第3話 后候補バトルロワイヤル勃発!?②
――現代・由奈の部屋――
その時、スマートフォンに更新通知が来た。
『第3話 后候補との面談』
由奈は祈るような気持ちで、物語の続きを読み始めた。
『レオンハルトは玉座に腰を下ろし、眼前に立ち並ぶ三人の女性を見渡した。
背筋を伸ばし、王としての威厳を保つ。
それが彼にとっての正しいと思われる姿勢だ。』
この冒頭の文章を見た瞬間、由奈の脳裏に最悪の予感が駆け巡った。
《《彼にとって正しい》》。
正しい?
この威厳ある姿を三人の女性に見せることによって?
「やば……絶対やらかすパターンかも……!」
急いで本文を読み進める。
そして――
『よく来てくれた、お前たち。感謝しよう』
この一文を読んだ瞬間、目を見開き由奈は絶叫した。
「ちょっと待てぇ~~~!」
由奈は頭を抱えた。
(なんなのこの初手の挨拶! 初対面の妃候補の女性たちに向かって『お前たち』言うし! 何この『感謝しよう(棒読み)』みたいな言い方!! しかも『しよう』ってなんなのー!)
王様の発言で、場が凍り付き三人の妃候補たちの反応が悪くなっていく。
さらに読み進めると――
『これだから女の心情など理解しがたい』
「あぁ!!」
予想的中。
やっぱりこの王様はやらかした。
「もう~~~~なによ、これ~~~~!」
由奈は布団の上でスマートフォンを握りしめ、転がっていた。
「……そうだ! 読者コメント!」
由奈は必死でコメント欄を開いた。
【コメント欄】
読者A: 王様、これはひどいwww
読者B: 后候補全員敵に回してて草
読者C: この王様、恋愛スキルゼロどころかマイナスでは??
読者D: 前世で暗殺されたの納得した
「ですよねー! やっぱりみんなそう思うよ……」
由奈は深くため息をついた。
(それにしても……)
再び読み返して気づく。
『陛下、ここは皆様に別室でお休みいただき、改めてお話を……』
「ここのシグルさんのアシストが神すぎるわ……」
レオンが沈黙で場を凍らせた後、宰相シグルが機転を利かせて一旦仕切り直しを提案した。
あのまま放っておいたら一向に話が進まなかっただろう。
「これよ、これ。 王様のヤバさを完全に理解してる。 しかも、王の威厳を保ったまま撤退させてる! 有能な部下のフォロー! もっとお給料上げてあげて!」
完全に今回の話のMVPは彼だろう。
(そういや、うちの会社にもこういう人いたなぁ……。部長が変なこと言いそうになると、空気を読んで即座に『書類の確認をお願いします』とか『次の会議のお時間です』とかさりげなく止めてた。あれ、全部フォローだったんだよね)
間違いなく、シグルが現代にいたら有能すぎてみんなから絶大な信頼を得ているだろう。
『こんな調子ではまたうまくいかないのでは……』
「ほらぁ~! シグルさんも心配してるし!」
由奈は思わず画面に向かって叫んだ。
「分かる! 分かるよシグルさん! その不安、めっちゃ分かる! 私も不安しかない!」
(この人、絶対に腹の中で『またか』って思ってるわ。でも王様には直接言えないんだよね。立場的に)
その立場は、現実世界の夫に対する自分と同じように思えて、妙な親近感を由奈は感じていた。
「はぁ~……次に会った時、まずシグルさんへの感謝の伝え方から教えないといけないなぁ……」
由奈はそう呟きながら、画面をスクロールし続けた。
そして――その時だった。
『……お前か』
突然、頭の中に声が響いた。
由奈は一瞬、呼吸を忘れた。
「……王様??」
『ああ。お前の絶叫がやかましい位に聞こえた』
「え、あ、ごめんなさい。つい……」
『いや、構わない。それより――』
「あ、その前に!」
由奈は慌てて言葉を遮った。
「お前呼びじゃなくて、カヤって呼んでください」
『……カヤ?』
「はい。私の呼び名です。ずっとお前呼びされるのはちょっと」
レオンは少し間を置いてから、もう一度呼んだ。
『……カヤ』
「はい」
『分かった。ではカヤ、教えてくれ』
レオンの声は、珍しく戸惑いを含んでいた。
『お前も先ほどの場面を見ていたのだろうが……一体何がまずかったのだ?』
由奈は一瞬、言葉を失った。
思わず額をペチペチと何度も叩いて冷静さを戻そうとしている。
(あ~~~も~~~~! 本気で分かってない……!)
そして彼女は深呼吸をして、こう切り出した。
「あのね、王様。まずコミュニケーションの基本から教えるわ」
『……こみゅ……? 基本?』
「そう。人との接し方! まずは『ありがとう』の言い方から!」
『は?』
「あなたの『感謝する』は、温度がゼロなの!! 事務連絡じゃないんだから!!」
『……温度?』
「そう! 心が、気持ちがこもってないのよ!!」
レオンは沈黙した。
そして、ぽつりと呟いた。
『……では、どうすればいい?』
レオンの常に高圧的な態度とは逆の素直な問いに、由奈は少しだけ驚いた。
そして彼女は、真剣な表情で答えた。
「まず、相手の立場で考えること。彼女たちがどんな気持ちでそこに立っているか、想像してみて」
『……』
「リディアは政略結婚の駒として送られてきた。セレスは神殿の期待を背負ってる。カリナは、あなたに認められたくて必死なのよ」
『……そうなのか?』
「そうなの! だから、『よく来てくれた』じゃなくて――」
由奈は一拍置いてから、こう続けた。
「『遠いところ、ありがとう』とか、『緊張させてごめんね』とか、相手を気遣う言葉を添えるの!」
『……気遣い、か』
「そう! それが温度ってやつ!」
レオンは、しばらく黙り込んでいたが、小さく息を吐く音だけが返ってきた。
そして――
『分かった。試してみよう』
「本当に!?」
『ああ。言う通りにする』
由奈は、ほっと息をついた。
(よかった……! 否定されるかと思ったけど、聞く耳は持ってくれるんだ)
だが――次の瞬間、レオンがこう言った。
『それで、次は何を言えばいい?』
「えっ?」
『明日、再び后候補たちと会う。その時、どう声をかければいい?』
由奈はハッとなり、スマホの画面を見つめた。
小説の続きは、まだ更新されていない。
(……これって、もしかして……リアルタイムで物語が進んでるってこと!?)
彼女は慌てて答えた。
「ちょ、ちょっと待って! 今から作戦考えるから!」
『ああ、頼む』
由奈は深呼吸をして、頭をフル回転させた。
(よし……! まずは、一人ひとりに合わせた声かけを考えないと……!)
小説好きの主婦の本気度が、今試されようとしていた。
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