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匂いの色  作者: ゆず
第1章 ライラック
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20/21

ライラック 19

私は韓国人の小説家です。

2年前に出版した自分の小説を日本語に翻訳し、こちらで連載することにしました。

不自然なところがあったりするかもしれませんが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。

ありがとうございます。

 人っ子一人いない通りだったけれど、僕たちは信号が青に変わるまで待った。


 そのあいだ、女は僕の書いた書評から覚えている文章を聞かせてくれた。その中でも最後の段落は正確に覚えていた。間違いなく、何度も読み返したのだろう。


 頭の中では、横断歩道に沿って消え去った文章が一つ、また一つと浮かび始めた。


 僕が『死の収容所で』の書評を書いたのは、ある早朝のことだった。


 大学を中退し、夜通し翻訳の勉強をしていた時、ふと、本棚に並んだある言葉が目に留まった。


「収容所」


 すぐに本を取り出して読んでみた。


 次の言葉は、「地獄」と「収監」だった。


 第二次世界大戦中、地獄のようなアウシュヴィッツ収容所から生還した著者の物語。


 そして、本を開いた。


 ずいぶん久しぶりに読むハングルだった。


 本を読んでいる間、僕は過酷な環境の中でも生きる意味を見つけようとする著者の気持ちを理解しようと努めた。


 僕だったら、そうしただろうか?


 生きることを諦め、死を待ってる多くの人々を救うことができるだろうか?


 たとえそんな能力があったとしても、僕が必ず立ち上がらなければならないのだろうか?


 本を閉じたときでさえ、疑問は解けなかった。


 そのまま書評を一気に書き進め、やがて女が覚えている最後の段落まで書き上げた。



『僕は嗅覚を失ったけれど、実は、ある人からは匂いを嗅ぎ取ることができる。僕は最初からこの匂いを「白い匂い」と呼んできた。この吐き気を催す悪臭は、死に似ている。いや、そのものだ。この中で生きてきた僕にとって、生きる意味などなかった。それでも本を閉じた瞬間、生きる意味を見つけられるかもしれないという、ほんのわずかな可能性を感じたこともあった。けれど、自分勝手なことに、他の人が自分自身の生きる意味を見つけられるよう手助けすべきなのかは、よくわからない。そうするには、この世界にはあまりにも多くの死があり、世界そのものが僕にとっては収容所であり、ガス室なのだから』



 書評を書き終えた後、僕は答えを見つけることができた。


 ジェヒョクのお母さんを思い出したからだ。


『俺は医者にも英雄にもなりたくない』


 その言葉を「ガス室」の後に書き加えてから、消した。


 僕は結局、彼女に白い匂いのことを話せなかった。


「ただ、そんなふうに想像しただけなんです。どうしても匂いを嗅ぎたくて……」


「期待してたのに、残念ですね。私からあの悪臭がするのか、気になってたんですけど」


「どうしてそんなことを思ったんですか?」



『死?』



「違うんですか?」


「全然違います。そうだったら、こうして一緒に歩くことだってできませんよ」



 それから女は、黙って歩き続けた。


 30分が過ぎると、足跡が残るほど地面に雪が積もった。


 さらに10分ほど経つと、女は僕に「*チャグンヌン」を知っているかと尋ね、雪が持っている様々な名前を教えてくれた。自分の名前と同じくらい変わっていて、けれど、そのほとんどはただ通り過ぎていくだけの、無意味な存在だったのだろう。さらに、雨や雲、海、風にもいろいろな名前があるのだと教えてくれた。


 けれど、どの名前も耳に残らなかった。


 僕の意識は、すべてあの悪臭に向けられていた。その存在が頭の中でぐつぐつと沸き立った。


 結局、我慢できずに口を開くまで、そう時間はかからなかった。


 今こそ、僕の秘密の名前を告げようと。


「ここ」


 気がつくと、僕は数歩先まで歩いていた。


 女は後ろから、指で横を指した。


「ここがよさそうですね」


 薄暗い路地と、細長い街灯が目の前に現れた。


 雪が降っても殺風景な街並みとはかけ離れた、小さな世界が、まさにそこに広がっていた。


 静寂に満ちた灯りは束の間立ち寄る雪片を丸く抱きしめていた。


 僕は本能的にその懐を警戒したけれど、女はためらうことなく飛び込んだ。


 女はくるりと体の向きを変えた。


「あ、そうだ。私、今朝、書評を書いたんです」

*チャグンヌン

>「かろうじて足跡が残るほど少なく降る雪」という韓国語です。


#読んでいただき、ありがとうございました!

ブックマークや評価「☆☆☆☆☆」で応援していただけると嬉しいです!

よろしくお願いします!


※もし韓国語を勉強している方や、韓国語に興味のある方がいらっしゃいましたら、お気軽にメッセージをください。韓国語の原文をお送りします。

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