ライラック 12
私は韓国人の小説家です。
2年前に出版した自分の小説を日本語に翻訳し、こちらで連載することにしました。
不自然なところがあったりするかもしれませんが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
ありがとうございます。
前にも言ったとおり、冬は多くの人が死ぬが、その理由はよくわからない。
雪と白がよく似合うからなのか、多くの人が試験に失敗するからなのか、それとも単純な偶然なのか。
とにかく、そんな季節だからこそ、あの匂いを一度も嗅がなかった日はひどく奇妙な気分に襲われる。
ジェヒョクに家へ招かれたとき、いつもとは違って断れなかったのもそんな日だったからだ。あるいは、成人すれば自分の試練も終わるのではないかと、漠然とした期待をしていたのかもしれない。
夜になると、その期待は確信に、やがて胸の高鳴りへと変わった。
*大学修学能力試験が終わった翌日、狭いエレベーターの中で高鳴る鼓動をなだめた。
ジェヒョクは僕の緊張をほぐそうとつまらない冗談を言ったけれど、震えは止まらなかった。
ようやく扉が開き、ジェヒョクに続いて降りた瞬間、僕は誰かの死を嗅ぎ取った。
『違う、これは』
僕は息を止めた。
必死に気づかないふりをした。
『違っていてくれ』
「こっちだ」
ジェヒョクが指で示した。
壁に沿って扉がずらりと並んでいた。
廊下から空を見上げる造りのマンションだった。
濃紺の空に浮かぶ月は淡い黄色だった。遥か高いところにあり、月の周りを漂う雲がひときわ目につく宵の口だった。
僕はジェヒョクの後ろをついて歩きながら、声に出さずに懇願した。
『もっと歩かなきゃ駄目だ、ジェヒョク。まだ通り過ぎてない』
残る扉が少なくなるにつれ、焦り始めた。
『もしかして、階を間違えてないか?』
ジェヒョクが足を止めた。
鍵が回り、引き抜かれると、ドアノブが白い息を吐いたように見えた。
僕はぼんやりと立ち尽くしたまま待った。どうしても息ができなかった。
やがて、真っ白な足が角を曲がり、慌ただしく歩いてきた。
死が僕を迎えた。
僕はかろうじて言った。
「こんにちは、お母さん」
ジェヒョクのお母さんは首に皺が多かった。
顎には大きなほくろが一つ、小さなほくろが二つあった。
乾いた唇には、いくつもの皺が刻まれていた。
そこから上は、想像に任せた。
女手一つで息子を育てた年老いた女の顔が浮かんだ。
目の前に降り注ぐ言葉は優しく穏やかで、真っ白だった。
両親のことも、匂いのことも尋ねなかった。そして、食事の間中ずっと、僕を不憫に思っていることを悟られまいとしていた。僕は、ジェヒョクのお母さんが僕の母親になりたがっているのを感じ取ることができた。
けれど、僕は後ずさりするように距離を置いた。
永遠のように長い夕食だった。
「もう遅いから、泊まっていったらどう?」
僕は丁寧に断った。
朝には祖母が来るからという言い訳をして、逃げるように家を出た。
廊下を抜け、静まり返った箱に乗って下り、もう一つ扉を開けて振り返るまで、白い匂いはお母さん一人だけだった。
ジェヒョクは隣で、耐えられるだけ耐えていた。
ようやく僕に尋ねたとき、僕はお母さんの唇を思い浮かべていた。
「お前、今日どうしたんだ?」
薄月は雲の後ろに隠れてしまった。
僕たちはバス停に座っていた。
ジェヒョクに聞かれても、僕は固く口を閉ざしていた。空車のタクシーが2、3台、僕たちの様子を窺いながら通り過ぎていった。
「ジェヒョク」
「うん」
僕たちが互いの名前を呼ぶということは、普段とは違う人になったということだ。
やがて僕は、2つ目の秘密を打ち明けた。
咲き乱れる薔薇と薔薇の香り、花粉、そして白い匂いと死が瞬く間に通り過ぎていった。
あの日が猛暑に沸き立つ真夏だったとしても、ジェヒョクは僕の話を信じただろうか?
前の日に積もった雪が真っ黒に変わっていたら?
ジェヒョクのお母さんに会う前に、一つでも死と出会っていたら?
秘密を話し終えると、ジェヒョクは静かに夜空へ視線を向けた。
僕はあのとき、白い雪が降ることを願った。
そうであれば、秘密の最後を嘘で締めくくっていたもしれない。
雪は降らなかった。
代わりに、僕はジェヒョクの目を覗き込んだ。
突然、隣から飛び出したジェヒョクが通り過ぎたばかりのタクシーを呼び止めた。
車のドアが閉まる直前まで、ジェヒョクは何も言わなかった。
タクシーが走り出してから、ほどなくして朝が明けた。
ジェヒョクに無理やり病院へ連れていかれたお母さんは初期の乳がんと診断された。幸い手遅れではなく、がん細胞は転移しておらず、十分に完治が見込める段階だった。
医師は感嘆し、お母さんは泣き崩れた。
ジェヒョクは、おそらくその中間だったのだろう。
その場で手術の日取りまで決め、お母さんは数週間後に入院した。
けれど、僕はその知らせを聞いても嬉しくなかった。
なぜ?
僕は視覚障害者のように、暗闇の一角をじっと見つめていた。
静かに理由を探っていると誰かが玄関の扉を叩いた。
扉が開いた瞬間、僕の高貴な能力が的中したのだと悟った。
ジェヒョクとお母さんにとって、互いがすべてだった。
ジェヒョクの父親はひき逃げ事故に遭い、15年もの間、半開きの目のまま歳月を過ごした。
犯人が捕まらなかったため、行き場を失った怒りは、それぞれの胸の内へ、ときには互いへ、そして夫と父親へと向かった。
ようやく死が訪れ、時間がその後に続くと怒りはきれいさっぱり消えた。
いや、今日まではそうだと思っていた。
実際には、胸の奥深くに火種が残っていた。
乳がんという言葉が薪となり、炎は喉元まで燃え上がったのだろう。
以前味わった苦しみが繰り返されるのなら、母と息子は喜んで手足を投げ出し、その燃え盛る怒りに身を委ねたはずだ。
けれど、奇跡が起きると、炎は再び鎮まった。
以前と違うところがあるとすれば、今では2人ともその火種の存在に気づいているということだった。
真っ黒な灰の山の中で、赤くどくどくと脈打っている。
2人は時折、それぞれの部屋でその脈動に注意を払い、警戒しながら一生を生きていく。
僕から見舞いに行く約束を取りつけて、ようやくジェヒョクは泣きやみ、家へ帰っていった。
扉が閉まり、上の明かりが消えた瞬間、ずっと目を背けてきた真実が崩れ落ちた。
僕が嬉しくなかった理由。
この世に、ジェヒョクのような人が果たして一人しかいないのだろうか?
僕を通り過ぎていった数え切れない白い匂いの中に、これ以上に切実な事情はなかったのだろうか?
白い匂いとは、実は死を目前にした人が懇願し、縋りつきながら放つ悲鳴だったのではないだろうか?
僕は、数え切れない唇を思い浮かべるようになった。
あの頃は、そうだった。
道を歩いているときも、会計をしているときも、目の前であの匂いを漂わせる人がいると、僕はどうしても目を合わせることができなかった。
だから、唇までしか視線を上げなかった。
唇の形は人によって違うけれど、歪む瞬間、一つの唇へと変わる。そして両脇から、真っ白な二筋が流れる。
僕は時折、その姿を悪夢の中で確かめた。
けれど、その夜は眠りにつくことができなかった。
誰が出てくるかわからない夢は、あまりにも恐ろしいからだ。
あの日以来、僕たちはそのことを一度も口にしなかった。
結局、僕は見舞いには行かなかったし、ジェヒョクもそれ以上は言わなかった。
だが、ジェヒョクのお母さんは違った。
僕が訪ねた翌日に奇跡が起きたこと、夜明け前に家へ帰ってきたジェヒョクの表情がただならなかったこと、そして、自分の目にはとても優しい子に見える僕が見舞いに行くことを拒んだこと。
それらから考えて、何かを感じ取ったに違いなかった。
そしてついには、自分と息子が炎に焼かれずに済んだのは僕のおかげだ、という結論に辿り着いた。
だからだろうか。
お母さんは退院してから数年間、ジェヒョクを通して欠かさずおかずを送ってきた。
断っても無駄だった。
そのたびに、負担感で息が詰まりそうになった。
「ソファ、よく考えて」
ジェヒョクが言った。
あの日の記憶を押し流そうとするかのように、全身をワインで満たしたジェヒョクはふらつきながら家へ帰っていった。
僕は、すべてを覚えているリビングの床に横たわっていた。
体を丸め、両腕で自分の体を抱きしめた。
母が白くなったあの日を思い出した。
あのときも、僕はここに横たわり、母の匂いを嗅いだ。母はあの扉を開けて駆け寄り、僕に死を漂わせた。
そして、また……。
喉が熱くなり、頭がぐるぐると回った。ワインがお腹の中でぐつぐつと沸き立った。
それでも、次第に落ち着いていった。
だから、目を閉じてみた。
ほどなくして、太った指先が僕に尋ねた。
「このノート、何?」
*大学修学能力試験
>韓国で大学に入学するために、高校生が受験する試験です。 日本での「共通テスト」と似ています。
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