、僕たちは立ち止まった。
灯りの懐と懐のあいだで。雪の天井と底のあいだで。
「しばらく家に閉じこもっていたんです。仕事もせず、誰にも会わず。ただ、目が覚めれば体を起こして、眠くなれば目を閉じて、また開ける。いつも真っ暗な闇の中で」
『女は、もう二度と笑わないだろう』
そう思うと、不安になり始めた。
けれど、僕にできるのは黙って耳を傾けることだけだった。
そういう声がある。
悲しい過去を辿る声。
か細いけれど、どうしても断ち切れない泣き声が滲んでいる。
そういう声がある。
僕はあっという間に彼女の話に引き込まれた。
闇の一角へ、やがて僕は家具の影か何かとなって、そこにいた。
「その日も、いつものように目を閉じまいと必死になって、ぼんやり座っていました。
頭の中は空っぽなのに、どんな小さな考えすら浮かばなかったんです。
ずいぶん長い間そうしていたら、もう到底耐えられないほどになりました。
ああ、夜が来たんだ、あそこへ戻らなきゃいけないんだ。
そう思いながら、目を閉じたまま倒れ込みました。
頬はひりひりして、脚はじっとり湿っていました。
窓がガタガタと軋む音が聞こえました。
その夜だったのか、次の夜だったのかはよくわかりませんが、そのおかげで、ほんのわずかな間、永遠のように長い束縛から抜け出して、よそ見をすることができたんです。
目が慣れてきた澄んだ闇を辿って、夜空を描きました。そして月を描き加えたんです。広い夜空に浮かぶ、丸くて小さな満月。
寂しそうに見えました。
だから次は星を、その次は海と砂浜を描こうとしていました。
そのとき、小さな満月が夜空に線を引きながら動き始めたんです。
その身のこなしは優雅で、美しかったです。
好き勝手に動く絵に戸惑いながらも、ゆっくり階段を下りてくるような気だるい動きが気になりました。
でも、長くは続きませんでした。
最後まで見届けたかったのに、まぶたが重くなり、眠気に襲われてしまったんです。
永遠のように長い束縛に慣れてしまったせいでしょうか。
私は素直に目を閉じようとしました。
まさにそのとき、満月が飛びかかってくるように、目の前へ落ちてきたんです。
私ははっとして、飛び起きました。
言い訳じゃありません。
本当に驚いて、純粋な気持ちで。
その音さえも鮮明に覚えています。
激しく高鳴る胸が落ち着いた頃、満月が通り過ぎながら残した直線を辿って上がっていきました。濡れた足跡が床に残っていたはずです。
私はそちらへ歩きました。ずいぶん長い間。
それでも届かなくて、つま先立ちになり、精いっぱい手を伸ばして何かを掴みました。
すると、まばゆい光が顔に降り注いだんです。目が焼けるようでした。それでも、なんとかその向こうを見ようと必死になりました。
やがて、周囲が崩れ落ちました。
そこに何があったと思います?」
女は、その向こうを思い浮かべながら顔を上げた。
空には月も星も雲もなかった。ただ、空っぽの空と、降りしきる雪だけがあった。
もし今、世界がひっくり返って、この雪が再び空へ降りしきるとしたら、その雪の名前はやはり「チャグンヌン」なのだろうか。
「群青の空。燃え上がる太陽。白くたなびく雲……
夜じゃなかったんです!
一日のうちで、色がいちばん濃くなる午後のひととき。もしかしたら一年のうちで、いや、私の残りの人生で、いや、世界が生まれて以来、最も色が濃かったかもしれない、そんな瞬間でした。
絵の具を何度も塗り重ねた絵のように生き生きと息づく風景に、私はすっかり心を奪われました。
同時に、固く閉ざされていたすべての感覚が目覚めたかのようでした。
頭が割れそうに痛み、胃が激しく波打ち、部屋中に混ざり合う悪臭に吐き気がこみ上げました。
それでもぐっと堪えて、少しでも長くその風景を、二度と訪れない美しさを、ひとかけらでも多く目に焼きつけたかったんです。
そのとき、背後に人の気配を感じました。
私は悲鳴を上げて振り返りました。
部屋の中は再び闇に覆われていましたが、満月は相変わらず、落ちた隕石のように床にめり込んでいました。
そのおかげで、まだらな闇の中に、奇妙な何かがぼやけて見えたんです。
遠くに、人の形をしたものが、ぐったりと壁にめり込んでいました。
私は手で口を塞ぎました。少しでも音を立てたら、その人影が今にも飛びかかってくると確信していたんです。
でも、よく見ると、その姿は白い扉にもたれかかっているようでした。
やせ細った体に、乱れた髪は床まで垂れ下がり、薄くて白いワンピースを着ていました。
そして、狂った人のように、意味のわからない言葉をぶつぶつと呟いていたんです。
ずっと昔から聞いてきた、聞き慣れた声。
愛らしい子。
叫んで、手当たり次第に物を投げつけても、その子はいつまでも退きませんでした。
むしろ、からかうように私の動きを真似し始めたんです。
怖くてたまりませんでした。
でも、気になったんです。優雅に下りてくる満月のように。
あの子も、私のことが気になったのでしょうか。
私がおずおずと近づくと、子供も近づいてきました。
べたつく足の裏が、静かな闇の中でぺたぺたと音を立てました。
子供はふらついていました。
子供は汚れていて、近づくのもためらうほどの悪臭を漂わせていました。
それでも、騒がしい足音はさらに数歩続きました。
やがて、髪の毛の間から子供の目が見えたんです。
傷ついて色褪せた目。次の傷を喜んで待ち受けている目。
だから、手を伸ばしたんです。
子供のこわばった顔が不憫で、しばらく撫でていました。
やがて、やせ細った肩や腕にも手を滑らせました。
子供は、私の手がどこへ向かおうと全く気にしませんでした。
ただひたすら私の目を見つめ、何度も見つめ、私という存在を覗き込んでいたんです。
いつもそうでした。
呟きも止まりませんでした。
そんなとき、私はいつも先に目を逸らしていましたが、その日は違いました。自分で描いた満月が後ろにあったから、勇気が出たのかもしれません。
私は子供の目をじっと見つめました。
意味のわからない言葉も、悪臭も、理解しようと心に決めたんです。
さらには、子供という存在そのものも……。
けれど、そんな決意も束の間、私の指は木の枝のような子供の指で止まりました。
もう、子供ではなかったんです。
いや、確かに子供なのに、私の知っている姿とは違っていました。
気になって気が狂いそうになるたびに覗き込み、あの牢獄のような空間で、存在理由を必死に問いかけていた、あの子ではなかったんです。
私は静かに一歩下がりました。
そこでようやく、まっすぐ向き合うことができたんです。
鏡に映った、自分自身と。
私と一緒に生まれた子供と。
私はもう一歩、近づきました。
震える手で、自分の姿をじっくり見つめました。自分で壊してしまった、あの見るも無残な姿を。
鏡の中にあったのは、それだけではありませんでした。
床でますます膨らんでいく満月。
灰色に変わりゆく黒い闇。
散らかっているゴミの山。
そして、あの忌々しい白い扉」
女は声から涙声を消した。
「抑えきれずに沸き立つ怒りで、体がぶるぶると震えました。
嫌だ。
絶対に戻らない。
白い扉を覗き込みました。
何千回、何万回と振り返ったけれど、たった一度しか開かなかった扉。
私という存在を惨めに押し潰したくせに、それを嘲笑うように、とても軽かった扉。
震えが止まりました。
決心したんです。
そうだ、ここから出てみよう。あのときみたいに。
そして、ついに扉を開けました。
両腕で体を抱きしめました。
いったいいつ、冬になったんでしょうか……」
不意に、僕はブックカフェから飛び出した夜を思い出した。
彼女の世界へ飛び込んだあの瞬間、僕と向き合った扉もまた、白かった。
女は僕を見上げた。
頭には、うっすらと雪が積もっている。
「今みたいに、足の向くまま歩き回っていました。
お兄ちゃんと遊んだ教会の隣の遊び場。無邪気な笑い声で溢れていた教室。
そうしているうちに、ふと、幼い頃の私にとって小さな安らぎの場所だったブックカフェを思い出したんです。いつも寂しかった私を、おとぎ話で慰めてくれた場所でした。
もともとあの扉の前に立つと、胸がときめいてわくわくしたんです。でも、悲しいことに、もうそうではなかったんです。
ところが……」
初雪が膨らんでいく。
不意に、女が僕をぎゅっと抱きしめた。
僕の両腕は上へ伸びた。
僕たちは滑稽な姿勢で立っていた。
やがて僕の手は、彼女の肩の上に落ちた。
小さくて、弱かった。
女はすすり泣いた。
「あなたに会ったんです」
薔薇の香りが、僕の体の中へどっと入り込んできた。
僕は反射的に彼女を抱きしめ返した。
「ドアノブが回ったあの瞬間、忘れたと思っていたときめきを、もう一度感じたんです。
胸の高鳴りは以前のままでした。本当に久しぶりに感じる感情でした。
今考えてみると、幼い私をわくわくさせていたのは、おとぎ話ではなく、あの中へ入ってきてくれる誰かだったのかもしれません。
私の心臓の音、聞こえませんでしたか?
あなたは私をじっと見つめていましたよね。
あの眼差しが好きでした。
ぎこちなく立っていた姿も、言葉を詰まらせて恥ずかしそうにしていた姿も、好きでした。
旅の間中、あのときめきを忘れられませんでした。
今みたいに、もう一度感じたかったんです」
彼女は僕の胸元をいっそう強く握りしめた。
そして、言った。
同じ言葉を何度も繰り返したけれど、すすり泣いていたせいで聞き取りづらかった。
いや、そうであってほしかった。
「何て言ったの?」
「ごめんなさい」
女は僕をそっと押し離した。
「私もあなたが好きです。でも……すごく怖いんです。私は自分勝手なんです。いっそ、あの白い匂いが私からしてくれたらと願っていました。書評を読んだ瞬間から、私からあんな悪臭がしてほしいと願っていたんです。そうすれば、罪悪感が少しでも薄れるんじゃないかと思って」
「どういう……」
『あなたが死ぬからですか?』
「どういう意味なのかって……」
けれど、僕はその意味がわかっていた。
『あなたが死ぬということは、もう知っています。
心配しないでください。あなたが死ぬまで、そばにいますから。
死なんて、何でもないです』
薔薇の香りがますます濃くなった。
僕は、この瞬間も彼女を愛していた。
それなのに、薔薇の香りは遠ざかろうとしていた。
僕はその直線を辿って手を伸ばした。
女は僕の手を振り払った。
「どうしても無理……」
女は走り出した。
暗く奇妙な絵の間に。
『なぜあちらには街灯がなかったのだろう?
それとも、だからこそ女は不意に足を止め、長い話を始めたのだろうか?』
いくらその名前を叫んでも、女は振り返らなかった。
戻ってこなかった。決して聞き間違えるはずのない名前だったのに。
薄く雪の積もった通りに、何十もの足跡が刻まれた。
残念なことに、僕はそれ以上に手のひらの跡を残した気がする。
滑ったり転んだりしながら、薔薇の香りを追ってぐるぐると回った。
暗く曲がりくねった路地は女の姿を完全に隠してしまった。
そのとき、香りの先から、ドアが鋭く閉まる音が聞こえてきた。
僕はよろめきながら進んでいった。
けれど、角を曲がったときには、薔薇の香りはすでに、空っぽの通りを横切っていた。
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