一時的な帰宅
ノアは、ハッとして立ち上がる。
「あの、師匠が時間が出来たので来るそうです。」
すると、皆が驚いてから笑う。瞬間に、薬草独特の香りがふわっとしてユラが現れる。
「全く、観光は出来たのかい?」
「師匠っ!」
ユラは、少し困ったように笑う。ノアは、ユラに縋るように抱きつく。幼いのだ、やはり寂しかったのだろうとユラは大人しく受け止める。
「さて、お久しぶりだね。」
カリオスは、ニコッと笑って言う。
「お久しぶり。君は、本当に運が良い………。」
ユラは、真剣にそう呟くと怒るカリオス。
「何が、運が良いんだい?仕事を奪われ、仲間達の仕事さえも奪うかもしれないのに!こんなの………」
「もし、古竜が本気で君を殺す気なら、君はここには居ないよ。竜の呪いは、とても強力で抗う事すら出来ない。でも、その古竜は君を呪わなかった。」
すると、全員が説明を求める視線でユラを見る。
「古竜はね、認めた相手は殺さないんだ。」
カリオスは、驚いて固まる。
「だから、カリオスを襲った古竜と、同等かそれより下の竜が君を襲うことはもうない。」
「そうなんだ。でっ、この祝福紋様は?」
すると、ユラは複雑な表情でカリオスを見る。
「変異紋様。古竜が、強さを認め仲間に誘うために送る紋様だよ。その効果で、カリオスの種族はドラゴニアンになってる。僕も、正直に言うと驚いてるんだけど。でも、紋様を与えた竜は死でるね。」
「……ドラゴニアン?」
ユラは、ドラゴニュートとドラゴニアンの違いを教える事にする。ドラゴニュートは、半分以上の血が人間よりでドラゴニアンは半分以上の血が竜よりなのだと。ちなみに、ドラゴニアンはドラゴニュートより珍しく正体を隠すべきだとも。
「カリオスも、これで長命種族の仲間入りだね。」
ユラは、白衣を靡かせ腕の傷を見る。
「ごめん、ユラ。何か、八つ当たりして……」
「別に、構わないよ。でも、暫くは軟膏を塗って包帯を巻いて絶対安静だからね。」
そう言うと、伸びをして小さく欠伸をする。
「師匠、また徹夜していたのですか?」
「うん、君が心配でね。」
過保護かっ!皆は、そう思った。
「さて、する事が出来たから遊んでおいで。」
ユラは、眼鏡をつけて歩き出す。
「やること?」
「うん、このままだと魔法騎士団は潰されるし、カリオスの関係者は出世できないからね。」
そう言うと、パーティー会場に入っていく。
「ユラ、お久しぶりだな。」
「ルピア陛下、お久しゅうございます。」
ユラと聞いて、貴族達は黙ってみている。
「それにしても、この国は私が見ぬ間に腐りましたね。ルピア陛下は、気づいておられるのですか?」
「魔法騎士団の件か?」
すると、ユラはニコッと笑ってから言う。
「はい。魔法騎士団は、必要です。ここで、失うのは大きな国の損失となる事でしょう。」
「黙れ!国に、戻ってこず貴族の仕事をしない貴族のクズが!御前は、国政に口を出すな!」
すると、ユラは笑った。しかも、声を出して。
「すみません、グズにグズと言われるとは心外ですよ。ラナヌ大臣、国家予算の着服に帝国との密通に人身売買を行う人間のグズの言う事では無いでしょうに?それに、まだまだ僕に言わせます?」
すると!ラナヌ大臣は、青ざめてから怒鳴る。
「ふんっ、証拠を出せ!無礼者が!」
「うん、そのつもりで帰ってきた。」
ユラは、あっさりと言うと鞄から紙を取り出す。
「まず、これは着服の証拠の帳簿。計算が、何度しても合わなかった。これは、密通の手紙。帝国がこれで脅して来たから殴り飛ばしたら置いていった。これは、奴隷商から譲ってもらった貴方が人をどのくらいの値段で売ったとか書いてある紙だよ。しかも、万年筆で名前まで書いてある隠蔽出来ない紙だからね。国家転覆罪です、お縄にかかりなさい。」
ルピアは、青ざめてラナヌ大臣をみている。
「魔法騎士団を、潰そうとしてたのは………」
「え?この国、一番の戦力だからですよ。帝国は、カリオスの実力を警戒してましたから。」
ユラは、普通に答える。
「………そうか。そやつを、捕らえろ!」
「くそっ、放せ!放さんか、馬鹿者ども!」
ユラは、苦笑している。
「お前、何で国に居ないのに知っている!」
「まさか、僕が何も知らないとでも思ったの?一応だけど、この国の現状はしっかり知ってるよ。だから、カリオスの治療の為に戻って来たしね。」
すると、ルピア陛下はユラを驚いて見る。
「カリオスは、魔法を使えるのか?」
「勿論、バッチリでございます。」
すると、喜びの声が周りから聞こえる。
「そうか、良かった………良かった!」
「さて、帰ろうかな。」
すると、ルピア陛下は白衣を掴む。
「待て、ユラ。まさか、飲み物すら飲まずにこの場を去るつもりか?せっかくの、再会なのだぞ?」
「残念ですが、養子に取った子供が居るので酒は控えているのです。ですから、申し訳ないですが。」
すると、会場がざわめく。
「ああ、ノア君だったか。礼儀正しく、少しだけ天然で可愛らしい子だったな。」
「お褒め頂き、光栄です。」
ユラは、嬉しそうに笑って言う。
「ユラ、感情が豊かになったな。」
驚いた口調で、優しくルピア陛下も笑う。
「ユラ、褒美に何か叶えよう言ってみよ。」
「魔法騎士団の復活ですかね。」
「それは、カリオスが完全復帰したらする。さてさて、他にはないのか?言ってみよ。」
ユラは、うーんと考えてから言う。
「カリオス関係者を、いつもの仕事に戻してください。そうすれば、国にも良い結果になります。」
「違ぁ~う!もっと、個人的なお願いだ!」
ルピア陛下が、御乱心だ。じゃなくて、個人的に欲しい褒美か………。それなら、言ってみるか。
「2年後、ノアを学園に通わせたいのですが。」
「分かった。なら、推薦状を用意しておこう。」
ルピア陛下は、嬉しそうに言う。
「ありがとうございます。」
「それでは、お茶を用意したぞ。」
紅茶を、差し出すルピア陛下。
「いいえ、白衣姿ですし場違いな格好なのでそろそろ退室をしようかと。では、失礼…………何で?」
「服を、お持ち致しました。」
ヴァイスは、服を差し出す。すると、カリオスが入ってくる。傷が、消えているのを見てドラゴニアンの能力だろうと思う。だが、帰らして……。
「ユラ、諦めな?ノア君も、今頃はメイドの着せ替え人間になってるだろうし。」
「はぁ………、苦手なんだけどな社交界。これなら、隠って研究していた方がましだよ。」
ユラは、愚痴を漏らしカリオスに押されながら会場を去った。そして、強制的にパーティー飛び入り参加するはめになったのだった。




