イリニ
僕は、母に憧れて医者になった。しかし、母は流行り病で僕が14歳の頃に亡くなった。父親は、幼い僕を、魔物から守って亡くなっている。僕は、母が良く話してくれた師匠ユラ様の話を思い出した。
僕は、貯めていたお金で王都に行き、国の医師試験に自力で合格した。そして、国から王宮医術師としてスカウトされる。指導は、ヘルズさんです。
でも、副団長の班に入れるなんてラッキーだよね。
まぁ、僕と同じ新人から不満は有るみたいだけど。と言うのも、現在は副団長は訳あって不在。
「イリニ、ユラ様が戻って来るらしいぞ。」
「え?」
ユラ様!?えっ、母から聞いた感じ種族は人間だったよね。だから、同姓同名の別人なはずだよね。
と言うか、副団長が戻って来る………。
いったい、どんな人なのかな?ヘルズさん達、ベテランの人達は嬉しそうに笑って掃除を始めてる。
まさか、潔癖症とかなんだろうか?
「ほら、お前達も手伝え。」
「嫌です!何で、10年も不在にした奴なんかの為に、掃除をしなければならないんですか!」
すると、ベガさんが少し考えてから言う。
「あのさ、資料庫のデータの9割が副団長の研究の成果なんだよね。それと、彼………ユラ様は退職届けを出していた。けど、それを拒否したのは僕達なんだよ。シアン団長も、苦労はしてたけどそれよりユラ様の帰りを待っていた。だから、自業自得さ。」
「まぁ、悪さをしなければ良い。」
ヘルズさんは、手を止めずに笑いながら言う。
「だって、良い仲間達だよなユラ。」
シアン団長の声に、全員が勢い良く振り向いた。隣には、黒髪で色白い美青年が疲れた表情である。
「あー、取り敢えず掃除は止めて良いよ。」
あれが、副団長のユラ様か………。
ユラ様は、自分の席に着くと書類を引き出しに入れた。すると、ヘルズさんとベガさんが机に向かう。
「「ユラ様、お久しぶりです。」」
「お久しぶり、二人には迷惑をかけてごめんね。」
ユラ様は、申し訳ない様子で2人に言っている。
「いいえ、気にしないでください。」
すると、新人がユラ様に近づく。
「何で、10年も留守にしたんですか!」
「おい、やめろタンタ!」
ユラ様は、真剣にヘルズさんを手で止めると言う。
「僕も、留守にはしたくなかった。でも、僕の立場がそれを許してくれなかった。皆には、とても迷惑をかけたと思う。それは、本当に申し訳ない。」
「立場って、侯爵のって事ですか?」
すると、シアン団長が机を拳で殴り言う。
「それは、詮索なんじゃないか?」
「でも、10年ですよ!」
タンタは、怒りを押さえられない様子で言う。
「だからどうした?」
「えっ…………」
「だから、どうしたって言ってるんだ?」
「団長が、どんなに苦労したか。」
すると、シアンは鼻で笑った。
「お前に、俺の何が分かるんだ?俺は、1度も苦労したと思った事は無いが。そもそも、自業自得で仕事が増えたのにユラに怒るのはお門違いだ。」
ユラ様は、ベガさんから資料を貰い筆を動かす。
「…………でも、納得できないです!」
「僕の種族は、神様なんだよ。しかも、高位の神で竜神だからさ。どうしても、何かあれば神様のお仕事や問題に巻き込まれてしまうんだよね。」
ユラ様は、筆を止めることもしないで言う。タンタは、シアン団長を見ているが頷かれるだけだ。
とにかく、お茶を入れて持っていこう。
「あっ、あの………」
「ん?」
うわぁ~、近くで見るとかなりのイケメンだ。
「その、お茶を入れて来ました。」
「ありがとう。」
そして、ユラ様は書類や資料をなおす。
「それにしても、会えるとは思わなかったよ。」
「へっ?」
すると、シアン団長もキョトンとしている。
「ノアは、元気にしているかな?」
まさか、さっき神様だって言ってたし………。
シアン団長が、動揺して僕を見ている。シアン団長は、名前は出してないけど、母が死んでいるのは言ってあった。ユラ様は、察したのだろう。
「そう、亡くなったのか………。」
少し、悲し気な表情で呟く。
「あの、母の師匠……ユラ様ですか。」
僕は、緊張した声で言う。
「そうだよ。君の、お爺ちゃんでもあるけど。」
すると、その場の人達がざわめく。
「どういう?」
「僕が、捨て子だったノアを養子にしたんだよ。でも、平民に恋をしてさ。自由に、生きて欲しくて養子から外したんだ。でも、僕からしたら縁は切れても大切な娘だよ。そして、娘の子供だから孫。」
ユラ様は、とても嬉しそうに優しい笑みを向ける。
「……………。」
戸惑いに、言葉が出てこない。聞きたい事が、沢山あった気がするけど何も思い浮かばない。
思わず、言葉に出来ない思いが涙になって溢れてくる。やっと、見つけた……たった一人の家族。
「おやおや。シアン、少しだけ席を外すよ。」
「そうだな、泣かしたんだしどうにかしろ。」
シアンは、優しく笑って頷く。
「えっ!?これって、僕が泣かしたの!?」
ユラ様は、僕の肩を押して休憩室に入った。
「何か、申し訳ありません………。」
「良いよ、気にしないで。」
そう言って、ユラ様はハンカチを渡してくれた。
「あの、ユラ様………。」
「ん?」
「今年から、医療班に入りました。その、よろしくお願いいたします。私も、頑張ります。」
「はぁ……、硬いよ。そうだ、君の父親は?」
ユラ様は、ため息を吐き出し話題を変える。
「僕が、幼い頃に死にました。」
「そう、今までどう生活してたの?」
「少しも、遺産があったので。」
何か、心配させてしまったみたいだ。
「そう、何かあれば相談にのるからね。」
たぶん、何かあっても僕はこの人を頼らない。いいや、頼れない。何か、そんな気がするなぁ。
「はい、ありがとうございます。」
ちなみに、ユラは直感的にそれを感じていた。それは、別の話で触れるのでスルー。
「じゃあ、イリニ仕事に戻ろうか。」
僕は、笑ってユラ様を追いかけた。




