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匂いの色  作者: ゆず
第1章 ライラック
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2/21

ライラック 1

私は韓国人の小説家です。

2年前に出版した自分の小説を日本語に翻訳し、こちらで連載することにしました。

不自然なところがあったりするかもしれませんが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。

ありがとうございます。

 僕は、匂いを嗅ぐことができない。


 幼い頃、薔薇が咲き乱れる空間に閉じ込められた。嗅覚を失ったあの日のことは、今でも手に取るように鮮明に覚えている。


 7歳の時のことだった。


 いつもの朝と同じように、目を覚ました。


 僕は、自分が泣いているのだと思った。天井がゆらゆらと揺れ、耳は涙に浸ったかのように音が遠かった 。


 時折、それとよく似た夢を見ることもあったが、今度は次第に鮮明になっていった。


 重苦しい空間に押し潰され、少しも動くことができなかった。荒い息を繰り返した。服はすでに汗でびっしょりだった。結局、僕は起き上がることを諦めるしかなかった。その代わり、目だけを動かしてみた。


 遥か高くにある天井と壁はあまりにも真っ白で、その境目を見分けるのが難しかった。視線を天井からずっと下へと降ろしていった。そして下まで辿り着いたとき、驚きのあまり、危うく飛び起きそうになった。


 床一面に、無数の薔薇が咲き乱れていた。


 風ひとつないのに、花びらと茎が揺れていた。蛍なのか花粉なのかわからない、小さな赤い粒が漂っていた。


 綺麗だった。


 その空間は、笑うことまでは許してくれた。


 白と赤は、よく似合っていた。


 同時に生まれた存在のように。


 真っ白な空間に咲き乱れる薔薇は、どれも凄まじいほどの香りを放っていた。数分が過ぎると、頭がずきずきと痛み始めた。時折、息を吸い込むたびに赤い粒まで入り込み、咳き込んで、吐き気を催した。


 やがて、花びらまで舞い始めた。


 目が半分ほど閉じかけていた。残りの半分は、自分で閉じることにした。


 そのとき、何かがかさりと音を立てるのが聞こえた。


 僕は再び、瞼をほんの少し開いた。


 鼻をすする音。


 泣き疲れて、もう涙も出なくなったとき、息を吸い込むと鳴る音。


 顎を下に引くと、呻き声が漏れた。僕の視線が、かろうじてそこまで届いた。


 母だった。


 母は真っ黒な髪を垂らし、膝を抱いて、その間に顔を埋めたまま、うずくまっていた。


 突然、空間が気まぐれを起こした。


 もう、笑うことを許してはくれなかった。


 僕は首に青筋を立てながら、なんとか声を絞り出した。


「母さん……」


 二十回くらい。


 ようやく母が顔を上げた。


 青白い目の周りはひどく腫れ、唇をぎゅっと噛みしめていた。すでにひとしきり泣き尽くしたのか、髪が好き勝手に頬へ張りついている。


「*書畫(ソファ)」


 真っ白なワンピースの上に所々散らばった赤い花びらは、初めからそうだったかのように自然だった。


「ソファ!」


 母がすすり泣いた。


 花びらが落ちる、また、ところどころに。


「ソファ、すごくつらいよね? ごめんね。全部、お母さんのせいなの」


 声が出なかった。


 母が僕の顔を撫でた。涙がぽろぽろと流れた。


「もう少しだけ我慢して。もうすぐ全部終わるから」


 僕は、母にこのままずっと僕と目を合わせていてほしかった。その気持ちをわかってほしかった。


 けれど、母は結局、僕の胸に顔を埋め、涙を流し始めた。


 花びらが母の頭の上に、ふわりと舞い降りた。


 涙は温かく僕を包んでくれた。温もりが胸から体の隅々へと広がっていった。


 内からも。

 外からも。


 再び、目が半分ほど閉じた。


 同時に、四方から何かが弾ける音が聞こえた。


 最後にもう一度手をつなぎたかったが、母は顔を上げてくれなかった。


 見えない手に触れられたように、瞼が優しく閉じられた。


 僕は、死を受け入れた。


 花が悲鳴を上げた。


 音が止むと、辺りは暗くなっていた。


 無数の薔薇から散った花びらが影を落としていた。真っ白な天井を完全に覆い隠したまま、漂っていた。


 やがて、花吹雪が僕たちの上へ、土砂降りの雨のように降り注いだ。


 死は、まだ始まったばかりだった。

*書畫

>書畫の畫は、韓国で使われる漢字です。「絵」あるいは「画」という意味です。


#読んでいただき、ありがとうございました!

ブックマークや評価「☆☆☆☆☆」で応援していただけると嬉しいです!

よろしくお願いします!


※もし韓国語を勉強している方や、韓国語に興味のある方がいらっしゃいましたら、お気軽にメッセージをください。韓国語の原文をお送りします。

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