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奏楽神話 〜君≠を救い出す旅路〜  作者: ぱんどいっち 
半神と異世界転生者の二重奏 第1番
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第五楽章 「凸凹コンビと、初めての依頼」

 翌朝。カイルとミナトが真っ先に向かったのは、街の中心部に鎮座する石造りの巨大な建物――『冒険者ギルド』だった。

 

「いいか、ミナト。僕たちの目的はあくまで情報の収集だ。だが、この街で腰を落ち着けて動くには、最低限の路銀と『身分』が必要になる。冒険者登録はその両方を解決する最短の手順だ」


「分かってますって。……うおぉ、マジでギルドだ。酒の匂いと鉄の匂いが混じってる感じ、まさにテンプレ……!」


 カイルの冷静な分析を余所に、ミナトはキョロキョロと周囲を見回してはしゃいでいる。その様子を、カイルは「……ため息が出るな」と呆れ顔で見下ろした。

 受付に向かった二人に提示されたのは、最も低い『銅級』の登録証と、初心者向けの依頼板だった。


「さて、カイルさん。ここはやっぱり、森の奥に潜む強力な魔物の討伐とか……」


「却下だ。今の君の装備と体力でそんなものを受ければ、数分で僕の仕事が『君の死体回収』に変わる」


「言い方! もっとオブラートに包んで!」



 カイルが迷わず指差したのは、地味な依頼が並ぶ一角だった。

『薬草の採取』『街の外壁補修の手伝い』『地下水道の鼠退治』。


「……これだ。『地下水道の異変調査および害獣駆除』。報酬も悪くないし、何より地下道は街の深部まで繋がっている。情報の売り買いが行われる裏社会の連中と接触する機会があるかもしれない」


「……カイルさん、発想が完全にプロのそれなんすよ。俺、鼠とか普通に怖いんですけど」


 結局、二人は薄暗い地下水道へと潜ることになった。




 松明の火が湿った壁を照らし、不気味な水音が反響する。


「ヒッ、今なんか足元通った! カイルさん、絶対デカいのがいますって!」

「黙っていろ。……来るぞ。右だ」


 カイルが短く命じた直後、闇の中からミナトの体格ほどもある巨大な鼠――ジャイアントラットが飛び出してきた。


「うわあああ! きたあああ!」


 ミナトはパニックになりながら、昨日カイルからもらった(護身用の)短剣を滅茶苦茶に振り回す。もちろん、そんな素人の攻撃が当たるはずもない。


「ミナト、伏せろ!」


 カイルの声と同時に、ミナトが泥水の中に顔を突っ込むように倒れ込む。

 その頭上を、カイルの指先から放たれた極小の魔力弾が通り抜けた。

 

 ドシュッ、という鈍い音。

 巨大鼠の眉間を正確に撃ち抜いた一撃。カイルは力を極限まで抑え込み、周囲の構造を壊さない程度の、けれど一撃で命を絶つ最小限の出力で制御していた。


「……立て、ミナト。いつまで泥を啜っているんだ」


「……ぺっ、ぺっ! 死ぬかと思った……。カイルさん、今の攻撃絶対見た目のサイズに対して『極小』じゃないでしょ、威力が音速超えてませんでした?」


「無駄口を叩く暇があるなら、次を探すぞ。君も少しは役に立ってもらう。……君のその、この世界の常識に染まっていない『目』で周囲を見ていろ。僕たちが当たり前だと思って見逃すような、些細な違和感でいい。何か気づいたらすぐに言え」


「えぇ……無茶言わないでくださいよ。俺、ただのビビりな高校生っすよ?」


「その『ビビり』の直感が欲しいと言っているんだ。行くぞ」


 カイルは突き放すように言ったが、その瞳は常に、ミナトの死角をカバーするように動いていた。

 知略と武力で圧倒するカイルと、情けなく叫びながらも、現代人の感覚で「あ、こっち、なんか排水の向き変じゃないですか?」と、カイルが盲点とする部分を突くミナト。

 噛み合っているのかいないのか分からない二人の、初めての「共同作業」は、地下水道の深い闇の中、騒がしく続いていくのだった。




 巨大鼠の骸を越え、さらに地下水道の奥へと進む。湿気は重くなり、漂う臭気も獣のものから、えた生活臭へと変わっていった。


「カイルさん……ここ、明らかに鼠のナワバリじゃないっすよね? 壁に落書きとかあるし、なんかヤバい空気しかしないんですけど」


「静かにしろ、ミナト。……ここから先は『鼠』ではなく、『ドブネズミ』の領域だ」


 カイルは松明を消し、指先を小さく鳴らした。微かな魔光が二人の足元だけを淡く照らす。

 辿り着いたのは、下水路が合流する広大な空間だった。そこには、地上から弾き出された者たちが身を寄せる、粗末なテントや焚き火が点在していた。


「――止まれ。それ以上は『通行料』が必要だぞ、兄ちゃんたち」


 闇の中から、ボロを纏った数人の男たちが現れた。手には錆びた短剣や棍棒。彼らの目は、獲物を狙う野犬のように濁っている。ミナトはヒッと喉を鳴らし、カイルの背後に隠れた。


「おいおい、片方はお貴族様みたいな顔して、もう片方は……なんだその奇妙な服は? どこの密偵だ?」


 男たちがじりじりと距離を詰める。だが、カイルは眉一つ動かさず、冷徹なまでの静謐さを纏ってそこに立っていた。


「……身分や服に興味があるなら、別の機会にしてくれ。僕は情報の先物買いに来ただけだ」


「あぁ? 先物買いだと?」


 カイルは懐から、ギルドで受け取ったばかりの前払い分の硬貨が入った袋を、無造作に男たちの足元へ放り投げた。石畳に硬質な金属音が響く。


「名乗るほどの者ではない。だが、覚えておいてほしい。今後、この街に『白銀と黒銀の双子』、あるいは『角を持つ巨漢』、『風を纏う勇者』が現れたという噂が流れたら、誰よりも早く僕に伝えてほしい。これはその予約金だ」


 男たちは顔を見合わせた。殺気立っていた空気が、カイルの圧倒的な「格」と、迷いのない金銭の提示によって、戸惑いへと変わる。


「……そんな連中、今は聞いたこともねぇな」


「だろうな。だから『いつか』と言っているんだ。僕は冒険者ギルドに登録しているカイルという名だ。もし確かな情報を持ってくれば、その袋の中身など端金はしたがねに思えるほどの礼を約束しよう」


 カイルの瞳が、一瞬だけ鋭く光った。カイルの放つ威圧が、針の先ほど鋭く男たちの肌を刺す。


「……理解できたか?」


「あ、ああ……分かったよ。裏の耳を舐めるな。何かありゃ、ギルドに使いを出す」


 男たちが毒気を抜かれたように引き下がっていく。



 カイルはそれを見届けると、すぐに踵を返した。


「……カイルさん、マジで心臓に悪いっすよ。あんな連中、話が通じる相手に見えなかったのに」


「通じるかどうかはどうでもいい。僕の『名』と『探している特徴』を、街の最も汚れた場所に植え付けることが目的だ。情報は上からではなく、下から流れるものだからね」


 カイルはそう言ったが、その表情はどこか疲れていた。

 まだ何の手がかりもない。けれど、こうして種を蒔き続けるしかないのだという焦燥と、隣で「カイルさん、今の交渉術、裏ボスの風格でしたよ」と能天気に喋るミナトの存在。


「……さっさと地上に戻るぞ。泥水で喉が渇いた」


「賛成! 報酬で美味いもん食わせてくださいよ、カイルさん!」


 初めての依頼は、こうして「未来への種まき」という、カイルらしい合理的な形で幕を閉じた。

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