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匂いの色  作者: ゆず
第1章 ライラック
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11/21

ライラック 10

私は韓国人の小説家です。

2年前に出版した自分の小説を日本語に翻訳し、こちらで連載することにしました。

不自然なところがあったりするかもしれませんが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。

ありがとうございます。

「それで、なんで俺を呼んだんだ?」


 聞き慣れた声に視線を上げると、ジェヒョクが目の前に現れた。鋭い目で僕を睨みつけていた。


 僕は、今しがた眠りから覚めたばかりの人のように周囲を見回した。


 テーブルの向こうにはジェヒョクが座っていて、僕は腕を組んだまま壁にもたれていた。


 僕は落ち着いて聞いた。


「俺、何か話したっけ?」


 ジェヒョクがかっとした。


「何も言わないから聞いてるんだろ!」


 僕は平然を装い、手に持っていた何かを口元へ運んだが、カップの中では固まったコーヒーのカスだけが僕を見上げていた。


 僕はカップをそっと置いた。


「昨日、ブックカフェである女の人に会った」


 ジェヒョクの目がきらりと光った。


「女?」


 普段、僕たちの会話に女が登場することはめったになかった。特に、僕が話すときは。けれど、ジェヒョクはずっと僕の話に女が登場することを望んでいた。


「本を借りに来た人なんだけど、名前はタンミだって。もしかして知ってる?」


「タンミ?」


 ジェヒョクはじっくり考え込んだ。


「初めて聞く名前だな。そんな学生も見たことない。でも、その女がどうした?」


「違う匂いを漂わせてた」


「どんな匂い?」


 僕は身を乗り出し、声を潜めた。


「薔薇」


 その言葉を聞くと、ジェヒョクは僕の後ろをちらりと見た。


 僕とその向こうを交互に見ながら、知らぬ顔をした。


 そこには、一つの扉がある。


 黒と白がほとんどを占める家の中で、目立たない灰色の扉。


 僕は振り返らなかった。


 ジェヒョクは諦めて尋ねた。


「ただ勘違いしただけじゃないのか? お前、もともと別の匂いを嗅ぐだろ。何だっけ? 死の匂い?」


「白い匂いだよ、馬鹿」


「ああ、それ」


 ジェヒョクは笑いを堪えた。


「前から気になってたんだけど、その匂いって正確にはどんな匂いなんだ? つまり、俺が知ってる匂い

 で言うと」


「それは……」


 僕はためらった。


「俺にもわからない」


 僕は、白い匂いが実際に存在する匂いなのか確信が持てなかった。


 もともと何かの匂いを嗅いでも、それに似合う形容詞と色が同時に思い浮かんだけれど、白い匂いは違った。色よりも、死という言葉が先に浮かんだ。


 でも、死はこの世に存在すると言えるのだろうか?


 僕は鼻で、たまに目でもそれを感じ取ることができる。


 けれど、果たして死が存在すると言えるのだろうか?


「なのに、別の匂いがしたって?」


「間違いない。白い匂いとは違う。俺が嗅覚を失ったあの日と比べれば、あまりにも微かだけど、薔薇の香りに間違いない。あの香りは、俺が唯一覚えている匂いなんだ。実は昨日まで、すべての匂いを忘れたと思ってたんだけど、あの女に会って突然思い出した」


「薔薇か……」


 ジェヒョクは顎をさすりながら、再び考え込んだ。何か思いつくたびに口を開きかけては、また固く閉ざした。


 しばらくしてようやく口を開いたとき、僕は聞き間違いであってほしいと思った。


「今、何て言った?」


「とりあえず、飯にしようって」


 僕は軽蔑の眼差しを向け、言葉を詰まらせた。


「今さら言うことが、たかがご飯?」


「たかがご飯って、ひどいだろ。お前から電話かかてきて急いで来たから、夕飯も食ってないんだぞ。それに、見る限りお前、今日何も食ってないだろ?」


 ジェヒョクは紙袋をテーブルの上に置いた。


「母さんが、今は持たせるおかずがないから、とりあえずこれだけ先に持っていけって」


 テーブルの上に、プラスチック容器が次々と積み上がっていった。


「ちょっと足りなさそうだけど、何か頼むか?」


「好きにして」


 僕はため息交じりの声で言った。


「俺はコーヒーでも飲むわ」


「また? さっき3杯も飲んだだろ」


 食器棚をいくら探しても、出てくるのは空になったコーヒーの箱しかなかった。


 僕は深くため息をついた。


 そして、言った。


「俺、カードない」

#読んでいただき、ありがとうございました!

ブックマークや評価「☆☆☆☆☆」で応援していただけると嬉しいです!

よろしくお願いします!


※もし韓国語を勉強している方や、韓国語に興味のある方がいらっしゃいましたら、お気軽にメッセージをください。韓国語の原文をお送りします。

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