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22話

 「戸井は死にそうか?」


「はい。間違いなく」


戸井が校長のやり取りの末、退室したところを見届けていた。

意識が朦朧(もうろう)としているようだった。俺が声をかけても、反応をしないくらいに。

そして玉川に確認していた。


「いつになる?」


「まだわかりません」


「おいおいそれじゃ困る」


「透さん。いじめられた人が自殺する時はサインがあります。それは、説明が難しいです。一概に言えません。嫌な予感、これをキャッチしないと始まりません」


「じゃあ嫌な予感はあるか?」


「無いです」


「どうして? ふわふわした内容でもいい。教えろ玉川」


「戸井さん朦朧としていましたよね」


「ああ」


「あの状態は嫌な予感のゼロです。自殺には、死んでやるっていうエネルギーが必要なんです」


「今さらだが、死なないんじゃないか? いじめをなくすという意志がある。目的意識のある奴が自殺をするか?」


「いえ。彼は、いじめられた中で、いじめを本気で無くそうと考えています。答えのないものに答えをひたすら探そうしています。その結果は諦めるか破滅しかありません」


「わかった。そしたら俺らはその時を待つだけだな」


「はい」




 翌日、戸井はというと、何事も無かったかのように登校した。

不登校になるという杞憂は終わった。

その杞憂も計画の破綻まではいかないが、一番いいルートでは無いのは確かであった。


とりあえずは、上々。

死ぬなら、学校で死んで貰いたいものだ。

ただ、当の本人は、普段に戻ってしまった。

それの方が問題だ。

思い描いたストーリーの根本が崩れ去る。


「透さん。戸井さん今日死にます」


「…は? どう考えて死ぬような様子じゃないだろ」


「どん底から急に普段通りにしているのが異常なんです。死ぬってエネルギーとしては充分です」


「…わかった。メディアの手配をしとく」




 「戸井の様子変だよね」


「そのようですね」


執拗な補佐役の妨害は唐突になくなった。

辞退するつもりはなかったが、起こったことが急になくなったのは、何かあったに違いない。


「…」


 原因を思索するが、判断材料が少なすぎる。

いじめを許さないというところから僕らは戸井に(主に阿多谷)嫌がらせを受けた。

しかし続くかと思ったそれは、なくなった。

対抗策を使わずに済むにこしたことは無いが、不気味だ。

こちらは、戸井という人間をよく知らないのだ。


「ちょっといいかい?」


呼び主へ振り向くと、校長だった。


「何ですか?」


「君らに伝えたいことがあってね校長室へ来てくれ」


 そう言われて、校長室へ向かった。


「来てくれてありがとう。用というのは、戸井君についての事だ。彼は、今日死ぬことになる。だから君らには、それが学校で起きたらを阻止して欲しい」


「解せないですね。それがわかっていて学校内で対応しないのですか?」


「私が蒔いた種だからね」



「「?」」


「私が戸井君を追い詰めたのです」


「「! ?」」


「君らが向井間君の思惑を止めたいのは知っている。だから必ず阻止してくれる。期待しているよ。話は以上だ」

 

 坂井君らを退出させ、思いにふける。

どんな華が咲くか楽しみだ。




 体が軽い。昨日の僕とは、大違いだ。

いじめを撲滅するという使命感を放棄したからだろう。

今いるのは、屋上。自殺の名所。

腰以上の柵がついており、意図しなければ、落ちることは無い設計。


そんなのは、死ぬ意思を持っているものには無意味だ。

僕が死のうと考えていない時は、この柵も飛び降りないように、設計するように打診しようと考えていたっけな。

過去の馬鹿な僕が早まらなくてよかった。

おかげで死ねる。


いじめを無くそうとしていた。

今思えば、この考えは破綻していた。

飛び降り自殺をさせない考えが脳裏にあったのは、いじめは止められないものだと本心のどこかで気づいていたからではないだろうか?

変えられると、酔っていたかったのではないか?


さて、そろそろ死のうか。柵に手をかけた。


「48」


「誰だ! ?」


振り向くと声主が、目の前にいた。


「大分自分の世界にいたね。さっきの数字は戸井君が柵に手をかけるまでの秒数。そしてそれは、君の様子を確認できた時間でもあるよ。戸井君。」


「何が言いたい? 坂井」


「自殺するにしては、未練たらたらだね」


「黙れ」


「無視すればいいじゃないか。自殺をするのなら」


ああ、やってやるよ。

ガッコ


「! ?」



コンコン。ガチャ。


「どうしたんだい?話は終わったはずだよ?」


「いえ、こちらは、終わっていません。それにあの時だと校長が気持ち悪い顔になる気がしたので」


「…話なさい」


「戸井君の自殺を阻止するので、協力してください。しなければ、阻止できません。」


「なるほど。具体的何をして欲しい」


「柵に透明の粘着剤をつけるようにしてください。それと…」




「なんだこれ…くっついて」


「捕まえさせてもらいます」


くっつき横着している間に、阿多谷も来た。

腕を掴む。


「くっ離せ阿多谷」


「それよりも、先に粘着剤をどうにかしては? 剥がせられない程ではないですよ」


「っ。…剥がしたんだからどけよ」


「それでは、僕の腕を切って下さい。こちら刃物」


「は?」


「自殺するならそれくらい雑作もないですよ。無論、実行すれば、一生恨みますがね。あと、死んだ後天国と地獄がある話があるじゃないですか。あれ、あながち間違ってないと思うんです。死ぬ前の最期の記憶、感情状態が死後に左右されるっていう話もありますから。だから戸井君はどのみち自殺で嫌な気分でしょうし、死んだ後も地獄ですね」


「やめろ。やめろやめろやめろ」


「与太話に振り回される位なら死ぬのなんてやめろ」


そう言った皮切りに、阿多谷の掴みに入る力は強くなった。


「言っとくが、俺にした仕打ちを許したつもりはない。だからそれを蔑ろにして棒に振るというなら…最悪な気分で死ね。さぁ死ねよ! 死にたいんだろ? 抵抗する術を渡したんだ。逃げないんだから殺れるだろ? はやく殺れ! 今すぐ殺れ。そしてこのを恨みを最期の記憶として刻み込んで死ね。死後囚われろ」


「あ…あ、あああ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない…あ」


 そこから、戸井の意識がなくなり、自殺行為は途絶えた。


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